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時潮

『孤族』化を推進する税制大綱
副理事長 松田 周平

年末から朝日新聞に『孤族の国』というルポルタージュが連載されている。孤族という言葉は聞きなれない。手元にある広辞苑にも出てこない。だが題名を見ただけで不思議とどういう内容か連想する事が出来る。毎日そのルポを読むにつれ、悲しいかなその連想が当たってしまう事にやるせなさを感じる。

仕事がなくなり収入が途絶え、身内にSOSを発信したくてもしづらい。受信する側も助けたくても助けられない。学生時代から引きこもりになり、そのまま社会に出られない・・・・etc。理由は様々あっても、小泉政権以後の新自由主義経済政策が大きな理由の一つであることは間違いない。政治が社会のあり様を大きく変えている。

平成23年度税制改正大綱もまた社会のあり様を大きく変えようとしている。成年扶養控除の廃止は、前記のルポにもあるが身内のSOSを無視する社会を助長する。しかも雇用情勢の悪化が指摘されている今日、方向が逆向きである。所得300万円以下の白色申告者への記帳義務化は、廃業勧告である。記帳が出来なければ低率の概算経費率の強要が後ろに控えている。東京の葛飾には小学校の近くに、駄菓子屋・文房具屋さんが多くある。店主は高齢の方も多い。その方は事業としてお店を出している訳でない。子供たちと話をする事で子供たちの変化もキャッチし、また自身の生き甲斐に繋がる。周りは店が出ている事で店主の健康も確認できる。中小商店は地域のコミュニティーに欠かせない存在だが、その崩壊をもたらす。

社会保障・税に関わる番号制度の導入も社会を大きく変える。大綱では 国民一人一人に一つの番号が付与されていること、 納税者が取引の相手方に告知できるよう、民ー民ー官の関係で利用でき、また、目で見て確認できること、 常に最新の住所情報と関連付けられていること、という条件を満たす必要があります、と謳っている。先のシンポジウムで石村耕治先生がキーポイントとして指摘していた共通番号と番号の可視化が、そのまま入っている。国民は常にカードを携帯し、取引する都度そのデーターは国家に吸い上げられる。番号で管理する社会において、憲法13条の個人の尊重が遵守されるのだろうか。

いま一つは、大綱では直接触れていないが、陰に隠れている消費税の増税である。ジャーナリストで『消費税のカラクリ』の著者である斎藤貴男さんは、増税が行われると多くの零細業者は廃業になり、飲食店はフランチャイズ・チェーン店、小売店はコンビニばかり、町工場は消え失せ、12年連続3万人超の自殺者は5万人、10万人へとハネ上がると指摘する。

これらが実施されるとますます『孤族』化が深刻になるのではないだろうか。これらの問題を考えるとき、権利が侵されるから反対・応能負担に反するから反対と主張すると同時に、街づくり・社会づくりという視点からアプローチすることも大切である。『寅さん』も旅先では一見『孤族』の象徴だったかもしれない。だが『寅さん』には彼をいつでも待っている家族や柴又という街があった。今でも参道のとある団子屋さんは、椅子を空けて彼の帰りを待っている。彼が帰らぬ人となってから『孤族』が深刻化したのは皮肉めいている。年始になりタイガーマスク『伊達直人』が脚光を浴びてきた。人情厚い社会を応援する改正にしたい。

(まつだ・しゅうへい:東京会)


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