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時潮

税務調査と税理士の立ち位置
理事長 清家 裕

新年おめでとうございます。今年も元気で楽しい新人会活動をやりたいと考えています。今年度は「会員拡大・新報読者拡大を常に念頭に置き、研究の成果を会外に発信する活動」に力を入れます。全国の会員のみなさん、今年も「一緒に考え、一緒に行動」する新人会活動を、よろしくお願いいたします。

自公政権に取って代わった民主党政権は、国民の期待を裏切り続け国民から見放されています。民主党政権の税制改革では、自公政権の税制改革路線を継承し、税収を負担能力のある大企業、高額所得者、大資産家から応能負担で集めるのではなく、負担能力のない庶民に過重な負担を求める庶民増税に突き進んでいます。大企業のための法人税率の引き下げ、生活費課税を強める所得税の課税最低限の引き下げ、弱肉強食の消費税率の引き上げなど、貧困と格差を助長する税制改革を画策しています。

この庶民増税の税制改革で、納税者が爆発的に増加し、負担能力の乏しい納税者への調査と徴収の事務が過重となり、課税当局は税理士を活用することで対応しています。税務調査時の税理士の立ち位置にも影響を及ぼしかねない事態です。応能負担に反する税制改革が、税務行政、税理士制度にも悪影響を及ぼしているのです。
1.書面添付で税理士の補助者化

書面添付制度の書面添付率が低迷し、添付率向上に執念を燃やす国税庁は23年前から日税連と一体となり、新たな施策を取り入れて書面添付の添付率向上を図っています。国税庁は「記載内容が良好な添付書面」で「意見聴取後、税務調査を省略する場合」には、「調査省略文書」を税理士に発行する施策、一方、日税連は「記載内容が良好な添付書面」を税理士が作成できるように、「添付書面作成基準(指針)」を定め推進する施策です。このような施策まで講じて書面添付の推進を図らなければならない理由は何でしょうか。

税務署が書面添付と意見聴取で「調査省略」をするためには、税務署員が行った調査と同内容のレベルでなければならないのです。税理士はあたかも税務署員となって、税務署員の目線で、申告書と添付書面を作成しなければなりません。「税理士が税務署員代わりに使われる」、これでは税理士は納税者の代理人ではなく、税務署の補助者に成り下がってしまいます。税理士会は「書面添付制度は税理士法第1条「税理士の使命」を具現化した税理士だけに付与された権利です。」と訴え、税理士に書面を添付するように強く働きかけだしました。この背景には庶民増税による納税者の爆発的な増加があり、課税当局は税理士活用が死活問題になっているからです。
2.税務支援で税理士の下請化

税理士法は税理士会に「委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務」を行うことを義務づけています。いわゆる経済的困窮者に対する税務援助です。このような人たちに対する税務援助は、税理士会が独自の事業として行い、課税当局の下請で行うべきではありません。しかし、現在の税務支援は経済的困窮者の税務援助と経済的困窮者以外の税務指導が渾然一体として実施され、主に課税当局の下請事業として行われているのが実情です。

課税当局は記帳指導、年金受給者等の相談会、所得税確定申告期における無料税務相談、所得税確定申告期における電話相談を外部委託し、税理士会は「受託事業」と称して落札しています。派遣される税理士に渡される日当は、課税当局が支払う下請代金が原資です。この現場での税理士の立ち位置は、「納税者の権利を擁護する代理人制度」なのか、はなはだ疑問です。このような状況の中で、税理士は課税当局と対等平等な関係を物理的にも精神的にも維持できるのでしょうか。税務支援に名を借りて、課税当局への税理士の下請化が進行しています。この背景にも庶民増税による納税者の爆発的な増加があります。税務署員は「調査・徴収」に集中し、「指導・相談」は税務支援で税理士に下請させる体制です。
3.税務調査と税理士の立ち位置

税理士制度は納税者の権利を擁護する代理人制度です。「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現」のためには、税理士制度は強大な課税当局に相対する弱き納税者のために、課税当局とは対等平等の立場で対峙できる「納税者の権利を擁護する代理人制度」でなければなりません。昭和47年に日本税理士会連合会(以下、日税連)が機関決定した「税理士法改正に関する基本要綱」では、「税理士は、納税者の権利を擁護し、法律に定められた納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」となっています。

しかし、現行税理士法第1条「税理士の使命」は、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現をはかることを使命とする。」と定められています。この使命によれば、税理士は納税者から「独立した公正な立場」が求められます。この「独立した公正な立場」に、違和感を持ちます。

昭和55年に税理士法の「改正」が行われ、第1条が「中正な立場」から「独立した公正な立場」に変更されました。税理士が納税者から一層切り離される出発点になり、30年後の今日、「納税者の権利を擁護する代理人制度」が危うくなってきています。「独立した公正な立場」を拠り所にして、課税当局への税理士の補助者化・下請化が進められています。

このことによって、税務調査での税理士の立ち位置にも影響を及ぼすのではないでしょうか。税務調査時の税理士の立ち位置は、私のイメージでは下図のようになります。

納税者の権利を擁護する税理士の立ち位置はです。現在の税理士法第1条「税理士の使命」は図です。課税当局への税理士の補助者化・下請化で図に変質する危惧があります。そして、税務援助従事の税理士法による義務化と書面添付制度推進のさらなる法整備を図るために、日税連は平成23年を目途に税理士法を「改正」する動きを強めています。税務調査時の税理士の立ち位置を図にしていくためには、このような税理士法「改正」を阻止し、税理士法第1条「税理士の使命」を「納税者の権利を擁護する代理人制度」に改正すると共に、税制を応能負担の税制に改正する必要があるのではないでしょうか。

(せいけ・ひろし:大阪会)


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