論文

山梨県議会議員の特権意識に喝!
「海外研修」を「私的旅行」と断じた高裁判決が確定
東京会 山本 大志
本年5月山梨県議会の海外研修について「研修に名を借りた私的旅行であった」と断じた東京高裁判決(昨年9月)が最高裁によって確定しました。これにより県議らは約850万円の旅費の返還義務を負うこととなりました。

今回の判決の内容をひとことで言うと「県議たるもの見聞を広める程度では税金を使って旅行をしてはならず、その程度の『研修旅行』ならば自費で行きなさい」となります。

しかし彼らには自腹を切ってまで行こうという気が全くないと思えます。なぜなら彼らにとってはタダで旅行できるのが県議になったメリットの一つであるという「常識」の上に「県議なんだから、何かやりたいことがあったら、県の予算(=県民の税金)を使っていいに決まっている」という強い特権意識があるからです。

この裁判の間、県議らは同様の海外視察(一般予算1人当たり年間90万円)については自粛しています。有権者の目(選挙区の票)が少しは気になるのでしょう。逆に言えば、それだけ胸を張ってできるようなきちんとした研修はしていないことの証明でもあります。

ところが県民には余り知られていませんが、実態は変わっていません。海外研修という名のもとの旅行は自粛したものの、政務調査費を使っての視察は続いているからです。

ところで、今回の訴訟の対象となった旅行はどんなものだったのか、見てみましょう。
旅行先はニューヨーク・ワシントン(米国)、カイロ・ギザ(エジプト)、アンカラ・カッパドキア・イスタンブール(トルコ)、板門店・ソウル(韓国)、屋久島(日本)です。11人の県議が2009年から2010年にかけて視察旅行をしました。税金から支出された金額はなんと850万円にも及びます。

旅程表を見ると「コレ観光じゃん」(山梨弁)と素人でもわかる内容です。
例えばワシントン市内視察と称するものは、ガイドブックにあるような一般の観光客用の推奨コースそのものです。初日は国会議事堂、アーリントン墓地、ホワイトハウス、リンカーン記念堂をまわり、翌日にはLEED認定施設視察(ビジターズセンター)、スミソニアン博物館、ユニオンステーション、大型商業施設を見学となっています。

私たち原告団7名は、この旅程表を駅頭(JRはこんな時だけ私有地の占拠だと妨害する)でビラにして配り、普段のカラオケマイクをハンドマイクに変え、いつもより少し大声で叫びました。旅行した当該県議の自宅の付近に出かけ、住民に迷惑とならないよう節度を保ちつつ右翼さながらの街宣行動(?)をいたしました。議員本人や家族、支持者はあわてふためき、その周辺での弁明にかけずり回りました。

彼らから抗議を受けないうちに(真実の公開資料ですから、正義はこちらにあるのですが)場所を変えながら、善意の後援会員には訴えをしながら県内を行脚しました。

こういった地道な活動が実り、裁判所内での戦いでは、ついに旅行した張本人の現役県議らの証人喚問が実現しました。

証人喚問というかつてない大ネタに、県政記者らはさらに報道体制を強化します。
では、みなさんにも、証人尋問をした弁護士と県議との法廷でのやり取りの一節を紹介しましょう。

弁護士 「あなたはホワイトハウスを訪問したと陳述していますが、外から建物をみただけじゃないんですか?」
県議 「そうです」
弁護士 「それを訪問と言われているんですか?」
県議 「まあ、訪問と書かせていただきましたですけれど・・・」
弁護士 「訪問といったら、普通ホワイトハウスの中に入って、誰かと会うことじゃないんですか?」
県議 「ああ・・・そうかもしれませんけど・・・」
弁護士 「ホワイトハウスは、ただ建物を見たというだけですね?」
県議 「ええ、そうでございます」
このように、そのまま漫才のネタに十分なり得るやりとりが交わされました。中には、行った先を覚えていないという議員までいて、覚えていないのに県政にどうやって反映させるのか、何とも不可思議な話です。

私も「証人喚問なんだから、行った先くらい復習して来いよ」と心の中でつぶやきましたが、法廷で聞いている人たちは、県民を馬鹿にした議員たちの特権意識丸出しの回答のあまりのひどさに唖然とした次第です。

さて、私たちは、周到にマスコミ向けの記者会見を繰り返しました。監査請求とその結果の公表時、提訴の時、口頭弁論の開催が決まった時、証人喚問が実現した時、一審判決の時、控訴の時、高裁での準備手続きの時、高裁判決の時、そして上告の時と、何かある度に記者会見を行いました。

地元の山梨日日新聞は、「住民目線で在り方見直せ」「公金意識に逆行する愚策だ」「研修の成果生かすことが大前提だ」「市民感覚と隔たり猛省せよ」と書き立てました。NHK、YBS、UTYテレビ各局も節目、節目にきちんと報道していました。

苦しさを増す県民の生活をよそに、県議らが第二の財布(税金)を私物化し、富士山の世界遺産登録と農業(ワイン)振興を大義名分に掲げさえすればどこにだって行けるという傲慢さ。このことに対する県民の心の底からこみあげてくる怒りを代弁するような報道が続きました。

当初の甲府地裁では、残念ながら住民側の敗訴でしたが、判決の中身は「具体的な成果が何ら考察、報告されておらず、極めて不十分な研修報告書であり視察に名を借りた私事旅行だったとの疑念を抱かれてもやむを得ない。県議として政治的非難の対象となる」というもので、こちらが勝ったような内容でした。しかし、それにもかかわらず、結論は敗訴でした。

議員の研修内容についてここまで批判しながらも、議員活動の裁量の範囲内であるという結論を受け、若干のあきらめにも似た躊躇もあったのですが、原告団の話し合いの結果、高裁へ控訴、その結果は住民側の全面勝訴となり、県側は逆転敗訴となりました。そして、とうとう、この判決に対する県の上告は、半年後に最高裁で棄却され、県側の敗訴は確定したという次第です。

厚い壁を壊し、やっと手にできた勝訴判決が非常にうれしい一方で、庶民感覚では当たり前のこの結論を出してもらうために、私たちは3年以上もの間訴え続けなければならなかったのです。なんと3年3か月です。

ところで、私の事務所は原告団事務所でしたので、私の事務所のたった4名のスタッフはマスコミの対応に追われ、あるときは傍聴要員となり、依頼者の署名を受け取ったり集会の問い合わせに答えたりと、労働組合の専従者まがいの仕事もやっていました。

ですから、完全勝訴の報道が流れたときには、顧問先からもねぎらいのエールが寄せられ、所員たちも苦労が報われ、事務所の仕事に、より誇りを持つことができたようです。

日本国憲法上、税金の取り方と使い方を監視する装置が租税法律主義です。そしてこの租税法律主義の実践の主役は納税者(残念ながらサラリーマンの多くが納税者の地位すら与えられていません)であり、これを支援するのが専門家である税理士の役割です。

日々の業務に追われる中で、いろいろ大変なこともありましたが、この事件を通じて、税理士事務所としてのあり方を見つめる機会を持てたと思います。

さらに団結が深まりつつある当事務所に、ぜひ、今後も期待して下さい。

(やまもと・だいじ)

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