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時潮

大震災と政治
全国協議会組織部長 相田 英男

津波ですべてのものが流され、死者が100 人単位で告げられ、見わたす限りがれきの山となっている。戦場のような光景についついテレビに釘付けになる。戦争になるとこうなるのだと率直に感じたものだ。

東日本の現実を政治家はどのように感じたのか。震災からわずか2 か月後の5月18 日には参議院・憲法審査会の規定制定が強行され、6 月7 日には改憲の発議要件を衆参各議員の3 分の2 以上から過半数に変え、9 条改悪などに向けたハードルを引き下げるねらいをもつ「憲法96 条改正を目指す議員連盟」の設立総会が開かれている。

震災復興もそこそこに政治家は戦争への道をひた走っているように見える。9 条を変えて他国で戦争ができるようにする。罪もない他国を東日本のようにするのか。NHKの「世界ふれあい街歩き」など見ても世界の人々は平和に生きている。だれも他国から攻撃されることを望んではいない。

中国脅威論がまたまた流されている。中国と経済的に深いつながりをもって生きている日本がなぜ中国を敵視するのか。

また、福島原発の放射能汚染は収束のめどがたっていない。日本は福島原発をふくめ何度となく被爆をした。毎日被爆の脅威にさらされている。放射能がこんなにおそろしいものか、日本国民は体験をした。それでも、日本の政治家は核に固執している。

「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」(憲法前文から)。つまり、政治家は、一刻もはやく震災復旧をおこない、もとの生活をとりもどし、世界が平和になるように行動しろと言っているのだ。

震災復興のさなかに戦争準備をもくろむ政治家の資質が問われている。

もうひとつ気になることがある。「社会保障と税の一体改革に関する集中検討会議」(議長・菅直人首相)が6 月2 日に「社会保障改革案」をとりまとめた。

この案は、社会保障の「重点化・効率化」を強調し、医療・介護や生活保護など各分野で給付削減と負担増を盛り込み、国民にしわよせする方針を打ち出した。病院の受診抑制、年金の支給開始年齢の引き上げ、生活保護の見直し、国保組合の国庫補助の見直し等々ひどいものである。
政治家は毎日、震災のテレビをみながらこのような「改革」案をつくっていたのか。

そして、社会保障の「安定財源」を名目に2015 年度までに消費税を10%に引き上げることを明記し、将来は社会保障費の全体を消費税でまかなうとしている。20%を超える水準への大増税である。

「一体改革」と称しながら、「税」については消費税以外の税を全く検討していない。社会保障の財源から所得再分配効果のある所得税や法人税を外して逆累進性の強い消費税を充てることは、社会保障制度そのものの所得再分配効果を破壊するものである。
この案が万が一にも実施されれば日本経済を支える中小企業の多くは消費税が払えなくなり、早晩、存続の危機に直面することになるであろう。

「平成20 年度末の公債残高は553 兆円に上ると見込まれていますが、これは税収約10 年分に相当し、将来世代に大きな負担を残すことになります」と財務省は「平気で」述べている。そんなに大変ならば証券優遇税制はもとにもどし、法人税もしかるべくいただければよろしいのではないか。そうすれば税収も増えると一般庶民は考えるのだが。

消費税を導入してから法人税を引き下げ続け、大企業の内部留保は増え続け、国の借金も増え続けてきた。この図式がどうしても納得できない。この放漫経営のつけをどうして国民が負担しなければならないのか。

強きを助け弱きをくじく政治が長くつづくわけないと心の底では思っている。いま、世界のあちこちでしいたげられた国民が立ち上がっている。筆者が愛好する松本清張の著書から引用し結びとする。「新時代をつくる力は、虐げられてきた人々の中から常に生まれる。そして、いまも、生まれつつあるのだ」(「幕末の動乱」)

(あいだ・ひでお:東京会)


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