リンクバナー
時潮

時潮 地方はあらゆる問題の集約点である
機関誌部長 清水 裕貴
ここにきて安倍首相は「地方創生」を言い始めた。秋の臨時国会に地方創生に関する法案を出し、地方の人口減を食い止める対策を急ぐのだという。11月の沖縄知事選、来春の一斉地方選を視野に入れた発言とみるべきである。地方選では今、日本で問題になっているあらゆる争点が問われる。

長引くデフレ経済に6年前のリーマンショック、3年前の東日本大震災と世界経済や災害によって地方は大きな打撃を受けた。地方の再生と復興はこれからも大きな課題である。これまで企業城下町を成すほどに地方を支えた日本の「ものづくり」の代表、自動車産業は「失われた20年」で衰退し、工場を新興国や市場隣接国に移転し、国内を空洞化させている。

「ものづくり」のもう一つの主力産業である電気・半導体産業は、これまで半導体を組み込んだカラーテレビ、テープデッキ、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン等を輸出し世界市場を制覇してきた。しかし90年代後半以降、世界的価格競争に巻き込まれ、半導体で韓国、台湾企業に敗北し、パソコン、テレビ、液晶でも敗退した。これらの結果、国内の「ものづくり」工場が閉鎖され、さらに下請けや従業員を巻き込み廃業やリストラを引き起こした。雇用と所得を提供してきた地方の産業が衰退し、人口の都市への流出は止まらない。

経済の事情だけでなく、国の政策も地方の衰退を招いた。2000年代に、小泉政権の「三位一体の改革」で国庫補助金削減、地方交付税削減、税源移譲がなされ財政を悪化させ新自由主義的構造改革が吹き荒れた。公務労働の外注化や公務員の非正規職員化などは国よりもむしろ地方の方が先行した。民主党政権時代から今日まで続く社会保障・税の一体改革も地方を衰退させる。年金、医療、介護という高齢者に関わる社会保障給付を削減し、消費税を増税するというものだからである。

物価スライド凍結分(△ 2.5%)を3年かけて実施し年金を削減すれば、年金だけに依存する世帯が多い地方に影響する。医療保険の窓口負担の増加は深刻な受診抑制につながる。介護保険でも要介護3以上の者しか特別養護老人ホームを使えないとなると入所待機者はさらに増加することになる。人口と富が都市に集まる一方で、高齢化と過疎化がすすみ地方の困難は増すばかりである。

さらに地方の衰退を招いた理由として岡田知弘氏は「政策の国際化」(「地域づくりの経済学入門」自治体研究社43頁)を挙げている。いわく「日本政府は、対米貿易摩擦を回避するために、海外直接投資を促進するとともに、資本と商品の積極的輸入を促進する経済構造調整(改革)政策を一貫して展開してきました。輸入促進政策の対象となったのは、農産物であり、中小企業性製品である繊維品、木工家具類等でした。このような積極的輸入促進政策の結果、価格競争に敗れた国内の農業や地場産業の衰退が加速することになりました」。

こうして見てくると、地方の再生のためには、改めて中小企業と農業に光を当てることから始めねばならない。もはや多国籍企業と化した大企業に甘い幻想を持つべきではない。むしろ応分の負担を求めるべきである。内部留保を取り崩して雇用や中小企業に還元することに異議は無いが、個々の多国籍企業の内部留保が、どこの国にある在外資産で構成されているのか、もう少し研究の余地はないか。

単なるスローガンから実現具体性を持った政策に前進させるべきである。中小企業による内需を中心とした地域内再投資によって地方の持続的発展を図っていく。農林漁業における地域内再投資は「その生産活動を通して、農地や山河、海といった国土環境を無償で維持している」(前掲144頁)のである。農業の振興は貨幣的価値に換算できない価値を持つ。

年金、医療、介護を含め持続可能な社会保障制度が維持されることを望む。地方財政問題でも地方消費税、地方法人特別税、外形標準課税など論点は多い。これから迎える地方選で是非が問われるのである。まさに地方があらゆる問題の集約点であるから、慎重に検討しなくてはならない。

(しみず・ひろたか:東京会)

▲上に戻る