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時潮

時潮 政府の解釈改憲に反対し、その声を国会に届けよう
税制基本問題検討委員会・委員長 米澤 達治
安倍内閣は、集団的自衛権を認める憲法解釈の変更を今国会中に閣議決定する方向で与党間協議を行っている。その根拠として、 国連憲章第51条において国家の個別的自衛又は集団的自衛の権利を認めているので我が国も当然その権利を有すること、 憲法は明確な形で集団的自衛権の行使を禁止していないこと、の2点を挙げている。

しかし、そもそも日本国憲法第9条は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、その第2項では、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と規定している。そして、1946年(昭和21年)6月26日の衆議院本会議において、当時の吉田茂首相は、「自衛権ニ付テノオ尋ネデアリマス、戦争抛棄ニ関スル本案ノ規定ハ、直接ニハ自衛権ヲ否定ハシテ居リマセンガ、第九条第二項ニ於イテ一切ノ軍備ト国ノ交戦権ヲ認メナイ結果、自衛権ノ発動トシテノ戦争モ、又交戦権モ抛棄シタモノデアリマス」と述べている。憲法第9条を素直に読めば、吉田首相が述べたことは至極当然である。

しかし、その後1954年(昭和29年)7月の自衛隊の創設に伴い同年12月には、大村清一防衛庁長官は、「自衛隊は現行憲法上違反ではない。憲法9条は、独立国としてわが国が自衛権を持つことを認めている。従って自衛隊のような自衛のための任務を有し、かつその目的のため必要相当な範囲の実力部隊を設けることは、何ら憲法に違反するものではない」(1954年(昭和29年)12月22日衆議院予算委員会)と憲法解釈を変えた。憲法第9条の文理解釈からすればこの見解についても大きな疑問が残るところだが、それでもこの段階では憲法の認めるところは「個別的自衛権」に限られていた。

その後、この憲法解釈は、今日まで引き継がれており、個別的自衛権に対して、集団的自衛権については認めてこなかった。例えば、1981年(昭和56年)5月質問主意書に対する政府の答弁書では、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている」としている。

これを、なぜ安倍内閣は集団的自衛権を行使できるよう憲法解釈を変えようとしているのか。今年5月15日に出された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書では、「我が国を取り巻く安全保障環境は、前回の報告書提出(2008年6月)以降わずか数年の間に一層大きく変化した。北朝鮮におけるミサイル及び核開発や拡散の動きは止まらず、さらに特筆すべきは、地球的規模のパワーシフトが顕著となり、我が国周辺の東シナ海や南シナ海の情勢も変化してきていることである」としている。つまり、尖閣諸島や竹島の問題や北朝鮮の軍事的挑発に対して我が国が軍事力で対抗できるようにすることを目論んでいると考えられる。

しかし、我が国が戦後70年近く戦争により他国の人を殺さず、他国の人から殺されることがなかったのは、明らかに憲法第9条という歯止めがあったからだ。また、世界は紛争の解決を戦争ではなく、平和的な話し合いによって行う方向に向いている。例えば、我が国も2004年(平成16年)に加入した東南アジア友好協力条約は、その第2条で、 主権・領土保全等を相互に尊重、 外圧に拠らずに国家として存在する権利、 締約国相互での内政不干渉、 紛争の平和的手段による解決、 武力による威嚇または行使の放棄、 締約国間の効果的な協力、を定めていて、この条約には中国や韓国、北朝鮮も加入している。このような条約により東アジアの平和が守られていることは明らかである。

我が国も憲法解釈を変えて戦争のできる国となるのではなく、この条約に加入している諸国との友好を深めていくべきではないだろうか。

次に、手続きの問題である。立憲主義とは、憲法が最高法規として国家権力を制限し、人権保障を図るものである。それゆえに、憲法は第99条において公務員の憲法遵守義務を定めている。したがって、安倍首相には憲法を守る義務がある。それを、安倍首相の思いつきで勝手に憲法解釈を変更しようとしていることは、立憲主義の理念を骨抜きにしようとしていることにほかならない。

私たちは、このように我が国の進路を大きく変えてしまいかねない閣議決定による憲法解釈の変更に対し断固反対し、解釈改憲反対の声を大きくして国会に届けるよう頑張る必要がある。

(よねざわ・たつじ:東京会)

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