TPPに日本が参加すると、税理士制度が崩壊する。最近の税理士会等の会合に出席すると、この問題に懸念する声が多い。新報9月号の坂口氏の論文にあるように、資格の相互承認問題は現在弁護士・公認会計士・医師等が枠の中で、税理士は直接対象になっていないようである。ただ合意した場合4年間は公表しないということなので、合意した事実を知ったときには対応が手遅れになる。ネットで検索するとTPPにより、外国の会計士資格で日本の税理士業務が行える、今時税理士法改正などしても意味がない等の意見も出ているほどである。
資格制度は一定の公益目的を達成するために設けられたものである。税理士制度のそれは、正しい納税義務の実現と納税者の権利擁護である。本来的に規制緩和とか自由貿易の対象にすべきものではない。日本の公認会計士法1条(使命)は「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。」とある。投資者及び債権者の保護が目的であり、そもそも税理士法が規定している納税者とは立場を異にする。
9月26日日税連理事会で『税理士法に関する改正要望書』が承認され、翌日国税庁長官及び財務省主税局に提出された。要望項目には税理士法1条は触れられていない。3月に行われた日税連と全国協議会の懇談会でも1条は改正しないと強調していた。現行の1条に納税者の権利擁護が含まれるとの解釈は、業界内では一致を見ているとしても、外からは理解が得られない。1条の解釈には税理士を納税者の代理人と位置付けたシャウプ勧告があり、当然にして日本国憲法がある。TPPの交渉課題に税理士資格が入ってきた場合、この事を強調すること以外に税理士制度を守るすべはない。日本の歴史的背景を背負っている税理士の社会的使命は、規制緩和・自由貿易とかの波風にさらされても揺らいではならない。その事を税理士法改正のこの時期に、はっきりさせなければならない。
9月15日付『税理士界』に、金子宏 東京大学名誉教授が税理士制度70周年特別寄稿を寄せている。今後とも財政の主要な財源は消費税に頼るしかないと新人会の税制意見とは隔たるが、その文末に「以上のように、依頼人である納税者の権利・利益の保護が、税理士の基本的役割の一つであることは、現行税理士法1条の解釈論として認められるところであるが、それをより明確にするためには、税理士法改正の際にその旨を1条の中で明定することが望ましいと考える」と指摘されている。税理士法改正に携わる者は、この指摘を重く受け止めるべきである。 |