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時潮

拙速に過ぎるTPP交渉参加
副理事長 大塚 洋美

昨年の10月1日、参院選挙後の臨時国会の所信表明演説で、菅直人首相がTPP(環太平洋経済連携協定)を進めると発言しました。本当に唐突な発言でした。しかしマスコミは一斉に「TPPへの早期参加を!日本は乗り遅れるな」と大合唱しました。何故「TPP推進」という発言が出てきたかはよく分かりませんが、「日本経済新聞」に「アメリカのオバマ大統領がTPPへの取り組みを強めているのを見ていた外務・経済産業両省が、APEC横浜会議の議長国として目玉を探していた菅首相にそれを示し「これだ!」ということで乗ったと言われている。」という記事が載っている。場当たり的発想から出てきたTPP参加という話であるが、もしTPPに参加するとどういう影響が出るかというと次のような試算が発表されている。

 内閣府   ・・・ 100%関税撤廃すると、GDP 2.4 3.2兆円増
 経済産業省 ・・・ TPP不参加の場合は雇用が81.2万人減でGDP 10.5兆円減
 農林水産省 ・・・ 農業・林業・水産業の生産減少額 4.5兆円
 食料自給率 40% → 14%程度
 就業機会の減少数 350万人程度

参加推進派は政府、財界、大手メディアであり、反対派は地方自治体、農林漁業団体、医療団体などです。

民主党が農政の目玉としているのは「戸別所得補償」です。このような措置をとりさえすればTPPが目指しているように関税などを撤廃しても、日本の農業は維持できるというものです。関税など国境措置がないもとで、野放図に外国産品の輸入量を調整しないもとでは、たとえ国産品と外国産品が同程度の値段でも、均質でまとまった量を確保しやすい外国産品が選ばれることが非常に多くなるということです。そうすると、従来よりも輸入が増加し、その分だけ国産品は在庫として積み上がり、あるいは売れないものとして廃棄されることになります。

「農業者の所得を補てんする」という "美名" でいくら飾り立てようが、このようにして生み出される「売れない国産品」に国民の税金をつぎ込むことが許されるのでしょうか。これでは納税者である国民の理解が得られるはずがありません。

また、食料自給率の低下は世界の状況にも合いません。いま世界では人口増加や食生活の変化にあって食料の需要は増加し、一方、温暖化による供給力の低下で食糧不足が懸念されています。だから国連などでは、すべての国が自国での食料生産の拡大を求めています。それだけに自給率の低下は世界の趨勢に逆行する事態です。

TPP交渉へ参加するか否かの議論は、東日本大震災の発生を受け、実質的に中断をしているようです。被災地の基幹産業の農林水産業が大被害を受けているのに、これらの産業に壊滅的打撃を与えるTPPへの参加は無謀と考えられたからです。TPP参加は、東日本大震災の東北被災県にとっては復興の展望が奪われるという事態を招く問題です。9月21日に行われた日米首脳会談において野田首相はアメリカのオバマ大統領からTPP参加の結論を急ぐように要求されました。このままでは国民生活を将来にわたって左右する問題について、その中味を国民が十分に知らされないまま、また議論が深まらないまま調印するということになりかねない。TPP交渉参加には、まだまだ議論が不足しているのではないかと考えます。

(おおつか・ひろみ:神戸会)


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