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時潮

担税力、情報公開、そして憲法
副理事長 疋田 英司
年末を迎え、今年1年、頭の中をよぎったテーマは担税力、情報公開そして憲法のことであった。税負担の根拠として「担税力」という言葉がついてまわる。担税力とは、文字通り税を負担する能力のこと。収入から必要経費を払って、残りが所得だから、当然、税の負担能力はあるだろう。しかし、税理士をやっていて、担税力という言葉と現実に疑問を持つことが多々ある。

消費税の担税力?

消費税の課税事業者は、課税売上があれば消費税の負担が発生する。たとえそれが未収であっても、である。建設業者の顧問先は決算直前に売上が確定し、代金未収のまま消費税の納税をした。代金が入ってこないため資金繰りがつかず、結果として期限内納付ができない。やむをえず延滞税を納めながら半年かけて納税した。その売上先は一切代金を支払わずに半年後に倒産した。今期の決算でこれを貸倒処理し、今期の消費税額はその分減った。

消費税は預かり金だとする方々は、このような場合、いつ消費税を「預った」と説明できるのだろうか。このように消費税とは「預った」事実がないにも関わらず納税を迫られる税である。結果的に、その分の消費税は今期の決算で清算されたことになるのだが、その間、顧問先が支払った延滞税や、滞納処分のために要した税務署の経費は、一体なんだったのか。それにもまして資金繰りのためにすり減らした顧問先の心労は数値化できない。消費税法の問題もあわせ、この場合の担税力とは、どこに着目すればよいのだろうか。

相続税の担税力?

分割協議が確定しない場合、相続税の法定納期限までに法定相続分による申告と納税が求められる。理解ある相続人どうしであれば税金分を融通しあうことも可能であろう。しかし、相続人の関係が修復不可能な状態にあり、相続をめぐって裁判に及んだ場合でも税金負担は待ってはくれない。

中心的相続人が分割協議に応じない一方、財産を占有している。顧問先が遺産分割をもとめ家庭裁判所に調停を申し立てたが、中心的相続人が財産の帰属や生前贈与の事実関係の争いを持ち出して訴訟を起こし、遺産分割にかかる調停が進めない状態になってしまっている。

従たる相続人である顧問先は法定申告期限までに高額な相続税が発生する。しかし、財産がないため納税資金がない。全ての財産は中心的相続人が占有し、資金力を背景に他の相続人の求めに応じず、訴訟で対抗される。それでも高額な税負担が発生する。実際には連帯納付義務を盾に中心的相続人に支払わせたが、延滞税から利子税を差し引いた分の支払いが求められる。

この場合、相続税課税の源泉である相続財産を一切手にしていなくても担税力はあるというのだろうか。理屈上は未分割財産に対する権利は生じるのだが、これをもって現金納付を原則とする相続税の負担能力があるとはいい難い。

所得税の担税力?

前述の顧問先は、多額の賃貸収入を受ける収益物件が相続財産である。ところで、未分割財産にかかる収益は法定相続分で相続人に帰属するものとされている。しかし、中心的相続人が家賃管理まですべて占有しており、他の相続人には一切支払われない。やむをえず不当利得返還請求訴訟を起こしたが、その判決額だけを支払い、その余は一切支払わない。確かに権利は発生するものの、収益の内訳は訴訟を起こさなければわからない。このような状態で、家賃収入に係る担税力はあるというのだろうか。

税法と憲法

税法は理屈の世界である。借地権をはじめ、みなし贈与課税、みなし譲渡課税、含み益が移転したことで受贈益が発生するなど、数多くの、「お金」が動かないけれども課税するシステムがある。租税負担を不当に軽減するなどの脱法行為は許されないが、そのあおりを食う善良な納税者は、その「順法精神」から心も身体も痛め、場合によっては財産を失うこともある。

その理屈を現実の人間社会で適用した結果、場合によっては憲法が保障する生存権や財産権を侵害する行為を税務行政が行なう場合がある。そのようなことがないように税務に携わる者は憲法の視点から納税者を見なければならないし、そのための裁量権が税務署長にはある。問題はそのような視点をもてるかどうかだ。だからこそ税理士は納税者の傍らで憲法が行き渡っているかを見つめなくてはならないと思う。憲法は、日本国民の幸福追求のために定めたものである。国民を税法の理屈で弄び、不幸に陥れる行政などあってはならないのである。

情報公開請求をしてはみたが・・・

ところで、税制改正案作成に先立ち、毎年、各省庁から税制改正意見(または要望)が出される。国税庁が提出した平成24年度の税制改正要望の情報公開請求をしてみた。半月後に「平成24年度税制改正意見(平成23年9月)」が送られてきた。しかし、その中身は一部不開示とされた。不開示部分を開示すれば税務行政に混乱をきたすからだそうだ。即時に不開示部分に対する不服申立を行なった(2012年9月21日)。国民の財産権に及ぶ課税の問題を税務行政側の都合で不開示とする国税庁の考えが理解できなかったからだ。その後、国税庁から情報公開・個人情報保護審査会への諮問を行った旨の連絡が届き(2012年12月19日)、同日、審査会から国税庁が不開示とした理由が述べられている文書への意見を求めている。これに対しても即時に意見を申し述べた。その答申書が2013年9月24日に届いた。審査結果がでるまで不服申し立てから1年かかったのだ。それによれば、不開示とする国税庁の判断の一部は適切なものと不適切なものがあるとの答申であった。平たく言えば、もう少し開示してものいのではないかという答申が送られてきた。その後、不開示が不適切と指摘された部分の開示は、本稿執筆時になっても国税庁から開示されていない。

特定秘密保護法が成立したら・・・

本稿は特定秘密保護法案が衆議院で審議入りした日に執筆した。現状でも、国民の生活に関わる問題が行政担当官の裁量で秘密にされることがある。その秘密を開示させるには、相当の日数と労力がかかる。なにが秘密で、なぜ秘密なのか、情報を独占する者は法律を盾に優位的立場を守ろうとする。またもや行政官が優位的立場守るための法律が作られようとしているのだろうか。不安になる。このように力を背景として、弱者の立場を省みることなく優位的立場を守ろうとする者の姿が垣間見える。前述の強欲な中心的相続人の姿と官僚の姿がダブって見えるのは、気のせいだろうか。

ところで国税通則法や特定秘密保護法は、情報の漏えいに対し刑罰をかけるから国民は安心して欲しいと説明している。しかし、考えて欲しい。個人の秘密を漏えいされて、個人が受けた損失を補償する法整備は考えられていない。つまり、情報を占有している立場からすれば、裏切り者に対して刑罰をかけることができる法律である。情報漏えいの罰則規定は強権政治、強権行政の目的ではないのか。

特定秘密は、軍と関係する顧問先の情報も含まれる可能性が高い。それが特定秘密かどうかは私たち税理士にはわからない。軍需企業に納品する部品の数が増えたから儲かったようだなんて税務調査で回答したら特定秘密の漏えいになるのかな。特定秘密だから質問検査権に応じられないなんていえるのかな。

職場や友人と普通の会話ができなくなる。特定秘密保護法は絶対に反対である。

(ひきた・えいじ:大阪会)

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