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時潮

「消えた老人」
副理事長 大塚 洋美

今年7月以降、新聞やテレビ等で「110歳女性の所在未確認東京荒川区住民票だけで報告」というようなニュースがあふれるようになった。「110歳」女性の住民票があった東京都荒川区は少なくともこの3年前から女性が健在かどうか確認せず、厚生労働省に報告していたという。

長寿番付では各自治体が9月1日時点で確認し、同省に報告した高齢者について、氏名、性別、年齢、生年月日、居住している市区町村名を同省が上位100位まで順位付けして公表していた。荒川区の「110歳」女性は前年2004年の調査では54位、翌2005年は19位で、長寿番付上では区内最高齢者だった。

同区によると、担当者は2005年の調査でも所在地を訪問したが、息子の妻が「他の子供のところを転々としている」と話していたという。敬老の日の区幹部の訪問についても、郵便で希望を確認していたが、2002年からは返事がなかった。

「長寿番付の中に所在確認ができていない高齢者がいる」。荒川区のケースを受けて、厚生労働省はすぐに全国の市区町村に対し、同省が長寿番付に掲載した上位100人について改めて所在確認するよう指示していた。しかし「所在不明」に加え、「集計ミス」という長寿番付の内容の信憑性を大きく揺るがす厚労省と自治体の杜撰さが同時に発覚した。同省は所在確認とともに、人数の再確認を全自治体に要請した。その結果、当初は2万5606人としていた100歳以上の高齢者は実際より52人多かったことが判明した。

そもそも高齢者を含め、ある人がどこに住んでいて、生きているのか亡くなっているのかという情報は「住民基本台帳法」に基づき市区町村が管理している。しかしこの制度は届出制なので、本人や家族が届出をしない限り把握できない。

今回のように「100歳老人」の所在確認のため、役所側が調査に出向いても個人情報保護を理由に協力を得られないケースもある。8月28日現在、全国で所在不明が明らかになった100歳以上の高齢者は290人。今後さらに増える可能性がある。だが100歳未満も含めると所在不明者や身元不明で亡くなる人は何人になるのであろうか。

家族や親族の結びつきがあれば、失踪などで行方不明になっても、親族が家庭裁判所に7年以上行方が分からないことを示す資料を提出し「失踪宣告」を受ければ、死亡したとみなされ、戸籍と住民票が抹消される。この場合、戸籍上も住民票上も「所在不明」にならない。だが、相続などの問題が生じない限り、家族がわざわざ費用をかけて失踪宣告を受けないだろう。今回判明した所在不明者の家族の多くは費用不要な行方不明届や捜索願さえ出していない。家族関係の複雑さや希薄さも「消えた高齢者」を生み出している背景にある。

ではどうすればいいのであろうか。
ここで、「社会保障と税制に関する共通番号制度」を検討するという意見が浮上してくる。

菅直人首相は納税者番号制を整備し、税金を投入してでも国民の所得を把握すべきだとしている。納税と社会保障制度を共通の番号で処理しようというのである。その先に年金改革があるというのが、菅直人率いる民主党の方針なのだが、所得をあからさまに捕捉されてきたサラリーマンからは支持されるという読みがあってのことなのであろう。今回の一連の事件はそうした総管理・総福祉の方向へ一気に進むきっかけになるかもしれない。

(おおつか・ひろみ:神戸会)


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