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時潮

自由民主党「日本国憲法改正草案」の批判的検討
税制問題検討委員会・委員長 米澤 達治
平成24年4月27日、自由民主党は、「日本国憲法改正草案」(以下、草案という)を公表した。その主な特徴は、 現行憲法の前文を全面的に書き換え、その中で「愛国心」を国民に強要していること、 国旗及び国歌を規定して、その尊重を国民に義務付けていること、 現行憲法の9条2項をなくし、国防軍の保持を謳っていること、「 国民の責務」という項目を設けて、自由及び権利には責任と義務が伴うとしていること、 第9章で「緊急事態」という項を設け、緊急事態の場合の超法規的措置を可能としていること、 憲法改正について、その発議を国会議員の過半数、国民投票は有効投票の過半数とそのハードルを下げていること、などである。

これらの特徴を見ると草案は、前近代的かつ時代錯誤的と言わざるを得ない。そもそも、現行憲法は、第二次世界大戦の反省のもとに国家の暴走を抑えることを最大の目的としている。したがって、現行憲法は、国民の義務として、勤労(27条)、教育(28条)、納税(30条)の3つのみを定めて、10条から40条までこの3条を除き国民の権利を規定しているのである。そして、その前文では、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」としている。

ところが、草案では、先に述べた特徴からもわかるように国民を縛る内容が大変目立つのである。たとえば、前文では、「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」と書かれているが、これは、憲法で国民の規範を定め強要しようとしているとしか見えない。12条(国民の責務)では、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、公益及び公の秩序に反してはならない」としている。特に、現行憲法での「公共の福祉」との文言が、「公益及び公の秩序」に変わっていることは重大である。

つまり、「公共の福祉」とは、個人の利益と社会の利益が矛盾する場合の調和の必要性なのに対し、「公益」は、「公共の福祉」に似た概念ではあるが、個人の権利行使を制限する場合に用いられる場合が多い(Yahoo 百科事典)。また、「公の秩序」は、国家または社会の秩序を言い第9章の「緊急事態」の布石としての表現であると思われる。このように、草案は、国民の権利の制限を想定して作られているのだ。

次に、国旗と国歌の規定である(3条1項)。すでに、平成11年に「国旗及び国歌に関する法律」が成立しているが、これを憲法上で保障しようという意図であろう。しかし、日章旗と君が代については、国民の間で様々な意見がある。反対という人も少なくない。そのようなものを憲法上明記するのは如何なものかと思わざるを得ない。

さらに問題なのは、現行憲法9条2項の問題である。現行憲法9条2項は、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」としているのに対し、草案では、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」となっている。また、9条の2では、国防軍の保持を謳い、その3項では、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」への参加を規定している。言うまでもないが、我が国の国民が戦後戦争で一人も人を殺していないことは、現行憲法の9条1項、2項があったからであり、このことは日本人として誇らしいことである。今、世界の流れが国際紛争の解決は話し合いで、という方向に動いている時期に、国防軍の保持など論外のことではないだろうか。

最後に、第9章の「緊急事態」であるが、第一に、緊急事態を内閣が宣言したら、内閣は、国会の議決なく法律と同一の効力を有する政令を制定することができる(事後に国会の承認)(99条1項、2項)とし、第二に、宣言が発せられた場合には、国民は国その他の公の機関の指示に従わなくてはならない(99条3項)としている。なぜ、このような規定を置くのか、はなはだ疑問である。現行憲法でも、「公共の福祉に反しない限り」という表現で緊急事態での一定の規制を行うことができるのである。結局、「緊急事態」という章を設けることにより国の権限を強化し、国民の人権を制限しやすくすることを狙ったものなのだ。

さて、安倍首相は、7月の参議院選挙で現行憲法96条の改正を争点の一つにすると言っている。つまり、憲法改正の発議を現行各議院の総議員の三分の二以上を過半数とするというのである。それにより、憲法改正へのハードルを低くしようというのだ。しかし、このこと自体が憲法違反である。憲法99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」としている。であるから、安倍首相は、現行憲法を尊重し擁護する義務はあっても改正を提案できないのである。

これまで、自由民主党の草案について大雑把に批判的検討をしてきたが、私たち税経新人会は、憲法に基づく国民の権利擁護を目指している。自民党の草案には絶対反対である。今後共、憲法改正の動きについては監視し、何かあれば機敏に対応していきたい。

(よねざわ・たつじ:東京会)

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