論文

決算カードから加賀市の財政状況をみる
東京会 新国 信

はじめに

加賀市は、石川県の南西に位置し、面積は306.00kFで人口は73,848人(住民基本台帳2010.3.31現在)で、石川県下で面積は6位、人口で金沢・白山・小松に次いで4位の都市である。1958(昭和33)年に町村合併で加賀市は誕生した。2005(平成17)年10月に山中町と合併し現在の加賀市が発足した。

合併前の旧加賀市と山中町の合計人口のピークは、1985(昭和60)年の80,877人であったがそれ以後は人口の減少傾向が続いている。加賀市には東証一部上場の大同工業があるが、やはり市内にある山中、山代、片山津温泉を中心にした観光都市といえよう。2005年の温泉統計の年間浴客数は、山代温泉が110.5万人、山中温泉が56.4万人、片山津温泉が39.5万人となっている。

類似団体との比較

総務省は毎年度、全国の自治体から「地方財政状況調査」等の報告に基づいて各自治体をグループ分けして財政比較等の参考にするため類似団体別市町村財政指数表を発表している。同表では人口と産業構造の2要素の組み合わせによって政令指定都市、特別区、中核市、特例市はそれぞれ1類型に、都市を16の類型に、町村を15の類型に分類している。なお、類型の数は平成17年度の国勢調査に基づいて設定されており、昨年の国勢調査の結果での見直しも予想される。

加賀市は、上記区分ではII-2、すなわち人口で5万人から10万人未満、産業構造がII次III次産業合計で95%以上で、かつ。次産業が65%未満の都市に該当している。

今回比較につかう類似団体としては、表Iのとおりである。なお、この区分に属する全国の都市は全部で44自治体があり、2009(平成21)年度統計に集計された団体は37で84%が対象とされている。平成の大合併を経て、全国の都市は596、町村は846、政令指定都市等の122団体で合計1,564団体となっている。10年前の1999(平成11)年度には、都市が634、町村が2,558で政令指定都市等を併せて3,229団体があったのと比べると平成の大合併の規模の大きさがわかる。

平成の大合併は、合併特例債(事業費の95%を地方債で賄うことができ、償還の際は70%を普通交付税の基準財政需要額に算入)というアメと普通交付税の削減というムチを使い合併を促進した。
表I
収支状況

加賀市の財政収支の総体は表IIのとおりである。2009年度は、実質収支で12.4億円の黒字、これから前年度の実質収支を控除した単年度収支でも7.7億円の黒字、さらに当年度の積立や取崩等を加除した実質単年度収支でも7.8億円の黒字になっている。
表IIIに掲示した他市のうち実質的に実質単年度黒字を確保したのは犬山市・赤穂市のみにとどまり、他は積立金の取崩等で対応した姿がはっきりと読み取れる。
表2
表3

歳入構造

加賀市の歳入構造の最近5年間の推移は表「のとおりである。2007年度に所得税から住民税に税源移譲があり、地方税収が8億円と大幅に増えたが、譲与税が減少したため実質では2.3億円の増収にとどまり、2008年のリーマンショックによる景気後退から21年度では約4億円減収している。地方交付税もほぼ横ばいで、一般財源合計では税源移譲前と比べて若干の減少となっている。しかし歳入総額は325.9億円と2005年度より28.3億円ほど増加している。一般財源はほぼ横ばいであるので、特定財源である国や県からの支出金で29億円、地方債17.5億円などで他の減収をカバーしている。

なお臨時財政対策債は一般財源の不足に対処するため、投資的経費以外の経費にも充てられる特例地方債で、国における赤字国債と同様の性質をもつ。臨時財政対策債は償還の際には地方交付税で措置されることになっている。
表4
税収

加賀市の地方税収の推移は表」のとおりである。前述したように税源移譲で2007年度には個人所得割で7.6億円増収となったが、リーマンショックによる景気後退の影響が2009年度から出ているように思える。
加賀市の税収の特徴として入湯税がある。ほぼ地方税収の2.5 3.0%を占めているが、これも傾向的に低落しているのがみてとれる。2009年度を標準税率の150円で割り戻すと約165.8万人の入浴者数と推計され、190万人が来市していた2005年度と比べ15%前後の減少となっている。
表5
歳出構造

性質別歳出の状況
表VIみられるように、歳出総額ではこの5年間で20.0億円ほど増えている。項目別にみてみると、増加しているのは扶助費が6.2億円、補助費等が15.8億円、普通建設事業費が14.3億円(うち補助事業分が23.0億円)、逆に減少しているのは人件費が5.8億円(うち職員給が7.1億円)、公債費が4.3億円、積立金が6.4億円となっている。
表6
目的別歳出の状況

表VIIは目的別歳出である。目的別で増えているのは、民生費で16.7億円、衛生費が24.3億円、商工費の1.5億円など。減少しているのは、総務費が11.6億円、農林水産費が0.9億円、公債費が4.3億円、土木費が1.2億円などである。2009年の決算では民生費34.5%、衛生費16.5%、公債費14.2%である。
表7
財政指標

財政力指数と地方交付税
表VIIIのとおり、加賀市の財政力指数(基準財政収入額÷基準財政需要額)は、およそ0.58kara333.gif0.61で推移している。つまり住民生活の基本的な需要を賄うには約40%の財源が不足していることになる。これを補うものが地方交付税で、この間の推移はほぼ横ばいとなっている。民主党マニフェストもあり、地方への配慮をある程度はせざるを得なくなり、そのためのものであろう。なお、類似団体の財政力指数は、0.90となっており、加賀市の0.61は類似団体の中では最も低い。

小泉政権時代の三位一体改革(補助金整理・交付税削減・税源移譲)により改革の前後では全体で5兆円超の減額となり地方財政の運営はさらに厳しくなった。国の財政再建にとって地方交付税の削減は大きな課題となっており、道州制もそうした延長線上のものとして視ておく必要がある。
表8
経常収支比率

経常経費充当一般財源等を経常一般財源等で除した数字がこの比率である。この比率は財政構造の弾力性を測定する比率として使われる。従来は80%が望ましいと言われていたが、現在では数値目標としてはあまり示されなくなった。加賀市の場合、99.0%であり、経常一般財源等はほぼ経常経費に充当されてしまい、他の臨時的支出に充てられる財源が1%しかないこと、類似団体の91.2%と比べても財政運営の弾力性が乏しいことを示している。

実質公債費比率

基本的には、公債費を標準財政規模で除した数字であるが、地方財政健全化法の施行にともない健全化団体又は再生団体におちいる可能性が広がったために、2006年度までの計算式が2007年度から変わり、従来よりも低い率に算出され得ようになった。加賀市のこの比率は14.5%で、類似団体の10.4%より高めになっており、公債費負担がそれだけ他団体よりも重くなっていることを示している。

将来負担比率

将来債務を標準財政規模で除した数字であるが、これも実質公債費比率と同様健全化団体になることを恐れた自治体からの要請で当初予定されていた計算式が大幅に緩和されたため、それほどの役立ちがあるか疑問に思えるほどであるが、他の団体との比較は可能なので、それなりには意味もあろうと思う。加賀市のこの比率は108.7%となっているのに比し類似団体のそれは73.7%で、将来負担は他団体よりも重いことを示している。

おわりに

昨年の国勢調査の速報によると、加賀市の世帯数で25,947、人口は71,911人と5年前と比べそれぞれ52世帯、3071人が減少している。

加賀市の財政当局もその厳しさを認識して以下のような対策を提起している。
人件費の抑制、事業選択の徹底と事業費の削減 公債費の抑制 指定管理者制度の活用によるコストの削減・施設の統廃合 退職不補充なで定員管理の適正化

地方の疲弊が言われてから久しくなるが、加賀市も人口の減少が続き高齢化も進み財政支出の増大が見込まれる中での財泉運営を続けなければならない。住民の負担増と給付の削減という最悪の組み合わせを避けるにはどのような財政運営はいいのか、やはり当局の努力と住民自身の知恵を結合してよりよい住民生活ができる方策を探していくことが求められよう。

補論  志賀原発と志賀町の財政

石川県には、加賀市の約100キロほどの北部に北陸電力の志賀(しか)原発がある。
1号機は、沸騰水型軽水炉で出力54万キロワット時、1993(平成5)年7月に運転開始、2号機は改良型沸騰水型軽水炉で出力120.6万キロワット時。2006(平成18)年3月稼働開始である。北陸会の山根さんの報告によると両機とも現在は停止中である。原発設置については多くの裁判例があるが、住民側が勝訴したのはこの志賀原発2号機に係る金沢地裁の判決と高速増殖炉もんじゅの名古屋高裁金沢支部の判決のみである(最高裁ではいずれも住民側敗訴)。なお、石川県県北の珠洲(すず)市に原発を設置しようとした中部電力の計画は住民の反対で凍結されたままである。

2009(平成21)年度の志賀町の財政
町村類型 V-1(人口2万人以上、II・III 次84%以上、。次55%未満)
歳入総額は162.4億円、うち地方税70.4億円、うち固定資産税57.6億円で市税収入の81.8%である。
町民税個人所得割は883,451千円、人口23,645人なので、一人当たり37,363円となる。
固定資産税は2006年度29.9億円、2007年度67.4億円、2006年3月に2号機の運転開始により大幅増収となっている。志賀町の財政力指数は0.96、実質公債費比率は12.7%、将来負担比率は110.4%で、類似団体のそれは各々0.75、11.3%、92.8%となっている。

志賀原発の存在により、町の税収に占める固定資産税の割合は81.8%で、加賀市の44.7%と比べその異常さが目につく。2007年度をピークに年5億円のペースで減少している。これだけの税収がありながら地方交付税の交付団体であり27.6億円の交付がある。もし、原発が廃炉されると固定資産税が減収となり財政力指数が大幅に低下し、地方交付税がその減収分の大部分を補うことになるので住民生活が耐乏生活になることはない。ただし、原発関係交付金がなくなるので原発関係交付金で創られたであろう公共施設の維持資金が困難となることは十分あり得る。経年とともに固定資産税が減少するので新たな原発を誘致しないと施設の維持管理もままならなくなる。そのことが原発の集中をもたらしている。

決算カードは1年分の当該自治体の歳出入の結果や債務現在高などを一表にまとめたもので、これを類似団体と比較したり、各年のデータの経年表を作成して趨勢をみたりして分析をする基本になるものである。今では決算カードは2001(H13)年度から総務省のHP からアクセスできるようになっているので、読者もご自身の出身地の状況などをフォローしてみることをお勧めする。

(にっくに・まこと)

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