論文

公開を求められる文書は作成も保存もない
- 「税理士制度に関する勉強会」についての情報開示を求め -
千葉会 伊藤 清
平成13年法改正に初お目見えの「勉強会」

1990年代後半に入ってからの財界主導の新自由主義規制改革の流れのなかで、弁護士や税理士など士業の資格制度による業務独占制を市場閉鎖のギルド的なもので好ましくないとして、この独占を廃止ないしは緩和して、士業間の垣根を低くし、また無資格者などの新規参入を容易にすることによって、これらの業界にも自由な競争の行われることが、利用する国民にとって望ましいとする意見が強く主張されるようになってきました。

もちろん日本税理士会連合会(以下「日税連」)は、税務代理業務の税理士による独占権こそ税理士に与えられた唯一最大の特権であり、これが廃止ないし緩和されることは、税理士の死活問題として業務独占を死守しようとします。国税庁もまた、税務代理業務を税理士に独占させることによってこの業務の監督規制を有効に行なってきていますので、この業務独占の廃止ないし緩和は国税庁の権限行使に大きな支障を来すとして、これに強く抵抗せざるを得ません。この業務独占をまもることについては、日税連と国税庁は、完全に利害を一つにしていたといえるでしょう。

このような時代背景のもとで、日税連と国税庁、これにオブザーバーとして財務省が加わり「税理士制度に関する勉強会」(以下「勉強会」)と称する会合が、平成10年4月から同12年3月にわたって何回か持たれ、そこで三者間において税理士法改正案が練られたのでした。

私は当初、この「勉強会」は、監督官庁である国税庁から日税連に話しかけたものと思っていましたが、日税連編集にかかる「実践税理士法」(坂田純一著 平成14中央経済社)によると、日税連から国税庁に申し入れたものとされています。どちらから申し入れたにしろ、そこは規制緩和について危機感を共有していた両者の阿吽の呼吸というものかもしれません。
「勉強会」の議事、会員税理士に一切秘匿

税理士法は、税理士の権利義務やその業務を規定した税理士にとっては極めて重要な業法です。我が国において立法権は国会にあるといいながら、実質的に立法作業に当たり、その法案の内容を決定しているのは行政省庁の官僚です。税理士法改正についても、その行政側国税庁と日税連との合議は、その改正案づくりの作業に、この法によって規制対象となる当の税理士側が自らを規制する相手側に仲睦まじく(?)協力加担するという特別の意味をもつものです。

しかし、その「勉強会」は、税理士会々員である一般の税理士に対しては、若干のコメントが発表されはしましたが、途中の討議内容は厳しい緘口を打合せることことによって秘匿され、一切公表されませんでした。しかも、討議内容を明らかにする議事録等の記録は、全く作られなかったのです。それは、いかなる理由からだったのでしょうか。

これを見るにつけ、かって1972(昭和47)年当時、日税連が「税理士法改正に関する基本要綱」をとりまとめ、大蔵省・国税庁と渡り合った時代と、いかに税理士業界も様変わりしたものかと、心底驚かされます。

それはさて、久しい以前から国民に待望されながら日の目を見ることのなかった情報公開についての法律が、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下「情報公開法」)として平成11年5月に成立し、翌々年の13年4月から施行になっていました。議事録のような文書を作れば、それは行政文書として、情報公開法によって公開請求されるおそれのあることが、「勉強会」開始前から、公開を求められることとなる行政側の国税庁や大蔵省の当事者には明らかに意識されていたはずでした。だからとはいいませんが、この「勉強会」では、議事録のような公開対象となる危険物はつくらないことが、参加者によって示しあわされていたのです。そのことは、後記の私の公開請求によって明らかになった事実です。さて、すでに税理士法改正案は政府提案として国会に提出されましたから、いささか時期を失した感があり、そのことを内心悔やみながら、平成13年7月、施行間もない情報公開法を利用して、情報公開の義務を負うこととなっている行政機関の長である国税庁長官に対し、その「勉強会」の議事内容つまり議事録についての情報公開を求めたのでした。

そのときなぜ「勉強会」の当事者であり、身近な日税連に情報を聞こうとはしなかったのか、と不審に思われる方があるかもしれません。その疑問にひとことお答えするとすれば、日税連の会則には、その会員である税理士会に所属する個々の税理士個人が、日税連会長に対して会務に関する情報の開示を求める規定はどこにも見当たらないからです。また、仮に情報の開示を求めたとしても、それに応じる日税連とは、残念ながら、到底私には考えられなかったからです。
10年後、またぞろ「勉強会」

今年2011年は、上に述べた前回の税理士法改正のあった平成13年つまり2001年から10年の節目に当たります。この10年間に、この国の政治や社会また経済の情勢も、したがって税理士を取り巻く環境も大きく変化してきています。

日税連は早くから、こうした情勢の変化に対応するとして、日税連としての改正税理士法の提案を幾度か会員に公表しています。ごく最近では、今年の4月21日付「税理士法改正に関する意見(案)」なるものがあります。ところで日税連の広報を見て非常に驚いたのですが、今年5月、また前回つまり平成13年の改正当時と同様、国税庁と日税連、これにオブザーバーとして財務省が加わった「勉強会」が開始されたことが報じられていました。

さてこの「勉強会」は、また前回同様に秘密会で、議事録もとらないのか、という疑問がすぐに私の頭をよぎりました。

ところで、この「勉強会」に関連して、小林岩雄会員が本誌9月号(No.592)にその論稿「平成23年・税理士法改正」のなかで、前回私の行った情報公開について若干触れられているのを拝見して、情報公開を求めた当の本人として、その目的を果たせなかった公開請求ではありますが、その事件の経緯・結果について、いま少し詳しく報告する義務があるのではないか、と考えはじめました。

私も、行政情報公開についての知識を特に持ち合わせているわけでもなく、その研究しているわけでもありませんが、私なりの一つの拙い経験をそのままお話すれば、それを読まれた皆さんが 情報公開についてなにがしかの関心をもたれて、それが今回の「勉強会」に関しての税経新人会の今後の活動にいくらかでもご参考になることがあれば有難いと思うからです。
国税庁長官に請求、次は財務大臣に

私は、平成13年7月24日、所轄の税務署長に、行政文書開示請求書を提出しました。国税局長乃至国税庁長官に関係する行政文書に係る開示請求は、その権限を受任している各税務署長に提出すればよいからです。

私が開示を請求した行政文書は、「平成10年4月より平成13年3月までの間に行われた大蔵省主税局、国税庁及び日本税理士会連合会の三者間の「税理士制度に関する勉強会」の議事録」でした。

さて税務署に開示請求書を提出してから1週間ばかりして、国税庁の税理士係から電話が入りました。肝心の議事録はありませんので、請求には応じられないそうです。折角のご請求ですが、この請求は取り下げられてはいかがでしょうか、という請求の取り下げを要請する趣旨の電話でした。もちろん私は、取り下げはしない旨を答えておきました。

情報開示を請求された行政機関の長は、請求された行政文書を開示するか、開示しないか、その決定は、請求があった日から30日以内にしなければならないことが情報公開法に定められています(法10条1項)。ちょうどその期限の迫った8月21日付で、国税庁長官から、開示はできないという行政文書不開示決定通知書が送達されてきました。

その通知書には、不開示とした理由として、「請求に該当する行政文書は保有していないため。」と記されていました。

またその通知書には、当然のことですが、(教示)として、「この決定に不服のあるときは、この決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に行政不服審査法に基づき国税庁長官に対し異議申立てをすることができます。」と書き込んでありました。

ところが、税理士としての日常の仕事に追われていて、ハッと気づいた時には、もう10月も終わりに近づいていました。これでは国税庁長官への異議申立ては到底間に合わないと思い、いささかあわてました。しかし直ぐに、「勉強会」にオブザーバーとして大蔵省主税局が参加していたことに思い出し、国税庁をあきらめ、改めて10月25日、財務省(大蔵省は平成10年成立の中央省庁等改革基本法によって平成13年1月から財務省に衣替えしていました。)の長である財務大臣に対して、「勉強会」議事録の開示を求める行政文書開示請求書を提出したのでした。

その請求書を提出してから1月たたない11月末には、財務大臣からも、国税庁長官同様の理由による不開示決定通知書が届けられてきました。

年末調整などの忙しい年末が過ぎた翌平成14年1月になって、今度こそ忘れずに、財務大臣に対し、不開示決定処分の取消しを求める異議申立書を提出することができたのです。
事件は情報公開審議会の諮問に

その間、財務省の担当部署との間で、電話での何らかのやり取りがあったかもしれませんが、記憶はありません。

異議申立書を提出したのは平成14年1月ですから、それから約1年たった翌平成15年、私たち税理士にとっては、所得税確定申告の繁忙期が始まったばかりの2月17日に、財務大臣から、私の不服申立てについて情報公開審査会(以下「審査会」)に諮問したとの通知書が届きました。

情報公開法の規定で、不服申立てがあったときには、その行政機関の長(諮問庁といいます。)は、その不服申立てが不適法で却下するとき等を除いては、審査会に諮問しなければならないことになっているからです(法18条)。

この審査会は、諮問された事件を審査する委員によって組織されていますが、その委員は、「優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。」と規定されている(情報公開・個人情報保護審査会設置法第4条1項)ように、権威あるものとされているわけでしょう。

諮問庁から諮問された審査会は、諮問庁が不開示とした決定が妥当か、否か、について非公開の調査審議を行ない、その結果を諮問庁に答申することになっています。諮問庁である財務大臣は、その審査会の答申に従って、不服申立てを認めるか、棄却するかの裁決・決定を行うという手順を踏むことになるのです。異議申立人が、その棄却の裁決・決定に不服で、なお争うとすれば、裁判所に提訴することになるのでしょう。

審査会に諮問した諮問庁からは、不開示決定を行った詳細な理由説明書(以下「理由書」)を審査会に提出されていて、2月25日、審査会から、その理由書の写しが私に送付されてきました。同時に、その審査会の書面には、私からも審査会に対し、意見書または資料を提出することができる旨がかかれていましたので、私も送付された理由書に反論する意見書を審査会に提出しました。

審査会は、5月1日、諮問庁である財務大臣に対し、諮問に対し調査審議した結果出された答申書を送り、私にもその写しを送ってきました。

答申は、財務大臣の不開示とした決定を妥当だとするもので、この答申を受けて、6月2日、財務大臣は、私の異議申立てを棄却する旨の決定書を、私に送付してきました。

最後に、やや長くなりますが、審査会の答申書の全文を転載することにいたします。これをご覧になれば、情報公開制度がどんなものか、ー私たち国民から行政庁に対する情報公開請求ー行政庁による開示又は不開示の決定ー不開示の処分に対し国民から行政庁へ異議申立てー不開示の当否について行政庁から情報公開審査会へ諮問ー審査会から行政庁へ不開示の当否を答申ー答申を受けた行政庁から私たちの異議に対する裁決・決定ーという一連の流れを理解する一助になるのではないでしょうか。また、議事一切を秘匿し、議事録も作成しない、日税連・国税庁・財務省三者の合議体「勉強会」とは、いかなる役割・性格をものであるかなどについても、お分かりいただけるのではないか、などと思っているからです。
不開示を妥当とした審査会の答申書

(≪≫内のゴシックの小見出し及びアンダーラインは筆者)

第1 審査会の結論

平成10年4月から同12年3月までの間に数次にわたり行われた財務省(当時大蔵省)、国税庁及び日本税理士会連合会三者間の「税理士制度に関する勉強会」の討議を記録した文書(論点整理メモを除く。)(以下「本件対象文書」という。)につき、不存在を理由に不開示とした決定は妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨

1 異議申立ての趣旨

本件異議申立ての趣旨は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」又は「情報公開法」という。)3条に基づく本件対象文書の開示請求に対し、平成13年11月22日付け財税第412号により、財務大臣が行った不開示決定について、その取消しを求めるものである。

2 異議申立ての理由

異議申立人の主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書の記載によると、おむね以下のとおりである。
(1) 平成10年4月から同12年3月にわたって行われた財務省(当時大蔵省。以下同じ。)、国税庁及び日本税理士会連合会(以下「日税連」という。また、これら三者を併せて「関係三機関」という。)の三者によるいわゆる「税理士制度に関する勉強会」(以下「勉強会」という。)は、その後同13年5月25日衆議院で可決成立した税理士法改正案の素案となるものを審議されたと理解している。

≪会議のメモも行政文書では?≫

(2)「勉強会」と言いながらその会議は、上記関係三機関間における国の税理士制度にかかわる重要な事項について協議するものであり、協議内容について記録をとらないということは常識から考えてもあり得ない。

(2) 議事録と銘打たなくとも、何らかの記録(メモ等)はあるはずであると考えられ、それらの記録は、メモに類するものであっても明らかに行政文書に該当すると言わなければならない。

≪文書不存在は行政の民主化に逆行≫

(3) 文書の保有がないとした今回の不開示決定処分は全く理解し難いところであり、こうした重要な会議の記録を保有しないということ、そして保有しないことを理由に不開示とすることは、行政機関の保有する情報の公開によって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うし、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的として制定されたいわゆる「情報公開法」の意義を失わせるものと言わざるを得ない。

(5)行政機関の保有する情報の公開を図ると言っても、情報そのものがないとか、所在不明というのでは、情報公開法も絵に描いた餅となりかねず、行政行為、行政意思の決定過程などの国民にとって必要かつ重要な情報が、確実に文書化され、整理され、保存され、何時でも請求に応じて国民に公開されるようになっていなければならない。

(6)重要な行政意思の決定にかかわる会議などについて、議事の内容を秘匿する意図の下に、議事録などの作成を行わず、記録は関係者のメモにとどめ、そのメモは個人的なものであって、「行政文書」には当たらないとして公開を忌避するというようなことが許されてはならない。

(7)請求人は税理士であり、税理士法改正の重要な基礎となった「勉強会」の討議内容を詳しく知る必要がある。

(8)「情報公開法」の成立は平成11年であるが、そのはるか以前から行政情報の公開は、我が国行政の民主化の上に欠かせない重要な政治課題として喧伝検討されてきたものであり、当時既に「情報公開法案」は国会で審議され、正に法成立直前であったと記憶している。そのような時期に、あるいはそのような時期であったからこそと言うべきかもしれないが、「勉強会」の議事録をあえて作成しなかったということは、情報公開の精神に悖り、行政の民主化に逆行するものと言わざるを得ない。
第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書は、異議申立人の主張によれば、平成10年4月から同12年3月までの間(以下「当時」という。)に行われた関係三機関の間での「勉強会」での議論の内容について記録された文書である。

2 勉強会は、平成11年5月15日付け日税連の機関誌「税理士界」に掲載された「税理士制度に関する勉強会における「論点整理メモ」について」に記載されている通り、同9年4月に日税連の制度部が公表した「税理士法改正に関する意見(タタキ台)」の項目を中心としながら、税理士制度の在り方について幅広い見地から関係三機関で議論を行ったものである。

この勉強会は、自由な意見交換を行うとの趣旨から、会議の内容は非公開とされ、議事録も作成されなかった。

≪意見を書き留めたメモは作成≫

3 財務省主税局は税理士法改正について要望を行う立場にはないが、税理士に関する制度の企画及び立案に関する事務をつかさどることから、制度の在り方について行う議論や検討に資するものがあると考え、勉強会に参加していたものである。
 このような諮問庁の立場から、勉強会の議論の内容について網羅的な記録を作成する必要はなかったが、当時の出席者に確認した結果、専ら出席者自身の備忘のため、各出席者の意見の概要を書き留めたメモ(以下「備忘録」という。)を作成及び取得していたと記憶している旨の回答を得た。

4 備忘録は主に国税庁の係員が作成し、主税局及び国税庁の勉強会出席者のみに配布され、「税理士界」に掲載された論点整理メモ作成の際のチエック用として使用したと聞いており、備忘録の内容は「税理士界」に掲載された論点整理メモの内容とおおむね一致している。

5 勉強会を開始して約1年が経過した後、勉強会においてどのような議論が行われているのかといった声が税理士会会員等から聞かれるようになったことから、勉強会の開始当初は予定されていなかったが、それまでの議論の内容をまとめた「論点整理メモ」が作成されることとなり、税理士制度の在り方についての議論を更に深めていくための参考として同メモが「税理士界」で公表(平成11年5月、同12年2月及び同年5月の計3回)された。

≪保存の要なしとメモ廃棄≫

「 論点整理メモ」の作成の際には、関係三機関の出席者間で内容の確認が行われたが、その際、諮問庁においては、前述の「備忘録」を参考にしていたと記憶している旨、当時の出席者に確認した。また、前述の「備忘録」は、「論点整理メモ」が公表された後、盛り込まれた論点の正確性が問題とされる可能性のある1年未満の一定の期間は保存していたが、その後においては、業務上保存する必要がないため、廃棄したと記憶している旨、当時の出席者に確認した。

6 論点整理メモは主税局が主体なってその取扱いを判断するという性質の文書ではないため、内容の確認に当って決裁をとっておらず決裁文書は存在しない。

7 税理士法の改正について審議会による審議を行うとすれば、税制調査会で行うこととなり、その担当部局は主税局であるが、同調査会においては税制の在り方等について検討することとされ、同調査会から業界の要望を受けて所要の検討が必要であるとの一般的な答申はあった。しかし、税理士法改正に係る要望のような個々の改正要望項目については審議しておらず、同調査会における審議のための文書も作成していない。

また、主税局において、税理士法改正に関しては私的諮問機関を設置しておらず、そのための文書も作成していない。

さらに、勉強会に関し、官房文書課、内閣法制局等への説明用の文書を作成していないか否かについても確認したところ、この段階では勉強会は官房文書課や内閣法制局等に説明をするような成熟度の高い事項を協議していたものではないため、官房文書課等には説明しておらず、そのための資料も作成していないとする。

≪廃棄は文書管理規程に則る≫

8 当時の大蔵省文書管理規程(昭和27年大蔵省訓令特第1号)に照らしても、「備忘録」の性質から判断すれば、同規程別表第4第1類から第4類までの1年間以上の保存の必要がある文書に該当しない。したがって、「備忘録」は当時作成及び取得されたものの、同規程に従いその後1年以内に廃棄されたものと認められる。

9 なお、現在本件事務を担当している主税局税制第三課通則法係においては、本件文書が現実に存在しないかどうか、保有するすべての行政文書ファイルについて確認作業を行ったが、発見することはできなかった。
また、当時本件事務を担当していた主税局総務課総務第二係においても、本件文書の存在は確認されなかった。

10 以上のことから、諮問庁は本件文書を保有しておらず、行政文書不存在として不開示決定した原処分は適当であると考える。
第4 調査審議の経過

当審査会は、本件諮問事件について、以下の通り、調査審議を行った。
 平成15年2月17日 諮問の受理
 同日 諮問庁から理由説明書を収受
 同年3月18日 異議申立人から意見書を収受
 同年4月15日 諮問庁職員(財務省主税局税制第三課長ほか)から口頭説明の聴取
 同月25日 審議
第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件対象文書は、平成10年4月から同12年3月までの間に数次にわたり行われた関係三機関間の勉強会の討議を記録した文書(論点整理メモを除く。)である。

2 本件対象文書の存否について

異議申立人は、関係三機関による勉強会は税理士法改正案の素案となるものを審議したものと理解しており、勉強会といいながらその会議は、上記関係三機関間における国の税理士制度にかかわる重要な事項について協議するものであり、協議内容について記録をとらないということは常識から考えてもあり得ず、議事録と銘打たなくとも、何らかの記録(メモ等)はあるはずである旨主張する。

これに対し、諮問庁は、勉強会は、平成11年5月15日付け日税連の機関誌「税理士界」に掲載された「税理士制度に関する勉強会における「論点整理メモ」について」に記載されているとおり、同9年4月に日税連の制度部が公表した「税理士法改正に関する意見(タタキ台)」の項目を中心にしながら、税理士制度の在り方について幅広い見地から関係三機関で議論を行ったものであり、勉強会は自由な意見交換を行うとの趣旨から、会議の内容は非公開とされ、議事録も作成されなかった旨説明する。

(1) 勉強会の性格について
平成11年5月から同12年5月までの間前後3回にわたり「税理士界」に掲載された論点整理メモによれば、その内容は、関係三機関の出席者の自由な発言、意見を取りまとめたものである。

さらに、勉強会後、平成13年5月25日に税理士法の一部を改する法律が成立するまでの経緯を概観すると、以下のとおりである。平成12年5月下旬 「 『税理士法改正に関する意見(タタキ台)』等に関する日税連と国税庁の協議要旨」を日税連と国税庁で作成し、合意内容を日税連が同年6月15日付け税理士界で公表

同年8月31日 「税理士法人に関する日税連と国税庁の協議要旨」を日税連と国税庁で作成し、日税連が同年9月15日付け税理士界で公表
同年9月27日 日税連が「税理士法に関する改正要望書」を主税局、国税庁に提出
同年1同年12月7日 国税庁が「税理士制度改正要望」を主税局に提出
同13年3月9日 税理士法の一部を改正する法律案を国会に提出
以上の一連の経緯に照らすと、勉強会は税理士法改正を控えた初期段階に開催されたものと認められ、幅広い見地から関係三機関で税理士制度の在り方について自由な議論がなされたものであるとする諮問庁の説明は納得し得るものである。

(2)本件対象文書の作成又は取得の有無について
上記勉強会の性格及び前記第3の諮問庁の説明を踏まえて検討すると、勉強会に関し、備忘録が当時作成及び取得されたものの、それ以外の資料は作成されていないとする諮問庁の説明に不自然、不合理な点はないものと認められる。

(3)備忘録の廃棄について
当審査会において、諮問庁から当時の文書管理規程の提示を受け見分したところ、同規程では文書の保存期間を、第1類(永久)、第2類(10年間)、第3類(5年間)、第4類(1年間)と規定しており、これらの各類に該当しない文書については、部局の文書管理官等が1年間以上保存の必要があると認めた場合を除き保存期間は1年未満となっている。

前記第3の諮問庁の説明及び当審査会における文書管理規程の見分の結果を踏まえて検討すると、当時の文書管理規程に基づき保存期間満了後廃棄されたことから本件対象文書は存在しないとする諮問庁の説明に不自然、不合理な点は認められない。

(4)以上の諸事情を勘案すると、備忘録が当時作成及び取得されたものの、当時の文書管理規程に基づき保存期間満了後廃棄されたことから本件対象文書は存在しないとする諮問庁の説明に不自然、不合理な点はなく、他にその存在を推認させるような事実も認められない。

したがって、本件対象文書を保有していないとする諮問庁の説明は妥当であると認められる。
その他異議申立人は種々の主張をしているが、当審査会の上記判断を左右するものではない。

3 本件不開示決定の妥当性

以上のことから、本件対象文書について不存在を理由に不開示とした本件決定は妥当と認められる。
第6 答申に関与した委員

吉村徳則、高木佳子、戸松秀典

(追記)
この稿の最後に、次のことだけを記して終わりたいと思います。
 上記の「勉強会」でもそうですが、行政官僚、国税庁や財務省のお役人たちは、その内容が外部(国民)に漏れないように秘匿し、議事録のような記録は一切とらないようにしなければ、自由な意見の交換はできないもののようです。自由な意見の中でうっかり本音がもれ、それが国民に知れたらまずい、ということなのでしょうか。
しかし、秘匿される行政の本音を知るためにこそ、情報公開制度があると、私は考えています。

 国民に秘匿されることのない行政の透明化によってこそ、初めて国民主権の民主主義国家が成り立ち得るのではないでしょうか。そのために情報公開制度もあるわけですが、この制度を実効あるものとするためには、何を文書として記録しなければならないか、その文書をどこで保有し、どこでいつまで保存しなければならないか、それを利用する私たち国民の立場からの明確なルール作りが必要ではないでしょうか。、その点、平成21年「公文書等の管理に関する法律」が制定されはしましたが、現状はまだまだ極めて不十分だと思われます。

(いとう・きよし)

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