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時潮

独断と強権の通則法解釈通達案
理事長 清家 裕

2011年11月に国税通則法(以下、通則法)が改悪(課税当局の権限強化と納税者の義務強化)された。2013年1月からこの通則法にもとづき税務調査(質問検査権の行使)が行われる。税務調査において納税者の権利がどうなるのか、大変気になるところだ。

国税庁は2012年7月に「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」(法令解釈通達)の制定(案)」(以下、通則法解釈通達案)を公表し、国民に意見を求めた。そして、国税庁は税務職員に対し通則法にもとづく税務調査の研修を実施し、今年10月から12月に先行して「リハーサル調査」を実施する方針である。国税庁はこの通則法の下で如何なる税務調査を行おうとしているのか、この通則法解釈通達案で窺い知ることができる。
1.眼中にない納税者の権利

通則法解釈通達案は、納税者の権利を擁護する立場から考察すると問題点は多々あるが、紙幅の関係でその一部を紹介してみよう。

(1)事前通知の調査日時の変更に係る合理的理由
通則法解釈通達案では、合理的な理由として、納税義務者等(税務代理人を含む)の病気・怪我等による一時的な入院、納税義務者等の親族の葬儀、納税義務者等の業務上やむを得ない事情を例として挙げている。日時変更の合理的理由をこれらに限定しようとしている。

(2)事前通知の調査目的と調査理由の開示
調査目的に関する通則法解釈通達案はない。したがって、調査目的は2011年度税制改正大綱の「例:○年分の所得税の申告内容の確認等」や通則法施行令第30条の4の第2項「納税申告書の記載内容の確認」が通知されると思われる。調査目的の事前通知では、具体的な調査理由の開示はしない方針である。

(3)事前通知をしない調査の例示
通則法解釈通達案では、通則法の「違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」の例示として、事前通知をすることにより、 質問への不答弁や虚偽答弁、検査の拒否等、物件の不提示・不提出、虚偽記載の帳簿書類等その他の物件(写しを含む)の提示・提出などの行為を助長、 逃亡、 帳簿書類その他の物件を破棄、移動、隠匿、改ざん、変造、偽造、 過去の違法等の発見を困難にする目的で適正な記帳等を行っている状態を作出、 第三者に上記 から の行為又は調査への非協力の要請、これらの行為を行うことが合理的に推認される場合を挙げている。

また、通則法の「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の例示として、 事前通知をすれば、税務代理人以外の第三者が調査立会を求めることが合理的に推認される場合、 電話等の連絡が取れない場合、 事前通知先が判明しないなど事前通知が困難な場合などを挙げている。このように通則法の「おそれ」を「合理的に推認される場合」とすれば、ますます課税当局の独断で事前通知のない調査が可能となってしまう。

(4)帳簿書類その他の物件の提示・提出・留置き
通則法解釈通達案では、物件の提示とは遅滞なく物件の内容を税務職員が確認し得る状態にして示すこと、物件の提出とは税務職員に物件の占有を移転すること、物件の留置きとは税務職員が提出を受けた物件を税務署の支配下において占有する状態と解している。調査のためなら納税者の物件を力づくで、取り上げようとする強権的な行為である。
2.揺るぎのない納税者の権利

このように、通則法解釈通達案は「税務調査のためなら何でもできる」という考えに根差した解釈案になっている。納税者の権利は眼中にないようである。しかし、通則法が改悪されても、納税者の権利擁護の拠り所である申告納税制度、任意調査、「税務運営方針」には、一切変更はない。

申告納税制度(憲法の主権在民の精神を税法的に表現した制度)にもとづく任意調査(質問検査権の行使)は、納税者の申告・納税をもって第一義的に納税義務が確定し、その確定した申告内容に疑義があるなど「必要があるとき」に限って税務調査ができることになっている。

したがって、具体的理由なくして税務調査をすることはできない。任意調査は、納税者の承諾を得て行わなければならない。質問検査権は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」と定めている。任意調査において税務職員は納税者の人権を尊重し、納税者を犯罪者扱いしてはならないのである。

1976年に国税庁長官が全国の税務職員に発遣した「税務運営方針」では、「税務調査は、(中略)納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最低限度にとどめ、反面調査は客観的に見てやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする」と指示している。

来年以降の税務調査において、これらの申告納税制度、任意調査、「税務運営方針」を拠り所にして、「納税者の権利をどう擁護するのか」は税理士にとって納税者の信頼を獲得する上で極めて重要である。通則法に対する具体的対応策の研究とその成果にもとづく税務調査の現場での実践的対応が求められる。

(せいけ・ひろし:大阪会)


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