論文
TPPの違憲性について
- 雑誌『憲法運動』岩月浩二弁護士の警告 -
東京会 関本 秀治
本誌609号(2013年4月号)でTPPが税理士業界を直撃する危険性について触れておきましたが、憲法改悪阻止各界連絡会議の発行する『月刊憲法運動』13年7月号(通巻422号)で「ISD条項の違憲性 - TPPと憲法」という論文を読ませてもらいました。

正直いって、TPPを憲法の視点から批判した論文は、これまで読んだ記憶がありませんでしたので、大きな衝撃を受けました。この視点は改めて国民的な検討を必要とするものであると思います。冒頭の部分を次に引用させてもらいます。
「筆者は、ISD条項は憲法違反であると確信している。その衝撃は、司法に風穴を空けるだけではない。国会・内閣・地方自治体を外国投資家の下僕とし、基本的人権秩序を一変させる。憲法破壊と呼ぶに十分すぎるインパクトがある。

結論から言おう。ISD条項は、国家を国民主権国家から、外国投資家主権(グローバル資本主義)国家へと変える。ISD条項は、我が国国民を外国投資家(グローバル資本)の奴隷とする。

しかし、法学者からも、憲法運動に関わる人たちからもISD条項が憲法違反であるという主張がなされることはない。

このことこそ憲法の危機である。憲法は国民の武器であり、この歪んだ構造にある世界を、平和と生命を根源的価値とする世界へと糾していくための道具である。憲法に携わる者は、憲法的価値に対する根本的挑戦であるISD条項について、率先して憲法違反を主張し、国民に武器を提供するべきである。」(同誌24頁)
ISD条項は、投資受入国に対して、外国投資家に対する、投資受入国政府(中央・地方政府を含みます。)の作為、不作為による損害を賠償する義務を負わせ、外国投資家は、投資受入国の裁判所に損害賠償の訴えを提起するか、国際仲裁廷に出訴するかを選択する権利が認められることになります。したがって、投資受入国は、外国投資家によって国際仲裁廷を選択された場合は、裁判権を失うことになります。自国の司法権の及ばない分野を予め包括的に設けることになり、憲法76条1項の「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」とする規定を空洞化するものではないかという疑問が第1です。しかも、この損害の範囲は極めて広く、「間接収用」といわれる「正当で合理的な投資期待利益を深刻に阻害する一切の措置」を意味するといわれています。

アメリカでは、通商に関する権限は連邦議会に属しており、条約の承認にあたっては常に条約の施行法を制定し、国内法を優先的に適用するという建前をとっていますから、アメリカに限っては、司法権の包括的放棄という問題は起きないという構造になっている模様です。これでは、アメリカ法が条約締結国を支配することになりかねません。

TPP条約がこのような構造を予定しているとすれば、第2の問題として、憲法41条の「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」という規定も、わが国に投資する外国投資家(それはグローバルな多国権企業が主体でしょう。)について、予め、あるいは既に制定されている法規を適用することができないことになり、まさに国家主権の放棄になりかねません。

そして、これと関連して、第3の問題として、外国投資家の利益を損なわない配慮があらゆる立法を規制することになれば、日本国憲法が定める人権規定が、すべて、「公共の福祉」ならぬ、「外国投資家の利益を害さない限り」という条件によって規制されることになり、人権体系が逆転ないしは基本から破壊されることになりかねないという究極的な結果を招くことになりはしないだろうかという懸念が生じることになります。

これは、岩月弁護士の言葉を借りれば、「ISD条項は、外国投資家に内政干渉の権利を付与するものであり、確立された国際法規である内政不干渉の原則も侵犯するものと言わざるを得ない」(33頁)ことになります。
この論文は、改めて、TPPの恐ろしさを教えてくれるものでした。

なお、TPPがわが国の税理士制度に与えかねない危険について、本誌609号で簡単に触れておきましたが、この問題について「税理士新聞」1361号(2011年12月15日号)で、アメリカのH&Rブロック社が、虎視眈々と日本の税理士業界を狙っていることを報道しています。TPP参加となれば、税務書類の作成を税理士の独占業務と定めている税理士法52条(税理士業務の制限)が保障している税理士の独占権は、そういう外国会社にとっては、かっこうの非関税障壁として標的にされるだろうと思われます。

日税連などは、TPPのことには全く無関心なのか、知っていても知らないふりをしているのか、この危機についてはふれようとしていません。われわれ税理士としては、何をさておいてもTPP参加には反対すべきではないでしょうか。

(『月刊憲法運動』発行元 憲法改悪阻止各界連絡会議、〒101-0051千代田区神田神保町2-10神保町マンション202 電話03-3261-9007、定価1部400円、年間購読料5000円)
(せきもと・ひではる)

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