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時潮

消費税では福祉国家は実現しない
理事長 清家 裕

新年おめでとうございます。今年も元気で楽しい新人会活動をやりたいと考えています。昨年度はここ数年の会員減少に歯止めがかかり、会員が増加しました。今年度も「会員拡大・新報読者拡大を常に念頭に置き、研究の成果を会外に発信する活動」に力を入れます。全国の会員のみなさん、今年も「一緒に考え、一緒に行動」する新人会活動をよろしくお願いいたします。

今年の年明けは、国民にとって極めて重大な事態になっています。野田政権が消費税率を10%に引き上げる法案を来る通常国会に提出し、成立させようとしているからです。97年4月に税率が3%から5%に引き上げられてから14年以上がたちました。日本経団連など財界はこの14年間、常に時の政権に税率引き上げを迫ってきましたが、消費税増税反対運動と国民世論の前に引き上げることができないでいます。

なぜなら、消費税は弱肉強食の不公平な税金ゆえ貧困と格差を助長し、国内景気を冷え込ませ、庶民の生活と営業に大きなダメージを与えてきたからです。しかし、この状況下で何としても消費税率の引き上げを実現しようとして、昨年6月に菅政権が決定したのが「社会保障・税一体改革成案」(以下、「一体改革」)です。ここに依拠して、野田政権は民主党の選挙公約を投げ捨て、財界のための消費税率引き上げに邁進しています。国民の福祉国家への熱い思いをテコに、北欧の福祉国家と消費税率の高さを例に持ち出し、日本を福祉国家にするためには税率を引き上げなければならないと喧伝しています。その幻想を醸し出しているのが「一体改革」です。

この「一体改革」では、「社会保障給付に要する公費負担の費用は、消費税収(国・地方)を主要な財源として確保する」「消費税を原則として社会保障の目的税とする」「まずは、2010年代半ばまでに段階的に消費税率(国・地方)を10%まで引き上げ、当面の社会保障改革にかかる安定財源を確保する」としています。要するに、社会保障の公費負担を賄うために消費税を「社会保障目的税」にして、とりあえず2015年度までに10%に引き上げ、その後財源が不足すれば税率をドンドン引き上げていくシステム構築です。

「一体改革」では消費税の税率引き上げとともに、個人所得課税は各種所得控除の見直し、税率構造の改革、給付付き税額控除の検討、金融所得課税の一体化にも取り組むとしています。法人課税は法人実効税率の引き下げを行うとしています。また、資産課税では相続税の課税ベース、税率構造を見直すとしています。そして、「国民の給付と負担の公正性、明確性を確保する」ために、社会保障・税に関する共通番号制度の早期導入も目指すとしています。

この「一体改革」は大企業の減税と社会保障負担の軽減を図るために、社会保障の新たな国民負担と消費税、所得税・住民税や相続税などの庶民に大増税を行う「改革」です。この「改革」を行えば、納税者と滞納者が激増することになります。共通番号制度の導入はそのための徴税体制強化の一つです。

弱肉強食の消費税は力の強いものには恩恵を施し、力の弱いものには重い負担を強いてきました。消費税導入後の日本経済を振り返れば、消費税を10%、20%に増税すれば貧困と格差を一層助長することは明らかです。消費税を「社会保障目的税」にして税率を引き上げれば、「北欧並みの福祉国家になる」などは単なる幻想に過ぎず、大企業、高額所得者、大資産家はより大きな恩恵を受け、庶民は一層生活と事業が苦しくなります。中小企業・中小業者の倒産、廃業が続出します。消費税では日本の福祉国家は実現しないのです。

日本の福祉国家は、消費税ではなく法人税や所得税、相続税など応能負担の税制で、負担能力のある大企業、高額所得者、大資産家に応分の負担を求め、社会保障の財源を確保する以外に実現の道はありません。

(せいけ・ひろし:大阪会)


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