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時潮

主人公は誰だ
副理事長 松田 周平
とある私立高校の卒業式。体育館の入り口から舞台まで館の真ん中に舞台と同じ高さの花道を作り、卒業生一人一人が思い思いの服装で入場、さながらファッションショー。舞台に勢ぞろいした卒業生は、花道より低い位置にいる教師・父兄を前に自分たちが選んだ歌を大合唱。卒業証書の授与は、花道の真ん中に机を設けそこで校長と担任が舞台に向かい、名前を呼ばれた卒業生は、声援が飛び交う中各々の感情表現で舞台から机まで歩き、証書を受け取る。日の丸・君が代は無い。主人公である卒業生が主役になっていた。

本年5月いわゆるマイナンバー法案が成立した。私たちが行う不動産等の売買や賃借の契約時は勿論、日常の買い物・通院時にも国民一人一人に付された番号の入ったカードが必要になる。そしてそのカードにはその人の収入・支出はもちろん、趣味・病歴その他あらゆる個人情報が記録されていく。いわば実印の入ったカードを常時携帯することが義務付けられる。カード社会である米国では、なりすまし犯罪が年間1,170万件に達し、対策が立てられない深刻な社会問題になっている事実を、果たして主人公である国民がどれだけ知っているのか。昨年発表された内閣府の世論調査では8割の人が、内容を理解していないという。

税制・税務行政においてはいったいどう変わってくるのだろうか。東京税理士会の会報に、10年後の税務調査をイメージした漫画が載っていた。そこでは臨店調査などは行われない。税務署・納税者・税理士事務所でネットのやりとりで済んでしまう。電子申告と番号社会により、ペーパー化した元帳などは必要なくなり、番号社会の進み具合によっては韓国のように、事前に税務署の方で数字が把握できるようになるのか。主人公=主権者である納税者を尊重する自主申告納税制度はどうなっていくのか。

全国の会員の皆さん、直前に迫った全国協議会主催の秋のシンポジウムに是非ご参加ください。そして全国の仲間と一緒にこの問題を考え、私たちの意見を発信していきましょう。国家が舞台の上から、舞台下にいる国民を監視するような社会でなく、憲法で謳われているように主人公である国民が、舞台の上で個人として尊重されるような社会になるように。

(まつだ・しゅうへい:東京会)

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