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時潮

時潮 事前通知を行わないって、どういうこと?
副理事長 疋田 英司
あらためていうまでもないが、日本国憲法は基本的人権の尊重を謳い(11条)、すべての国民は法の下に平等であると定める(14条)。そして公務員はこれらの定めを遵守する義務(99条)がある。

しかし、この規定が守られているのか疑問を持つことがある。それは国税通則法第74条の10(事前通知を要しない場合)の具体的な取り扱いである。ご承知のように、税務調査は事前通知を行うことが原則とされた。しかし、その例外規定として同条の規定が定められた。最近、無予告調査が全国で頻繁に行われており、その根拠としてこの規定が利用されている。

この規定と、先の憲法の規定を当てはめてみよう。
通則法の規定は税務調査の際に「事前通知をする人」と「事前通知を要しない人」を区分するものである。いわば差別的取り扱いの容認を規定している。税負担の公平という観点から事前通知をすることで公平性を保てないという合理的根拠があれば、やむをえないという考え方がある。しかし、国民を差別的に取り扱いする以上、憲法を拠り所とする日本の法律は、人権規定を無視した理解はなりたたない。当然に取り扱いは慎重にならなくてはならない。

国税通則法の規定はどうなっているか?
事前通知を要しない場合の条文を分解する。判断の基準となる情報は以下の4点と定めている。いずれも国税庁や税務署が保有する情報である。
  • ① 納税義務者の申告
  • ② 過去の調査結果の内容
  • ③ その営む事業内容に関する情報(後に国税庁通達で「現金商売」というだけで、この根拠にはならないと明らかにしている)
  • ④ その他国税庁等が保有する情報

この4点の情報をもとに税務署長が当該納税者は以下の2点のいずれか若しくはいずれにも該当する人物と認定する。ここで、税務署長は納税者を選別して差別を行うことになる。きわめて人権にかかわる判断を行うことになる。
  • ① 違法な行為を容易にする人物
  • ② 不当な行為を容易にする人物

さらに、この条件に該当する人物が次の行為を行うおそれがあると判断されなければならない。いわば、違法行為=犯罪行為を行う人物、不当行為を行う反社会的な人物、公務である税務調査の遂行に支障を及ぼす=公務執行妨害の可能性を予断するのである。国民への差別を法的に容認する規定である。
  • ① 正確な課税標準等の把握を困難にする行為
  • ② 正確な税額等の把握を困難にする行為
  • ③ その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼす行為

問題は人物の認定にいたる判断過程である。
税務調査通達4-8(「違法又は不当な行為」の範囲)には、事前通知前に行った違法又は不当な行為が存在し、事前通知後に、違法不当な行為を行わず、適法な状態を作出する行為も含まれると定めている。これは、調査前に調査対象者が具体的な違法又は不当な行為を行っている事実の把握が前提である。いうまでもないが、任意調査に内偵調査は予定されていない。事前通知の前に調査を行うこと自体が違法行為であるからだ。

つまり、事前に違法不当な行為が明らかに存在し、もしくは存在すると推認できる客観的な条件が明らかであり、さらに調査の適正な遂行に支障を及ぼす行為を起こすであろうとする人物の認定が行われた上で事前通知を要しない人物を認定すると考える。

これらの基準に触れてみると、私たちの感覚であれば、税務署長は相当慎重な検討基準と資料をもって判断しなくてはならないと考える。

しかし、実際の調査の現場はどうであろうか。過去に調査を受けた経験のない零細事業者に対し、事前通知を行わずに臨場し、現在業務に使用されている資料を税務署に持ちかえるという押し込み強盗のような行為を行っている。もちろん、この例示は違法行為ではあるが、これらの行為が「事前通知を要しない場合」の法令を根拠にしているとすれば、この規定は見直しをすべきではないのか。少なくとも、運用面で厳格な憲法規定の思想が反映される結果にならなければならない。

このことに関する国税庁の考え方は平成24年11月国税庁課税総括課が発行した「税務調査手続き等に関するFAQ(職員用)」に現れている。その問2-8には、「法令上、事前通知を行うことなく調査を実施した場合にその理由を納税者に説明することは規定されていません」として説明を行わないことを職員に指示している。つまり、法律に書いていないことはしない。この指示が高圧的な税務行政の根幹となっている。

官はすべて正義であり、国民には善も悪もあり、公務員は悪を征伐できるという刑事物ドラマの主人公のような発想で運用が行われているように思える。いわば独善的な運用が横行しているのだ。

日本国は憲法を頂点とする法の支配を基本とする国家であり、治安維持法的な運用は認めてはならない。その原点には、人間は誤りを犯す可能性があるという謙虚な姿勢が求められる。

ところで、前述の判断基準の情報は、調査対象者が個人の場合、すべて個人情報である。差別的取り扱いの根拠であり、人権擁護の観点からきわめて重要な資料である。これは「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」の対象となり情報開示の対象となる。

同法には不開示とすることができる条件も定めている。国税に関していえば、同法第14条第1項第七号イに定める「租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」がある場合に限られている。つまり、調査開始前であれば不開示となる理由が書かれているが、調査開始後ではこの条件はなくなる。第三者の個人情報や国家の安全を脅かす機密などが書かれていない限り不開示となる条件はない。

この個人情報の開示は当該個人若しくは法定代理人からの請求しか法律は認めておらず、任意代理人(弁護士や親族など)の請求は認めていない。その点でも国民の権利保護の規定は門が狭い。

行政の現場の独善的な運用は、国の政治にも反映している。いや、国の姿勢が税務行政に反映しているのか。集団的自衛権、社会福祉切捨て、消費税増税など異論は平気で切り捨て押し通す政府の姿勢は、明らかに今の税務行政と軌を一にするものと感じる。

(ひきた・えいじ:大阪会)

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