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時潮

新国税通則法の1年〜疑問点を慣行とさせないために
副理事長 土屋 信行
新国税通則法(以下「法」)が施行されて1年が過ぎました。
今回の「改正」によって「調査手続の透明性」と「納税者の方の予見可能性を高める」観点から、税務調査手続について「現行の運用上の取扱いが法令上明確化」されると国税庁HP には書いてあります。
実際の税務調査ではどうでしょうか?

事前通知

法74 条の9 の主語は「税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長)」です。この中に「当該職員」は含まれていません。したがって事前通知は税務署長が口頭で行うか文書で行うしかありません。しかし実際は当該職員が口頭で行っています。これをどう理由づけるのでしょうか?

6 月の調査では理由づけができず、「税務署長の補助者ということでご理解いただきたい」ということでした。「ご理解できません」とこたえたら困っていました。結局事前通知がされないまま調査に入りましたが、是認でしたので問題は起こりませんでした。

12 月の調査では、冒頭で条文を見せてこの点を指摘すると「違法状態で調査はできませんから今日は帰らせていただきます」と何も調べずに帰っていきました。調査官もこの条文を読めば違法だと認識するのです。13 日後に「事前通知は、税務署長自らは行わず署長を補助する者である職員が税務署長の行為として行うものと考え・・・・法令に反するものではない」と電話で回答がありました。

苦しい回答です。法第七章の二は「税務署長等」と「当該職員」に主語が明確に分かれています。日本語上どう読んでも税務署の回答のようには読めません。
最初から法を逸脱していては「法令上明確化」した意味がありません。
調査は越年し、継続中です。

提示、提出、留置き

「改正」で危惧されたのは「提示」「提出」「留置き」です。「提出」とは、辞書によれば「文書などをしかるべきところに差し出すこと」とあります。条文を読むと何でも持っていかれて留置かれてしまうと読めます。法の中にこれらの意義が書かれていないからです。

これらの意義や取扱いは、施行直前の9 月に公表された通達、事務運営指針、FAQ(以下「通達等」)で明らかにされ、いずれも「納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行う」とされました。

しかし、通達等で意義や取扱いが定められるということは「調査手続の透明性」「法令上明確化」という観点からいかがでしょうか?通達等は法律ではありません。国会の議決を経ることなく簡単に変えられてしまう危険性を孕みます。

法人税法も所得税法も消費税法も第2 条が「定義」となっていて、そこに用語の意義が定められています。用語の意義は法律の中で明確に規定すべきでしょう。

実地調査

8 月16 日付で税務署から「所得税、消費税及び地方消費税の申告について」という書面が届き、その書面には「平成24 年分の所得税、消費税及び地方消費税について調査をしますので・・・下記の日時(8 月28 日)に・・当署までおいでいただきますようご案内いたします」(太字と( ) は筆者)とありました。

なぜ呼び出しが調査なのでしょうか?なぜ事前通知がないのでしょうか?
法74 条の9 を読むと事前通知をするのは「実地の調査」の場合です。「実地の調査」の意義は通達3-4 で「納税義務者の支配・管理する場所」で行う調査のこととあります。したがって税務署でおこなう調査は「実地の調査」ではないため事前通知はいらないという論理です。

ここでも問題になるのが「実地の調査」の意義は法では定められていないことです。通達で定めることは「法令上明確化」の観点に反します。税務署に呼び出せば事前通知なしでいくらでも調査ができるのならば「法令上明確化」した意味がありません。

また、1枚の書面でいきなり10 日後に調査とは「納税者の方の予見可能性を高める」観点からも疑問です。
納税者はすでに亡くなっており、同年分の収入はなかったので「調査」はなくなり、この問題はうやむやです。

疑問点を慣行とさせないために

私の1年間だけでもこれだけの疑問点がありました。国税通則法「改正」の趣旨は「現行の運用上の取扱い」を「法令上明確化」したことです。慣行として認めてしまえばそれが法律になってしまう危険性があります。
疑問点についてはおおいに主張し、悪しき慣行、悪しき法律にしないようにしていきましょう。

(つちや・のぶゆき:関東信越会)

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