リンクバナー
時潮

2015年
理事長 清家 裕

東日本大震災から半年になろうとしている。地震、津波、原発、風評などにより被害を受けている被災者・被災地から悲痛な声が寄せられている。「生活基盤の回復なしに復興はありえない。(略)失望が絶望に変わるには、そう時間は必要でない。時間がないのだ。生活と生業の生活基盤の再構築、これが国の責務である。」(石巻の庄司会員)と訴えている。

菅民主党政権はこの現地の声を真正面から受け止め真摯に対応をしているのか。今は生活基盤の再建のための復旧に、全力を傾ける時ではないのか。復旧よりも復興に力点を置いた対応策が目立ち、20数兆円と言われる復興費、それに群がる財界、大企業、それに道筋をつける法律の制定、菅民主党政権と現地の被災者との間で大きなズレが生じている。被災者・被災地の声を十二分に聞いて、被災者・被災地のための復旧・復興のための立法を切に求めたい。

「復興財源をどうするのか」「何に財源を求めるのか」、菅民主党政権は2015年度までの財源措置として、約10兆円の増税方針を打ち出した。所得税、法人税、消費税の「基幹税」などを多角的に検討するとしている。復興財源のための増税方針は、民主党政権の目指す「税制改革」と軌を一にしている。この「税制改革」は国民本位の応能負担による改革ではなく、財界本位の大企業・高額所得者・大資産家に負担を求めない増税策である。そして、大震災後もこの「税制改革」は改められることなく、2015年をターゲットに税制・税務行政・税理士制度の「改革」の動きが強められているのである。

1.税制の「改革」

税制の「改革」では「社会保障・税の一体改革」と称して、2010年代半ばまでに消費税を含む税制の抜本改革を行うことを決めた。2010年代半ばとは2015年度である。

(1)消費税
消費税の税率を2010年代半ばまでに段階的に10%に引き上げ、消費税を社会保障の財源に限定するための「社会保障目的税」にしようとしている。仮に2015年度に10%に引き上げると、大企業、特に輸出大企業は大変な恩恵に預かることになる。法人税や社会保険料の負担軽減、輸出戻し税による輸出補助金の倍増、消費税増税を口実にした値引き・単価切り下げが横行するだろう。そして今後、社会保障財源が不足すれば消費税率を15%、20%、25%に引き上げるレールが敷かれることになる。庶民にとってこのレールの行き着く先は奈落の底である。

(2)所得税
所得税は扶養控除の原則廃止、配偶者控除の縮小・廃止、給与所得控除の大幅縮小などを計画、一方、証券優遇税制は金融所得課税の一体化(損益通算)にスライドさせ優遇の恒久化をはかろうとしている。課税最低限の大幅引き下げによる生活費に大きく食い込む課税、金融所得者には一層の税負担の軽減策である。

(3)相続税
相続税は基礎控除の4割カットなどで、生活資産への課税が強化されようとしている。

(4)法人税
法人実効税率(法人3税)を40%から35%に引き下げ、さらに25%への引き下げを目指している。これは「国際競争力」などを口実に、財界の強い求めに応じるものである。

2.税務行政の「改革」

(1)国税通則法の改悪案
国民・納税者が長きに渡って求めてきた納税者権利憲章の制定を逆手にとって、現在国会に上程されている国税通則法の「改正案」は、制定する「納税者権利憲章」は名ばかりで、国税通則法を改悪して課税当局の権限強化・納税者の義務強化を図る法案である。これは2015年度までに消費税率を10%に引き上げ、所得税や相続税などの庶民増税で激増する納税者・滞納者対策の布石である。

(2)「共通番号制度」の導入
6月に決定された「社会保障・税番号大綱」(以下、「共通番号制度」)は、今秋国会に法案を上程し成立を目指している。そして、2015年1月から実施する計画である。この「共通番号制度」は国民総背番号制度であり、税務分野では税制改悪により激増する納税者・滞納者への徴税強化の道具として使うことが想定される。

3.税理士制度の「改革」

日本税理士会連合会(以下、日税連)が進める税理士法の「改正」は、2012年度中に「見直しの必要性や方向性について結論を出す」となっている。「改正」には、 電子申告の代理送信の税理士業務化、 書面添付制度・意見聴取制度の普及、 税理士の税務援助への従事義務化があげられ、税理士の課税当局への一層の下請化が促進されようとしている。これも2015年度までの税制改悪で、激増する納税者・滞納者対策の一環であると考えられる。

4.2015年に向けて

税制・税務行政・税理士制度は2015年に向かって、国民・納税者に従来をはるかにしのぐ負担と犠牲と規制を強めていこうとしている。2015年以降、日本はどんな社会になっていくのだろうか。背筋が「ゾッ」とする思いである。私たちはこのような「ゾッ」とする社会にしないために、今から憲法に基づく国民の権利を擁護する立場から、しっかり議論をし、しっかり本質を見定め、しっかりした見解を国民・納税者に発信していかなければならない。そして「数は力なり」、新人会の魅力をますます高め、会員拡大・新報読者拡大を旺盛に取り組まなければならない。「一緒に考え、一緒に行動」すれば、大きな力を発揮することができるだろう。

(せいけ・ひろし:大阪会)


▲上に戻る