論文
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消費税を増税してはならない理由
元静岡大学教授・税理士 湖東 京至
よく「消費税の増税前にやることがあるのではないか、たとえば国会議員や公務員の給料を大幅に下げるのが先では・・・」、「こんな景気の悪いときに消費税の税率を引き上げるのはおかしい」、「5%引き上げるうち社会保障に使われるのは1%しかないというではないか」、「マニフェストに4年間は上げないと書いてあったのだから」、「だから増税に反対だ」という人がいる。では「議員歳費や公務員の給料を減らしたら増税はOKなのか」、「景気が良くなったら税率引き上げはOKなのか」、「全額社会保障に使われるのなら増税はOKなのか」、「4年たったら上げてもいいのか」。私はそうは思わない。

私はいかなる条件の下であっても、消費税の増税は許してはならないと考えている。いやむしろ、消費税は廃止すべき税金だと考えている。なぜなら、消費税はたくさんの基本的欠陥をもっている税金だからだ。そもそも消費税はこの世にあってはならないとんでもない悪税なのだ。では消費税の基本的欠陥とは何なのか。これから述べていくが、たぶん税の第一線にいる皆さんは納得してくれると思う。「そういえば・・・」と思いあたることがあると思う。
消費税の基本的欠陥その1 際限なく税率を引き上げる欠陥

消費税は税率を1%上げるだけで簡単に税収があがる。だから、政権与党にある人たちは、財政不足に陥るとすぐ税率引き上げに走る。日本でも3%で導入したあと1997年に5%に引き上げ、いま民主党政府は2014年4月から8%、15年10月に10%にするといっている。それだけに留まらない。日本経団連や政府はヨーロッパ並みの19%にしたいと提言している。

ヨーロッパの国々は日本の消費税のモデルになった付加価値税を実施しているが、いずれの国も高い税率になっている。たとえばフランスの標準税率はこれまで19.6%だったが、選挙で負けたサルコジ大統領が1.6%引き上げ、21.2%になっている。ドイツは1998年4月にそれまでの15%を16%に引き上げ、2007年1月から19%になっている。ギリシャは2010年1月にそれまでの18%を21%に引き上げ、さらに同年7月から23%に引き上げている。イギリスは2011年1月からそれまでの17.5%を20%に引き上げている。イタリアは現在20%だが近いうちに21%に引き上げる予定だという。

このように消費税・付加価値税はいったん入れるとどんどん税率を引き上げる悪い性質をもっている。ただ、例外もある。アメリカは消費税タイプの税金をもっていない。その影響もあって同じ北アメリカのカナダは1991年に7%で導入したが、2006年に6%に下げ、さらに08年1月から5%に引き下げている。
消費税の基本的欠陥その2 消費税は間接税ではないという欠陥

人々は、「消費税はすべてのモノやサービスに5%入っている間接税」だと思っている。たしかに政府は、「消費税は消費一般に広く公平に課税する間接税で、取引の各段階ごとに5%で課税され次々と転嫁し、納税義務者は事業者とするが、事業者に負担を求めるものではなく、最終的には消費者が負担するもの」と説明している。つまり、消費税は消費者が負担する間接税だというのである。

しかし、この説明が食わせモノなのだ。「次々に転嫁していく」というが、価格はそのときの状況で刻々と変わる。昼の弁当一つとってもそうだ。昼に600円で売っていたのが売れ残って夕方になると300円になっている。弁当販売業者は売れ残るのが困るから消費税がどうのこうのと言っている状況にはない。つまり消費税はそんなきれいな間接税ではないのだ。政府の説明は明らかに間違っている。

アメリカには州(地方税)として小売段階だけで課税する「小売売上税」がある。例えばハワイ州では税率4.2%、サンフランシスコでは9.5%となっている。アメリカの「小売売上税」の納税者・負担者は消費者である。小売店は顧客・消費者の払った税金を預かってそのまま州税当局に納めるだけだ。アメリカの「小売売上税」はわかりやすい単純な間接税だといえよう。消費税はアメリカの「小売売上税」の仕組みとまったく違う。

消費税を税務署に納めるのは事業者だが、周知のように納付税額は一個一個の商品ごとに計算するのではない。決算が終わったあと1年間の課税売上高を課税標準として計算する。課税売上高に5%を乗じ、そこから1年間の課税仕入高に5%かけたものを差し引いた額が1年間に納める消費税額になる。ここで仕入税額を差し引くのを仕入税額控除方式という。だから、一個一個の物品に消費税を乗せたとか消費税分を預かったということとは無関係に税額が算出されるのである。

もともとこの消費税の仕組みを最初に考えたのは、第二次大戦後日本の税制を構築したアメリカのシャウプ博士だといわれている。シャウプは消費税とほとんど同じ仕組みの税金を1949年、「附加価値税」という名で日本に入れるよう提言した。シャウプの「附加価値税」は国会を通ったが国民の反対が多く、一度も実施されずお蔵入りとなった。このときシャウプが考えた「附加価値」は法人事業税にかえて導入しようとしたものであり、当然に間接税ではなく直接税として位置づけられていた。事業税にかわる直接税だから、価格への転嫁も必要ないし、税金を「取る、取られる」という関係も生じない。いまの消費税はシャウプが考えた直接税としての「附加価値税」の性質をそのままもっているのである。

消費税が直接税の性質をもっていることを証明する裁判所の判決を紹介しよう。この裁判はある消費者のグループが自分の払った消費税が事業者のフトコロに入り、税務署に納められないのはおかしいとし、このような税金をつくった国の責任を訴えたものである。判決はつぎのようにいう。

・・・消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を消費者との関係で負うものではない。(東京地裁平成2年3月26日判決文より)

つまり判決は、消費税を消費者が税金として払うのではなく、対価(物価)の一部として負担しているだけで、事業者と消費者の間に「税を取る、取られる」という関係はなく、まして、消費者が消費税を事業者に預けたことも、事業者が預かったこともない、というのである。要するに、消費税は間接税ではなく、直接税だというのである。この判決は政府・財務省の主張をそのまま取り入れたものであるから、政府も消費税が間接税ではなく、直接税に近い税金だということを知っているのである。

ところでフランスは1954年、シャウプの「附加価値税」とほとんど同じ仕組みの税金を名前も同じ「付加価値税」として導入した。ただフランス政府は付加価値税を間接税だと定義したのである。なぜ本来直接税である付加価値税を間接税だとしたのだろうか。その理由はガット協定にある。ガット協定では直接税を輸出企業に還付することは禁じられているが、間接税なら認められるからだ。そして後で述べるように輸出企業に輸出補助金を出すことに成功したのである。要するに輸出企業に還付金を与えるために間接税だと言いくるめたのだ。日本の消費税も輸出還付金制度のあるフランスの付加価値税の仕組みをそのままいただいたのである。
消費税の基本的欠陥その3 輸出大企業に補助金を出す欠陥

消費税の最大の不公平は、トヨタなど輸出大企業に消費税を還付していることだ。輸出大企業はなぜ還付金をもらえるのだろうか。それはフランスが間接税だと定義し、輸出販売にゼロ税率を適用したからである。一般にわが国の消費税率は5%の単一税率だと思われている。だが、日本には5%の他0%があり2本立てとなっているのである。ゼロ税率は通常の取引では見かけることはない。ゼロ税率が適用されるのは輸出販売に限られているからだ。ではゼロ税率を使った輸出還付金の仕組みを簡単に見てみよう。

いま年間の売上高が1千億円の企業があったとする。そのうち半分の500億円が国内売上、500億円が輸出販売とする。これに対する年間仕入高が国内分と輸出分を合わせて800億円とする。そうすると国内の売上高に対する消費税は500億円かける5%で25億円、輸出販売に対する消費税は500億円かける0%でゼロ、合計25億円。これに対し控除できる消費税は年間仕入高の800億円かける5%で40億円、差し引きすると15億円のマイナスとなり、これが税務署から還付される金額になる。これを算式で示したものが下の囲みである。

年間売上高= 1,000億円
うち国内売上…500億円× 5%= 25億円……(A)
うち輸出販売…500億円× 0%= 0……(B)
合 計(A)+(B)= 25億円…… (C)
年間仕入高= 800億円
国内分・輸出分合計800億円× 5%=40億円 ……(D)
還付される金額
 (C)   (D)
25億円ー 40億円=△ 15億円

ある人は、「トヨタは下請に消費税を払っており、それを返してもらうのだから問題ないのではないか」という。私は、「トヨタは下請に一度も、一円も消費税を払ったことはない」と反論したい。そのわけは、先に引用した裁判所の判決が示している。もう一度、判決文をトヨタと下請業者の関係に置き換えてみよう。もちろん私がアレンジしたものである。

…トヨタが下請業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、下請業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、トヨタとの関係で負うものではない。
  ( 東京地裁平成2年3月26日判決をア  レンジ)

つまりトヨタは消費税分を税金として払ったことは一度もなく、対価(物価)の一部として負担しているのであり、下請業者との間で「払った、払わない」という関係はないというわけである。トヨタは自分で税務署に消費税を納税したこともなければ、下請を通じて払ったこともないのである。これも消費税がきれいな間接税ではなく、むしろ直接税としての性質が強いことを証明しているといえよう。それを払ったものとして還付してもらうのは「いわば横領」であると言っていい。

わが国を代表する巨大輸出企業が受け取る還付金の額を推算したのが表1で、トップ10の還付金だけでおよそ8,600億円、還付金は合計で3兆円にものぼる(平成22年度予算)。還付金は消費税収入12兆円のおよそ25%にのぼる。一方で納税資金がなく四苦八苦している業者がいるというのに、消費税を払うのではなく「いただく」企業があるというのは、消費税最大の不公平であるといわなければならない。

なお、管内に輸出大企業があり消費税収入がマイナスとなっている税務署が全国で9署ある。参考までに表2に示した。
消費税の基本的欠陥その4 膨大な滞納を招く欠陥

一方に消費税を「いただく」企業があるのに、中小事業者は下請単価の引き下げ、低価格競争に苛まれている。何度も言うが消費税は一個一個のモノにかかる税金ではなく、事業者の年間の売上高の5%から年間の仕入高の5%を差し引いて計算するのであるから、売上と仕入れの差額がマイナスにならないかぎり納付税金が生じる。かりに経費(人件費など)が多く赤字になったとしても納付税額が生じるのであるから、赤字でもかかる事業税のようなものである。したがって、滞納が発生しやすい税金なのである。

消費税は3%から5%に引き上げられた1997年から国税中で滞納第一位を続けている。表3を見ればわかるように、新規発生滞納税額のうち消費税の占める割合は45%前後で推移し、平成21年度は50%、平成22年度は49.7%を占めている。事業者は好きで滞納しているわけではない。納めたくても資金繰りがつかないのだ。その理由は赤字でもかかる税金だからである。滞納が多い税金は欠陥税制にきまっている。

税務署は消費税の滞納が増えると消費税の欠陥がバレるため、必至で滞納税金を徴収している。税務署は「消費税は預り金ですから、お客さんから預かった税金を納めないのは盗人ですよ」と脅かす。だが、消費税は「預かるとか、預けるという関係にない」ことはすでに何度も指摘した。こんな初歩的なことさえ税務署はわかっていない。わかっていても本当のことを言わないのかもしれないが・・・。

表1 2010年分、消費税還付金上位10社
(単位:億円)
順位企業名年間還付税額
(国税4%と地方消費税1%
の合計5%)
1トヨタ自動車(株)2,246
2ソニー(株)1,116
3日産自動車(株)987
4(株)東芝753
5キヤノン(株)749
6本田技研工業(株)711
7パナソニック(株)633
8マツダ(株)618
9三菱自動車(株)539
10新日本製鉄(株)346
 合 計8,698
(※ 1) 湖東京至が各社の2010年4月 2011年3月期有価証券報告書にもとづき推定計算した。

(※ 2)ただしキヤノン(株)の決算期は2010年1月 2010年12月のものによっている。

(※ 3)パナソニック(株)の賃借対照表注記に未収消費税の金額が107億円あると記載されている。この額は2か月分と思われるので筆者が同社の年間還付金額を633億円と推定計算した金額(月額平均53億円)とほぼ同等となる。
表2 消費税収入がマイナスとなっている税務署一覧(平成21年度)
順位税務署名赤字金額
1豊田税務署(愛知県)▲ 1,154億円
2海田税務署(広島県)▲ 304
3神奈川税務署(神奈川県)▲ 280
4今治税務署(愛媛県)▲ 167
5直方税務署(福岡県)▲ 120
6阿倍野税務署(大阪県)▲  57
7茂原税務署(千葉県)▲  51
8門真税務署(大阪県)▲  25
9蒲田税務署(東京県)▲  16
(※ 1)21年4月 22年3月の各国税局発表の消費税課税状況により筆者が作成した。

(※2)税率は国及び地方消費税の合計5%で算出してある。

(※3)豊田税務署の赤字金額が多いのは管内にトヨタ自動車があるためであり、海田税務署にはマツダが、神奈川税務署には日産自動車が、門真税務署にはパナソニックが、蒲田税務署にはキヤノンがあるためであると推定される。
消費税の基本的欠陥その5 正社員を減らし派遣や外注を使う欠陥

消費税を納める企業は、年間の売上高に5%をかけた額から年間の仕入高に5%をかけた額を差し引いて納付税額を計算する(仕入税額控除方式)。仕入税額控除の対象となるのは仕入金額のほか、消費税の課税対象となっている経費、たとえば交通費や通信費、消耗品や店舗の家賃、修繕費や機械の購入代金などが含まれる。ところが人件費は仕入税額控除対象にならない。そのため、人件費の大きい企業は消費税の納税額が大きくなってしまう。つづめていえば消費税は人件費に課税する税金だといっていい。

そこで経営者は、消費税の納税額を減らすためにどうしたらいいか考える。一番手っ取り早い節税方法は正規の労働者の給料をカットし、その分を派遣社員や外注でまかなうことだ。派遣会社への支払や外注費は仕入税額控除の対象になるから、納付税額が減ることになる。消費税の税率が引き上げられればその効果は一段と大きくなる。1997年に消費税率が3%から5%に引き上げられたころから、派遣がはやり出してきたのはこれを裏付けているのかもしれない。

表3 税目別国税新規発生滞納税額(国税分4%の数字)
(単位:億円)
 年度
税目
平成12年度平成17年度平成18年度平成19年度平成20年度平成21年度平成22年度
消費税
発生件数
5,979
93万件
4,221
64万件
3,963
68万件
3,984
67万件
4,118
68万件
3,741
66万件
3,398
63万件
源泉所得税1,4661,1301,065994920803701
申告所得税2,4601,7961,8101,7351,6801,3551,264
法人税2,0531,5981,5511,5961,8341,0741,024
相続税1,413528576488418488434
その他の税42222925141312
消費税
発生件数
13,414
44.5%
9,298
45.4%
8,998
44.0%
8,824
45.1%
8,987
45.8%
7,477
50.0%
6,836
49.7%
(『国税庁統計年報書』をもとに湖東作成)

もし消費税が10%に引き上げられるようなことになれば、派遣社員や外注への切り替えにさらに拍車がかかることになる。その結果、正社員がリストラされたり、給料が下がることになりかねない。それが、内需を減少させ、景気をいっそう後退させることになる。これも消費税のもつ欠陥のひとつだといえよう。
消費税によらなくても財源はある

最後に財源について付言しておきたい。「消費税の増税はイヤだけれど、他に財源がなければしょうがない」と思っている人は意外に多い。そういう人々に「財源は他にたくさんある」と言いたい。その前提として税負担は公平でなくてはならない。公平とは「あるところから取って、ないところに回すこと」であり、それは憲法が要請する「応能負担原則」に適うということである。「あるところ」は内部留保をたくさんもっている大企業や資産家、高額所得者である。

具体的には、大企業・高額所得者に適用されている特別な措置=不公平税制をなくすこと。不公平税制をなくすことによる増収額は毎年、「不公平な税制をただす会」が計算し発表している。2012年度の増収額は国税で約10兆円、地方税で8兆1千億円、合計18兆円強になる。 輸出大企業に対する消費税の還付金を廃止すること、これにより毎年2兆5千億円程度の増収が得られる。 資産家に対し富裕税をかけること。税率にもよるが、5千億円程度の税収になる。これだけで、消費税を廃止しても充分やっていけるはずである。

なお、消費税を廃止ししてそのかわりに、旧物品税のような個別消費税にかえたり、大企業に限って課税する付加価値税(直接税として)を導入することによりかなりの税収が確保できる。応能負担原則にしたがってあるところに課税すれば滞納はなくなり、景気は回復し、かえって税収が増えることになる。

消費税はこの世にあってはならない税制である。世紀の悪税であり欠陥税制である消費税の大増税を許してはならない。

(この文章は2012年6月13日、消費税廃止各会連絡会・中央社保協主催の学習会での講演を要約したものです。)

(ことう・きょうじ:東京会)

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