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時潮

横浜米軍機墜落事件、35年後に思うこと
理事長 副理事長 戸谷 隆夫

「裕一郎ちゃんは、やけどの痛みでもがき苦しみながら『水をちょうだい、ジュースを』と叫び続け、そして静かになりました。口元を動かし『ばいばい』これが最後の言葉でした。この三才のお兄ちゃんの後を追うように一才の弟も息を引き取りました。全身を真っ白い包帯で包まれ『ぽっぽっぽ』とかすかなうわごとで『ハトぽっぽ』の歌を口にしながら・・・・」
(昭和52年10月7日第82回国会衆議院本会議議事録田中美智子議員質問冒頭)

1977年9月27日横浜市緑区(現青葉区)の住宅地に厚木基地を飛び立った米海兵隊の偵察機(RFー4B ファントム)がエンジン火災で墜落した。搭乗員2名は緊急脱出用パラシュートで着地。事故から10分後に出動した自衛隊厚木救難飛行隊のヘリコプターに収容されて無事帰還した。墜落地周辺では、火災により一般市民9名が負傷し、そのうち全身やけどを負った3才と1才の兄弟は翌日に亡くなった。全身やけどを負った母親も皮膚移植手術を繰り返しながら長期にわたり入退院を繰り返した。だが、精神のダメージは計り知れず、最後は精神科単科病院に転院し、事故から4年4ヶ月後に心因性呼吸困難により亡くなった。

1時間後に現場に到着した米軍関係者は、現場周辺の人々を締め出し、エンジンなどを回収し持ち去った。

2004年8月13日、米軍普天間基地所属の大型輸送ヘリコプターが訓練中に沖縄国際大学1号館北側に接触、墜落した。住宅地での墜落事故は復帰後初めてのことであった。事件直後、現場に到着した米軍は直ちに現場を封鎖。日本の警察・行政・大学関係者も一切立ち入り禁止の措置をとり機体を搬出した。機体には放射性物質であるストロンチウム90が6個の容器に納められており、うち1個が破損し放射能汚染を引き起こした可能性が高かったが、土壌も機体も回収されてしまい詳細を解明することはできなかった。沖縄県警察は航空危険行為等で捜査をしたが全容解明はならなかった。

日本の施政権・大学の自治を侵害したのは日米地位協定の壁である。

2012年8月13日早朝。配備に反対の声の中、米軍岩国基地に「未亡人製造機」といわれるオスプレイ12機が上陸した。公表された米軍の運用計画と環境レビューでは普天間基地に24機を配備し、日本国内6本のルートで21県138市町村を通過するとされている。そして、普天間基地に配備されたオスプレイ部隊の24機は、訓練のために本土の米海兵隊岩国基地、同キャンプ富士に分遣隊を派遣。

訓練の内容を記載した「訓練活動の概要」では「地形飛行ー低空での飛行及び操縦。典型的な活動として、低空飛行及び等高線飛行がある。地上高50 200フィートといった様々な高度を航空機が飛行するものである」「低空戦術ー低空飛行及び地上50 500フィートにおける戦術用訓練」を行うとしている。すなわち、長野県飯山市や山形県小国町、徳島県海陽町の市街地上空を飛び、仮装戦術ポイントに保育所や役場(高知県本山町)役場支所(岐阜県高山市)学校(和歌山県日高川町、熊本県水上村など)に高度15メートル(5階建てビルの高度)で飛行するのである。
低空飛行の被害は様々の形で発生している。例えば「昨年3月2日、岡山県津山市で岩国基地所属の戦闘機2機による低空飛行で、民家の土蔵が倒壊」(NPO法人セイピースプロジェクトのブログ)また、昨年9月29日に、島根県浜田市の佐野小学校の真上を岩国基地所属の戦闘機が操縦士の顔が見えるくらいの高さで低空飛行。「一瞬、落ちると思いました。二階の教室では、恐ろしさのあまりに床に伏してしまう女の子もいました。ほかの子供たちも、ショックでしばらく言葉が出てこない状態でした」と校長は証言している。

(「平和新聞」12年5月25日)1999年の日米合同委員会における合意では、「(1)住民に与える影響を最小限にする(2)人口密集地域や学校、病院などに妥当な考慮を払う。(3)米軍は国際民間航空機関や日本の航空法により規定される最低高度基準を用いる。」とされている。そして、日本の航空法は高度150メートル(人口密集地では300メートル)以上と定めている。さらに、公表された以外の1ルートを含めたオスプレイ飛行ルートは、日米合同委員会で合意され提供された空域にも入っていない。何故この様な違法、傍若無人が許されるのであろうか。

日米地位協定第5条2項は「合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入し、これらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる」とする。ここにも「日米地位協定」のカラクリがある。現実には、先の米軍の施設間移動の規定を拡張解釈して、日本のあらゆるところで訓練を可能としており、日本政府はこれを黙認してきた。

米国では、米政府がハワイ州の2空港で予定していたオスプレイ24機の訓練配備計画の実施に先立ち、国家環境政策法などに基づき環境影響評価を実施した。空港周辺の遺跡に与える影響や騒音を懸念する住民や他省庁の意見を入れ、環境の影響を考慮して配備を中止した。在日米軍海兵隊は、普天間基地に配備するにあたり、「環境には重大な影響はない」と結論付けたが、同環境審査には、住民の意見を募る手続きはない。日本政府の対応は「事前協議の対象ではない」「配備自体は米政府の方針で、どうこうしろという話ではない」と地元の意見聴取すら否定する。

日本の環境や国民の生活より米軍が大事となれば、日米の主従関係が際立つことになる。沖縄の基地も、国民の犠牲の拡大も根にあるのは「日米安全保障条約」である。沖縄を含む日本の空と環境と命を守るため「廃棄!」の決断を日本政府に要求したい。

(とたに・たかお:名古屋会)


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