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時潮

納税者の権利と税理士法改正
副理事長 疋田 英司

確定申告が明けて間もない3月21日、税経新人会全国協議会は日税連(日本税理士会連合会)との懇談を行った。組織結成以来、初めての取り組みである。

日税連側は会長、副会長に専務理事といった面々が対応された。議題は税理士法改正問題。その模様は後日、本誌に掲載される予定なので、詳しくはそちらをお待ちいただきたい。

議題のテーマとして、納税者の権利と、それを守る税理士の立場が話題になった。私たちは、税理士が積極的に納税者の権利擁護を主張すべきであり、税理士法第1条の税理士の使命に高らかに納税者の権利擁護を盛り込むべきではないかと主張した。日税連側は、現在の条文で納税者の権利擁護は盛り込まれているから改正の必要はないと述べる一方で、納税者権利憲章が国会で決まれば、これに応じた改正は必要との考えを示した。

納税者権利憲章が先送りされたいまだからこそ、税務の現場を知る税理士が納税者の権利とは何かを示すべきではないだろうか。しかし、これが日税連の限界なのかもしれない。国税庁の担当官が立ち会うもとで日税連の理事会が開催される力関係では、いたしかたないのであろう。

税理士法第1条は、税理士は「独立した公正な立場」であると定めている。「独立」とは誰からの独立なのか。税務判断において課税当局と納税者の間での独立だろうか。両者が対等の立場であれば、その考えも成り立つであろう。しかし、どうしてもそのような理解に立てない。

我々税理士は実務上、どうしても納税者の側に立たざるを得ない。それはクライアントとして報酬を支払ってくれるお客さんだからという理由だけではない。税務当局は納税者に対し、極めて強く、力の差は歴然としているからだ。

先日、顧問先の個人事業者から、15万円の消費税が納められないと相談があった。5人の子どもを抱え、高校進学の学資負担や障害を抱えた子どもの手当がかさむからだ。一方、売上代金の回収が遅れた上に、外注先、材料仕入れへの支払いを優先したため資金繰りがつかず、期限内納付ができないと相談があった。

このような事情から、毎年のように納期限から半年以内に完納となるように納付計画をたてていた。資金が調達できない理由も添付している。今まで、税務署からは滞ることのないよう指導していただくようにと連絡をいただいた。このような対応は課税当局と税理士、納税者の間の信頼関係で築き上げられる。

これが、昨年あたりから変化が出てきた。今年の門真税務署は、「そのような延納制度はない」、「判断するのはこちら」、「こちらは差し押さえもできる」などと威嚇的な対応とともに、担当官は「税理士に納付手続きの代理権限はない」と、税理士と対応する立場ではないとまで述べ、当事者から電話するよう要求する。納税者は共働きで、連絡もとりにくいからこそ予め事情と納付方法を提案したのだった。税理士から必要な判断材料をお送りする旨伝えたところ、「電話をかける時間もないのか」と、なおも居丈高だ。

このような態度がすべての税務署で行われているとは思わないが、このような態度を経験すると、とても対等平等とは考えられない。

税理士法第2条に定める税理士の業務は、税務代理、税務書類の作成、税務相談の3点だ。すべて税額の確定に至る部分を示しているが、確定後の納税にかかる部分は含まれない。消費税の導入以後、人権無視の滞納処分が行われることが広く聞かれる。

先日、こんな事例があった。
生活保護寸前で年金収入も年間12万円ほど、しかも1級障害者で就労もできない納税者が、多額の家賃収入のある親が死亡し相続することとなった。しかし、全財産は長男が占有し分割協議も進まない。やむなく、未分割で、民法どおり遺産を取得したものとして申告すると、税負担の源泉が相続できていなくても納税義務は生まれる。滞納となるは必然だった。しかし、課税当局は、彼の預金を差し押さえた。当局担当官は親族が生活費を出せる、債権回収は相続人間の問題と考えたので差し押さえしたと主張した。生活保護費打ち切りの論理と同じだ。

一方的な国家権力の前に国民はなすすべもない。政府からの兵糧攻めに音を上げざるを得ない。

こんなケースもある。税務署の更正処分に異議申し立てをし、国税不服審判所にも審査請求をする。確かに税額確定に対する権利主張はできる。しかし、この申し立ての間にも、更正処分された税額の滞納処分は止まらない。

間違った課税処分に不服を申し立てても、当局は滞納処分を進める。資金に余裕がなく、売掛金の差し押さえなどされれば事業の継続さえできない。不当な課税に不服申し立てができても、取り立ては止まらない。

税務に関する力関係は決して平等ではない。「独立した公正な立場」とは、力の弱い者の権利を擁護し、力の強いものの力を抑制するバランス感覚が必要となる。そして、納税者の人権を守るという強い意志がなければ税理士は務まらない。

この感覚が、税理士が国民から信頼される道筋ではないだろうか。税理士法改正は多くの課題を抱えている。

(ひきた・えいじ:大阪会)


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