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時潮

いきどおり
税制基本問題検討委員会 委員長 井上 礎幸

税制基本問題検討委員会の委員長として、本来であればこの時期の「時潮」には本年度の改正税制に対する批評や、今後の税制問題への提言を書くべきであろう。しかし、今年は福島第一原発の問題に絞って書かせていただくこととしたい。

批判を覚悟で言わせてもらえば、税金が倍になろうと個々人の生き死には直接的な影響ないと思う。それより本当に問題なのは、何といっても原発・放射能のことである。自分自身、日に日に放射線に対する問題意識が下がっているのは間違いないことが情けないのである。想像するに、妊娠中の家族がいたり、幼い子どもを抱えていたりすれば、違う行動を取る可能性がある。しかし今現在は、これまで通りの状況(職場と自宅)を変えずにいることは、3月11日以後の環境汚染を自らの判断の結果、甘んじて受けているのである。

確かに仕事は大事であるが、一見重大な選択を迫られているようでありながら、「命の問題」と「たかだか税理士稼業」を比べること自体がナンセンスなのだと思う。乗り物に例えるならば、電車で行くか車を使うかは、時間的効率や交通事情を考えれば良いし、単純に電車や車の好き嫌いで判断してもよい。この交通手段の選択は、職業選択の自由に置き換えることができる。しかし、飛行機嫌いの人が時間をかけて電車で行く話はよく聞くが、それは、飛行機事故のことを考えると怖くて乗れないのだと思う。原子力の事故が起きてから、関西方面へ移住した人たちがいたが、この人たちは放射能の危険性を考えた時、移住先での仕事のことや、子どもの転校のことなどいくつもの問題があるものの、かけがえのない命を大事にしたいからこそ、そういった行動を起こしたのだと思う。

昭和43年生まれの私は、戦争の悲惨さを知らないが漫画「はだしのゲン」を読み、夏休みには必ずといっていいほど、広島や長崎のニュースが流れていた。間接的ではあるが、原子力の恐ろしさを知っていたはずであった。これまでも、気持ちの中に反原発があったが、改めて自分自身は何も行動を起こさず、結果的に日本の原子力政策に追認してしまっていたといわれても仕方がない。

福島第一原発の事故のレベル7は、1986年の旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原発事故と同レベルであるそうだが、1979年のアメリカ合衆国のスリーマイル島のレベル5の事故が1日で収束、チェルノブイリの事故も10日で一応の収束ができたそうである。これらのことを考慮すると、冷却水を注入しては不具合を起こしている状況は史上最悪の事態が今も進行しているといえるだろう。プルトニウムの半減期は2万4,000年だそうである。日本の縄文時代は今から1万6,000年前から3,000年前だそうだから、気の遠くなる時間であることは間違いなく、責任の取りようがないとしか言えない。

しかし、今現在も被災地では避難所で暮らす人たちが大勢いて、ガレキの山が大量に存在し、日常を取り戻せない状況が続いている。今年は梅雨明けが例年より早く、暑い夏がやってきた。特に被災地の方々は精神的負担も多く、暑さがより体にこたえる事と思う。我われは、それぞれができるかたちの支援を続けていく必要があると思う。それが増税ということではなく、寄付やボランティア活動などの「自主的な行動」によることで続けていくことができるならば、きっと日本は再び元気になるのだと思う。

(いのうえ・もとゆき:東京会)


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