論文

自然災害・人災・・・そして環境問題 すべては つながっている
東京会 渡辺 三男

世界文明史上に残る 3・11

今回の東日本大震災は、わが国の災害史上かつてない大惨事を引き起こしました。マグネチュード9.0という地震とそこから連鎖しておきた大津波と、更に福島第一原発の破壊と放射能漏れという人災が複合派生し、日本はおろか世界中の国と人々を揺るがす大惨事となりました。とくに、私の生まれ育ったふるさとが宮城県であり、旧制中学卒業後、専門学校で学んだところが福島県であるということが、ことさらわが身が切り刻まれる思いでテレビ放映での惨状を見つめておりました。

今回の災害は、いろんな面で、いろんな問題点を浮き彫りにしました。これから、世界的な点検と総括が行われるものと思います。原発に関する基礎的な物理学的な量子論や地球物理学のプレートテクトニクス論或いは、エントロピーの理論や災害データなどの記述は他にたくさんの資料がありますので、省略します。何冊も読んで理解したつもりでも、充分ではありません。
印象的な記述になることをお許しください。
森は海の恋人 ものがたり・・・・・気仙沼・・・

私は、10数年前から、環境問題に関するスピーチをいろいろな場所でボランティアでおこなっています。その題材で、よく引き合いに出しているのが、" 森は海の恋人 " ものがたりです。
テーマ・・・・・環境保全活動10年間の軌跡から " 森は海の恋人 " ものがたり

20年以上も前から漁師さんが山に木を植える活動をおこなっています。牡蠣とホタテの養殖をしている畠山重篤さんが呼びかけて続けられている植樹活動です。気仙沼湾の海の守り神といわれてきた室根山から栄養豊富な水が大川と呼ばれる川を通じて海のプランクトンを育て、牡蠣やホタテや多くの魚類の栄養素になる。その魚は、やがて鳥や人間によって山に運ばれ木々の栄養素になっていき・・・生物多様性の循環を保証していく。まさに森は海の恋人です。

私は、平成13年6月第13回目の植樹活動に参加しました。
この活動からの教訓・・生物の生存を最終的に決するものは、大氣・水・食料など・・それを保証するものは、健全な生態系・・そしてそれを保証するものは、健全なイノチの循環であるということです。

5月22日 " 震災復興に向けて〜がんばろう東北! "・・ー国連生物多様性の10年と国際森林年を踏まえてーと題して国連大学において " 森は海の恋人 " 代表畠山重篤さんの基調講演が行われます。参加の申し込みをいたしました。きっと心に残るお話が聞けるものと思います。
あの自然豊かな気仙沼がいま・・瓦礫の町になっている・・私のイメージの範囲を遥かに超えています。
エコロジカル・フットプリントとは?

世界の人々が、日本人並みに暮らしたら、地球は2・5個分必要です。私たち日本人はそんな生活を無意識的にごく当たり前のこととして、生活し、その位置から物事を評価し、判断しています。

私たちの多くは、世界から見れば全く贅沢この上ない生活をしています。そして、できればこんな生活を続けて生きたいと願っています。それは、果たして可能なのでしょうか? 結論から言えば、それは全く不可能なのです。もし、できるとすればただ一つ条件があります。

それは、世界の8割の人口を有する開発途上国の人々が飢餓・貧困のままでいてくれということです。何故なら、この地球上には食料・水などの資源・エネルギーに限界があり、それを超えてすべての生物が生き続けることは、絶対にできないからです。それを証明する一つの指標がエコロジカル・フットプリントという概念です。この概念は、地球が生命体を養える力(環境収容力)という考え方に基くものです。

その詳細については、紙数の関係で省略しますが、要するに、地球上生物が、生きていくのに必要とされるすべての資源を存続させるに必要な土地面積(環境収容力)を割り出し、その範囲内で現実世界は生存しているのか、或いは環境収容力をオーバーシュートしているのかという判断手法です。結論を申せば、世界は、すでに環境収容力を1.3倍もオーバーしています。明らかに持続不可能です。

環境収容力をオーバーしたら、この世界はドンナことになるのか・・想像して見てください。まず世界は、特に先進国は、このオーバーした分の削減を負わなければなりません。
72/31・・・なんの数字か?

72とは、現在この地球上で人為的原因で排出されてる二酸化炭素は、炭素換算で72億トンということであり、31という数字は、そのうち地球上で吸収できるのは炭素換算で、31億トンであるということです。31億トンのうち、森林吸収が9億トン、海が吸収しているのが22億トンです。つまり、6割は吸収できず、毎年毎年大気中に累積し、温暖化を加速する原因を作っているのです。この地球上で人間をはじめ、すべての生物が生存できる持続可能な世界をめざすなら、二酸化炭素排出量は、最低条件として現在の60%は削減しなければ、地球上の温暖化は、防げないことがこの図でわかります。

この図は、地球全体で見たときのデータです。温室効果ガス排出の大部分は、先進国です。中国が排出量で第一位になりましたが、一人当たりで見ると、日本の半分です。

大気温度上昇を産業革命時から2度以下に抑えることが絶対条件であるといわれています。

IPCC評価報告書は、温暖化による海面上昇が津波の大きさに影響を与えることを示唆しています。

地球の平均気温が産業革命時より2度を超えると地球は回復不能な限界点・・(テッピングポイント)を超え、ドンナ温暖化防止策をとってもきかなくなるといわれています。2度は、まさに人類が超えてはならない一線を示す数字です。


2050年までに温室効果ガスを半減するという世界各国の合意は、ここからきています。特に先進国は、80%以上もの削減が要請されているのです。
原子力発電の本質

核分裂現象発見から核兵器へ・・そして原子力発電へという歴史的経過をたどって今日に至っています。1953年12月8日、国連総会でアイゼンハワー大統領は、" アトムズ・フォー・ピース・・原子力の平和的利用 " という有名な演説をおこなっています。

つまり、核の商業的利用を打ち出したのです。そして、日本にその原発利用の輸出を迫ったのです。当時わが国では、こんなコストのかかる、そして危険極まりない原発など誰も積極的には手を出しませんでした。つまり、産業的必然性がなかったのです。
上から、政治的に導入がきめられた

1954年3月1日・・ビキニ・エニウェトク環礁での水爆実験で第五福竜丸の久保山愛吉さんが亡くなりました。その水爆実験のあったった日の翌日、突如として国会に原子力予算案が予算修正案という形で上程され、通過されたのです

しかも、野党であった改進党からの提案で、与野党三党との共同修正案という奇妙な形で通過されたのです。この予算案を作ったのは、当時改進党の青年代議士といわれた中曽根康弘ほか数名といわれています。アメリカ議会に勉強にいってこの案を仕入れてきたといわれています。
旧財閥系企業が引き受けた

一般私企業なら誰も手を出さない原発を国家予算づけのもとで旧財閥系の三菱重工業・東芝・日立などがこれを引き受けました。国家予算をつけての利益獲得のやり方でした。通産省が全面的にバックアップ・かくして、政治家・通産省・旧財閥企業というトライアングルができあがりました。
原子力発電の基本的な弱点

 壊破的な放射性物質を作り出すこと
生まれた有害な危険極まりない放射性物質や放射能は、消すことができない・・完全に無害化できない性質のものです。人間の手で解決できないバンドラの箱を開けてはいけなかったのです。

 無駄な迂回生産の電力づくりです。
核分裂から発生した核エネルギーを直接電力に変える方法がないのです。原発でトラックは走れません。発生した熱を蒸気に変え、それでタービンを回して電気をつくるというやり方です。結局は、火力発電をまわして電気をつくるのと同じ古典的な発電のやりかた・・しかも、核分裂反応では3割しか電力にならず、熱の3分の2は温排水として海に捨てられています。
海の汚染はもとより、魚類の成育に与える悪影響も大きく、多くの環境影響が指摘されています。

 大事故は否定できない
原子炉の中に膨大な放射能を抱えたまま運転せざるを得ない構造になっているからです。過去に10年に一度ぐらいの割合で事故が起きています。データの改ざんや事故隠しも多く判明しています。
崩壊した原子力安全神話

原子力は安全である・・という神話は原発を進める上での中心となる神話でした。事故は、野球場に隕石が落ちる確率であり、なしに等しいものだとの安全宣言をしていたわが国は、1999年9月30日に起きた東海村JCOウラン工場の臨界事故後安全神話は崩壊しました。しかし、日本は技術的に優れた国であるから、十分制御できると宣伝していました。しかし、今回の福島第一原発事故は、チェルノブイリ原発事故と同じランク7の大事故でいまだ収束の目途すらつかず、被害はますます拡大化しつつあります。また、炉の被害防御方法は、およそ技術大国とは全く反対の素人技術以前のやり方と人海戦術という驚くべき方法で国民一般も唖然としている始末です。
いくつもの神話崩壊

その他原発には、いくつもの神話がつくりだされています。主なものを箇条書きに延べるにとどめます。

 無限のエネルギー
 クリーンなエネルギー
 コストが安い
 リサイクルできる

いずれの神話も崩壊しています。
危険なプルトニウムの車輸送

1984年11月15日早朝、原発放射性生成物の処理を依頼したフランスから海路輸送で返されてきたプルトニウム252キログラム(原爆10発分)は、6台の大型トレーラーに積み込まれ、3台ずつ2班に分かれて日の出前に国道16号を極秘のうちに北上しました。10台の覆面パトカーが取り囲み、追い越し車線をブロックして、茨城の東海動燃へむかいました。神奈川・東京・埼玉・千葉・茨城の首都圏をはしったのです。肝が冷える思いです。
☆ 原発 問題

政府の肝いりで始めた原発。過疎地帯に電源三法なる特別法律をつくり、金をばら撒いて、土地を取得し、固定資産税という税収を飴玉にして自治体を了解させ、中央の建設会社による巨大建設を発注し、建設会社の利益に貢献する。

一度原発地という迷惑施設ができると、ここには、他の工場施設は、誘致困難になるから、結局地方は経済的に不利になる。
そこで、更なる原発を増設するといういわば原発麻薬効果・・一箇所に原発が集中することになり、その地域の危険はますます拡大再生産されることになります。

経済産業省(原子力安全保安院)- 原子力安
全委員会- 電力会社- 原発輸入企業・・
天下りの蜜月関係システム

ヒドすぎる原子力安全委員会
内閣府管轄の常勤特別職公務員・委員長以下5人、原発の監視役・・常勤といっても、定例会議は週1回・・最低10分以下、長いもので1時間半というもの。
3月11日 災害当日 午後4時開会・午後4時05分閉会・・タッタ5分で終了。
3月14日 水素爆発当日 午後3時30分開会・午後3時35分閉会・・またも5分。
3月17日 午後6時45分開会・午後6時50分閉会・・またまた5分で終了。
(以上原子力安全委員会議事録概要より)・・いったい 何を討議しているのか?。

原子力安全委員会の月額報酬93万円6千円・年収は、ボーナス含め1650万円。

東京電力、責任逃れの過小被害報告・小出しの発表。そして、早くも賠償金の政府援助要請・・水俣病事件のチッソのように賠償責任会社を別につくり、政府援助を仰ぎながら、本体は安泰という同じ作戦を取るつもりなの だろうか?。
放射能に無害になる許容量などない ・・武谷三男氏の主張・

原子物理学者武谷三男氏の安全性に関する考え方・・。
 核実験の放射能をめぐる議論で、一部の学者は、降灰放射能の害は証明することが出来ないから、核爆発は許されると主張した。アメリカの原子力委員のノーベル賞学者リピー博士は、許容量をたてにとり、原水爆の降灰放射能は、天然の放射能に比べると少ないから、その影響は無視できると主張しました。

これに対し、武谷三男氏は、次のように主張しています。” 許容量というのは、無害な量ではなく、どんな量でもそれなりに有害なものではあるが、どこまで有害さを我慢できるかの量、すなわち、有害か無害か、危険か安全かの境界は、科学的に決定される量ではなくて社会的な概念である。害が証明されること、つまり、やってみてどうなるかが証明されるというのでは、人類が滅びるときであり、人体実験の思想にほかならない。

" 放射能が無害と証明できないかぎり、核実験は行うべきではない " というのが正しい安全性の考え方である。
高木仁三郎氏の警鐘

今から10年前に亡くなられた原子物理学者高木仁三郎氏は原子力資料情報室をつくられ、原子力発電の持続不可能性を強調され、特にプルトニウムの危険性について警鐘を鳴らしつづけました。歿後高木基金をつくり、この活動は後継者たちによって継続して行われており、私も支援活動をしています。

1995年、日本物理学会に投稿された地震対策の検証を中心にしてと題して・・福島第一原発をはじめ全国の原発の危険性を指摘していることは、いま、注目すべき発言かと思います。

原発が、地震とともに津波に襲われ、外部からの電力・冷却水の供給が絶たれる。

給水配管の破断、緊急炉心冷却系の破壊・非常用ディーゼル発電機の起動失敗、といった故障が重なれば、メルトダウンから大量の放射能放出に至る事態になる。

原発の敷地内には、使用済み燃料も貯蔵され、集中立地が目立つ福島浜通り(福島原発のあるところ)などでは、、想像を絶する核惨事が発生しかねない。

だから、徹底的に議論し、非常時対策を考えておくべきだ。

15年前・・今日の危機的状況をお見通しです。
日本の原子力業界及び行政での長年の構造的な欠陥が浮き彫りになってきています。もういま・・このシステムを根本から変えなければ日本は沈没し、地球上生物は生き残ることはできないでしょう。
気候変動枠組み条約と京都議定書・・・今年決着の年・・・

バリ島会議・コペンハーゲン会議・カンクン会議と世界の温暖化防止の会合は、先進国と開発国・途上国などの利害対立のため決まらず、今年のダーバン会議がいよいよ待ったなしの会議になります。京都議定書の第一約束期限が切れるからです。ここでまとまらなかったら・・世界は、削減の枠組みがなくなってしまうからです。日本の今までの主張は、京都議定書からの離脱に通じ、世界から孤立化する危険をはらんでいます。
脱原発の道と3つの25%は達成可能

節電25%・温室効果ガス削減25% そして、再生可能エネルギーの電力率25%の達成です。
具体的な達成可能なプログラムも出されています。
世界観・価値観・哲学の転換が必要です。
環境は、地球上に生存する全ての生物生存を保障する本源的な基盤です。これを守っていく決心さと必至さが足りないように思えて仕方ありません。多くの人々は、とかく被害者の立場からのみを見ているように思われます。

当事者意識が薄く、まだ観客席に座ったままです。私たちは、世界から見れば、明らかに加害者の立場になっている・・それを忘れています。
他人の足を踏んだとき、踏んだ人は、すぐ忘れますが、踏まれた人はその痛さを忘れないものです。

外国人差別に抵抗し、入国管理証を焼き捨てて投獄された宋斗会さんは書いています。
" 反戦だの 反核だの 平和だのという日本人達よ、まず私の頭を踏んでいるその足をのけてくれ・・・踏んでいることさえ気がつかないようだが "・・ 深く味わうべき言葉です。
(わたなべ・みつお)
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