ニッポニア・ニッポンという学名をもつトキ(朱鷺)は、江戸時代にはスズメやカラスと同じくらい一般的な鳥で日本中に生息していたという。
自然界で36年ぶりにトキのヒナが8羽も誕生したというニュースは久々に明るい話題となった。トキの島、佐渡で全国研を開催したのは2年8ヶ月前の2009年9月のこと。集会の後、佐渡トキ保護センターに立ち寄り、すでに日本産は絶滅していて中国産のトキのペアを繁殖させて育て、発信機をつけて放鳥しているという話を聞いた。その取り組みが成功してヒナ誕生となったのであろうが、トキが野生で生きていける環境かどうかも問われる。いいかえれば佐渡には「トキが住める環境」という明確な判断基準ができたということだろう。佐渡はこれからもトキが住める環境を守る努力を続けるにちがいない。佐渡の海が思いの外青く澄んでいたことを思い出す。
ついに5月5日、北海道電力泊原発3号機が、定期検査のため発電を停止したことで50基全部が停止し、42年ぶりに「原発稼働ゼロ」が実現した。福島第1原発事故の前は、54基(廃炉となった福島第1の1号機から4号機を含む)のうち37基が運転中だったのが、浜岡原発のように菅内閣が停止を決めたものもあるが、定期検査(13ヶ月に1度)により次々停止したまま、再稼動できなくなっている。これも政府の英断ではなく、世論の力が止めた。とくに今まであまり政治に関心がなかった子育て世代の30代、40代の母親たちが原発廃止をはっきりと意思表示している。子供の命にかかわることだからという、判断基準が明確になっている。それは何時の時代でも戦争に反対してきたのが女性、母親だったことにも通じると思う。
4月はじめに関西電力の大飯原発再稼働をめぐり、関西電力の工程表を受けて、枝野経済産業大臣は「安全性はおおむね確認されたため必要性の議論に入った」と述べ、電力不足をあおり再稼働ありきの構えだった。安全性も拙速すぎて信頼性がもてない、「電力不足」の試算は根拠がないと複数の専門機関が指摘しているにもかかわらず、さらに、藤村修官房長官からは「再稼働しないと電気料金引き上げが避けられない」という脅しまで出てきた。
なぜ原発再稼働を急ぐのか。原発が「不良債権」化したことが、電力会社が原発再稼動を急ぐ背景にもなっていると金子勝慶応大学教授は指摘する。原発は停止しても、借入返済とメンテナンス費用がかさんで不良資産と化してしまうのだ。不採算店舗をクローズしても出店のための借入返済は残り、撤退費用がかかるのに似ているが、その比ではないことは明らかである。関西電力の原発構成比は43%と依存度が高いから、再稼動しないと赤字が累積して2、3年で債務超過寸前まで陥ると試算、「ミニ東電」化してしまうというのだ。
すでに電力を大量に消費する企業は自家発電を始めている。電力会社から買うより安くて安定する。資源エネルギー庁によると全国の自家発電量は、6,000万kw。東京電力1社分とほぼ同規模という。
4月17日の日経朝刊で、関西電力管内の大手企業が電力不足に備えて自家発電に動いていると報じた。たとえば、コマツは大阪工場に液化天然ガスの自家発電設備を7月に導入予定、資生堂は大阪工場に、キリンビールは滋賀工場に自家発電を今年の夏までに導入とある。
さらに5月28日の日経朝刊は、発電事業への参入に向け、株主総会で定款を変更する上場企業が相次いでいると報じた。京セラ、ローソン、近畿日本鉄道など幅広い分野の40社が定款の事業目的に「発電関連の業務」を追加するというのである。
太陽光や風力など再生可能エネルギーでつくった電気を電力会社が固定価格ですべて買い取る制度が7月に始まる。「再生可能エネルギー法」が施行になるのだ。国が決めた価格で電力会社が全量買取ることで採算が合うと判断したからである。今まさに、わが国はエネルギー政策の大きな転換点を迎えている。
国民は「フクシマ」の原発事故により気づかされた。何が一番大切なのか。それは、人間の命である。
政府と電力会社だけが原発にしがみついているとしか思えない。政府は問題を真正面から捉えて、国民の命と幸せを最優先する政策をとることが求められている。
生存権をおびやかす天下の悪税消費税を増税しようとする、世界一危険といわれる普天間基地も解決しようとしない、国民が反対するアメリカのためのTPPに参加しようとする。
「いのち」をキーワードにすれば、判断基準は明確になるはずである。もう一度言おう。国民は、人の命が最優先だということに気づかされている。私たちは確実に新しい時代を選択しているのだ。
(ひらいし・きょうこ:東京会) |