中小会社の合併手続とその書式
神戸会 国岡 清
景気がよい場合は分散、不景気の場合は集中というのが昔からのとおり相場ですが、会社組織においても通じる話です。効率と低コスト化を考えると合併手続は現在の経済情勢下では検討に値すると思われますので、その手続と書式を紹介します。
1 債務超過会社でも会社の合併が可能
です。
旧商法では債務超過会社を消滅会社とする合併が認められていませんでした(「資本充実の原則」に反する(合併により合併法人の資本の部が減少する)ことから認めないのが多数説でした)。また、当時登記実務において、債務超過状態にある株式会社を消滅会社とする合併については登記申請が受理されないという取り扱いでした(昭和56年9月の民事局第四課長回答)。ですから、その当時では債務超過会社といえども永年事業を継続しており企業ノウハウ等の無形財産が蓄積されているとして営業権を評価して、実質的に債務超過状態でないという状況下で合併等の組織再編成を実行してきた経緯がありました。
しかし、平成18年の会社法施行以後、債務超過会社でも組織再編差損が生じる場合でも認められることになりました。会社法795条2項では、「合併法人は被合併法人からの承継債務額が承継資産額を超える場合には、取締役は株主総会において、その旨及び内容を説明しなければならない」規定が設けられ、債務超過会社を被合併法人とする合併が行えることが明らかになりました。株主はその説明を聞いたうえで賛否の表決をすることになります。
債務超過会社を被合併法人とする合併は「合併差損」が生じる合併です。合併法人の受入れ仕訳は次のようになります(会社計算規則第36条、法令9条1項2号)。
承継する諸資産100/ 承継する諸負債120
利益積立金 20/
(合併差損)
2 合併にあたり検討すべき事項と合併契約書の記載事項
(1)合併契約を締結していくにあたり、検討すべき事項は次の項目です。
合併の形態をどうするか。新設合併と吸収合併がありますが、大多数は後者です。合併当事会社の双方を消滅させて、新たに承継する会社を新設する手続は効率が悪いからです。したがって、どちらかの会社を存続させて、他方を消滅会社と決める必要があります。
存続会社が消滅会社の株主に対して交付する資産をどうするかを決めます。適格合併を念頭におくのであれば、存続会社の株式以外の金銭等を交付しないことです。そのうえで合併比率(消滅会社の株式1株に対して、存続会社の株式を何株交付するかという割合)を決定します(当事会社の株価を算定する必要があります)。
合併の効力が発生する日と手続期間を考慮した合併日程を計画します。この手続期間内に株主総会の承認、債権者保護手続(官報公告手続を含む)、従業員の雇用継続同意などの手続を進めます。なお、合併後の商号や事業目的を変更する場合には、合併承認の議案だけでなく、それらを変更する議案も総会議案として入れておきます。
(2)合併契約書の記載事項が決められています。
吸収合併契約書には、次のように必要な記載事項が会社法749条で定められています。
吸収合併の存続株式会社および消滅会社の商号及び住所を記載します。
吸収合併存続株式会社が、合併に際して消滅会社の株主又は社員に対してその株式又は持分に代わる株式や金銭等を交付する事項です。存続会社の株式であるときは株式の種類とその数並びに存続会社の資本金及び準備金の額に関する事項の記載が必要です。もちろん、同一者(法人、個人)による100%グループ内の会社同士で合併に際して株式を交付しない「無対価合併」(合併後の資本関係が変化しないため)という手法も検討できます。
で規定する場合、消滅会社の株主又は社員に対する金銭等の割当てに関する事項。
消滅会社が新株予約権を発行しているときは、交付するその新株予約権に代わる事項。
に規定する場合に新株予約権者に対する金銭等の割当てに関する事項。
効力発生日を記載します。
中小会社では、
・
・
と
の記載が必要ですが、主に
と
の合併対価と割当てに関して検討が必要です。
3 中小会社(非公開の株式会社同士)の合併では手続に2ヶ月の期間
を考慮します。
公正取引委員会に届出をする大企業の基準に適合しない中小会社の合併ではよく準備すれば最短1ヶ月半で可能です。今回、吸収合併を前提にした手続と書式を記します。
9月1日に株主総会を開催(両会社でそれぞれ開催)し、締結した合併契約を承認します。株主総会議事録と合併契約書を用意します(議事録と合併契約書例示は後記資料1・2参照)。合併効力発生日は11月1日にします(この日の前日が消滅会社の決算日であるためです)。
もちろん効力発生日はいつでもよいのですが、消滅会社が効力発生日の前日までの決算を行い、その2ヶ月以内に税務申告をする必要があるからです。申告と納税は合併会社の責任で行います(申告先は合併会社の本店所在地管轄ですので注意です)。
9月2日以降に官報公告の申込み(あらかじめ申込日から掲載までの期間を確認しておく。約2週間前後必要)をします。その際、合併公告と併せて両会社の直前決算期の決算公告(貸借対照表の要旨公告をすでに実行している場合は不要)も行います(大阪では掲載費用17万余円)。なお、申込みには公告掲載内容の原稿が必要ですので、その原稿準備が事前に必要です。貸借対照表の要旨ですから千円単位もしくは百万円単位で作成します(例示は後記資料3参照)。
9月17日官報に公告が掲載されました。掲載日に債権者保護手続をします。具体的には、「債権者異議申述の催告書」(後記資料4を参照)を作成して各会社の関係先に送付します。その催告書には合併会社 ○○、消滅会社 △△を記入し、官報掲載日から1ヶ月経過日までの異議申し出期間を記載しておきます(例えば10月18日までにその旨)。なおかつ、両会社の最終貸借対照表の開示状況として、決算公告をした官報掲載日とページも記載しておきます。
消滅会社の株券提出公告を省略するために、「株式を発行していないことを証する書面」(後記資料5を参照)を作成します。これは消滅会社の株主名簿です。
「資本金の額の計上に関する証明書」を作成します。これは消滅会社の資本金の額をどうしたのかということを記載した書面です(後記資料6を参照、作成日は合併効力発生の日)。
なお、「無対価合併」(合併会社において資本金額を増加しない)の場合には作成しません。
債権者保護手続
を行った結果の報告である、「異議を述べた債権者はいない旨の上申書」(後記資料7を参照)を作成します(作成日は10月18日以降の日)。
合併効力発生日が11月1日ですから、この日から2週間以内に「株式会社合併による変更登記」を行います(申請書は後記資料8を参照)。なお、登記申請には消滅会社の「解散登記申請」(後記資料9参照)も同時に申請しますので留意してください。
両会社の登記が完了すれば、合併契約書の写しや登記簿謄本の写しを添付して各法人の該当する税務署等の役所に異動届を提出します。
4 手続書類の書式
(くにおか・きよし)
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