論文

2008(平成20)年度政令指定都市・千葉市の財政をみる
東京会 新国 信


はじめに

今年の全国研究集会も目前に迫り、分科会報告も前号で発表された。本稿は開催地千葉市の決算カードの推移から千葉市財政の状況を示すことを課題にしている。地方財政に関する基礎的な知識も乏しいなかでの執筆であるが、地方財政の困難さについて指摘ができれば幸いである。

千葉市は、面積で272km2、人口92.4万人(05年国勢調査)で、千葉県全体に占める割合は、面積で5%、人口では15%である。ちなみに、一昨年の全国研究集会の開催地札幌市は、面積が1,121km2、人口が188.0万人で、千葉市は面積では札幌市の24%、人口では49%である。
政令指定都市のすがた(表I. II. III)

千葉市は、92年4月に全国で12番目の政令指定都市として誕生した。この年は、千葉ロッテマリーンズが川崎から千葉に本拠を移した年である。09年4月、鶴岡市長が収賄容疑で逮捕・辞職し、6月の選挙で当時の民主党への追い風の象徴として政令指定都市としては最年少31歳の熊谷市長が誕生した。

政令指定都市は、10年4月に誕生した神奈川県・相模原市を含めて19市になっている。その面積、人口、人口密度等や財政状況は表I. II. IIIのようになっている。
表I
表II
表III 政令指定都市(法令上は指定都市)は、地方自治法第12章大都市等に関する三つの特例の一つで、252条の19(指定都市の権能)で、「政令で指定する人口50万人以上の市」とされており、指定都市になると都道府県が処理することができるとされる処理の多くを処理することができるとされている。

ながい間、上記の人口要件の運用に関しては、100万人を念頭においてなされてきた。千葉市も指定都市になった時の見通しでは早々にそうなるはずであったが、18年後の今日までついに100万人には到達していない。近年は合併特例の一種として70万人を指標に運用されてきた。表にみるように直近の相模原市は70万人すれすれでの指定である。
上述のように、指定都市になると県が処理する事務処理の多くが可能となり、都市の格が上がると考えられ、市当局や議会も指定が可能な水準になるとそれをめざすことになる。現在、20番目のである。
千葉市の財政

08年度の決算では、千葉市は、歳入総額3,260億円、歳出総額3,247億円、形式収支は13億円の黒字、ここから翌年に繰り越すべき財源10億円を控除した3億円が実質収支の黒字となる。ここから前年度の繰越金を控除した単年度収支は6,000万円の黒字となる。さらに、これから08年度のおける新たな積立や繰上償還を加算し、積立金の取崩を減算した実質単年度収支では、100万円の赤字になる。つまり、千葉市の財政はかなり厳しい状況にあることがわかる。ちなみに指定都市で実質収支が赤字なのは京都市の31億円のみであるが、実質単年度収支の赤字は、19団体中11もあり、過半数の指定都市は厳しい財政運営を迫られている。
歳入(表IV. V)

千葉市の過去5年の歳入の内訳は表IV、市税の内訳は表Vである。千葉市の歳入総額に占める地方税の割合は、54.7%でこれに地方譲与税、地方消費税交付金を含む諸交付金を合わせた一般財源は、61.5%、2,005億円である。財政規模では指定都市19市のうち14位と人口規模の13位とほぼ同じ位置にある。
千葉市は、財政力指数(基準財政収入額を基準財政需要額で除した数字の3カ年平均)が1.02で地方交付税(普通分)の交付は受けていない、いわゆる裕福都市であるとされる。08年度で普通交付税の交付を受けていない指定都市は、千葉市の他に横浜市、川崎市、名古屋市で名古屋市の財政力指数は、1.05で最も裕福となっている。

地方税収の一人当たり金額をみると、千葉市は192,466円で、指定都市の6位とかなり高い位置にあるが、都心で働く労働者のベッドタウンとしての存在が影響しているものと思われる。

地方税の税目別収入額は、市民税881億円(うち個人669億円、法人212億円)で全体の49.5%、固定資産税660億円で全体の37.0%でこの二つで1,541億円、全体の86.5%で地方税の大半を占める。なお、県税である地方消費税からの交付金は85億円で全歳入に占める割合は2.6%となっている。

また、所得税の税源移譲により個人市民税の状況は、06年度で568億円、07年度653億円、08年度669億円となっており、移譲前の06年度と移譲後の07年度で85億円、08年度で101億円増加している。

歳出

08年度の千葉市の歳出総額は、3,247億円で指定都市では14位の位置にある。人口一人当たり35万円余で指定都市平均の44.3万円の81%となっている。
表IV

表V
性質別歳出について(表VI)

性質別歳出は、歳出の性質に着目した区分であり、表VIのような推移になっている。
小泉内閣が成立した2001年4月から「民間でできるものは民間で、地方でできるものは地方で」とのスローガンで新自由主義的改革がすすめられた。地方財政の三位一体改革と地方行革は同時進行され、その影響で地方財政も追い詰められていった。財政規模の縮小もその影響である。人件費については、01年度は673億円であったが08年度は637億円と36億円が削減された。上記のうち職員給与は514億円から450億円へ64億円が削減され、いわゆる正規職員から非正規・臨時職員への切り替えが読み取れよう。
03年度の職員数6,606人が08年度には6,304人に、一人当たり給与月額は36万8,000円から34万800円に減少している。

08年度の千葉市の公債費は、512億円、歳出全体の15.8%でかなり千葉市の財政の圧迫要因となっている。財政健全化比率のひとつ、実質公債費比率は20.1%で指定都市の中では横浜市の20.2%に次いで2番目となっている。今後の財政運営の厳しさを示唆するものとして注目していくべき指標である。
表VI

目的別歳出について(表VII)

08年度の目的別歳出で注目すべきことは、民生費の支出が892億円、全体の27.5%で最大の支出項目となっている。01年度では民生費は644億円、19.1%、土木費が752億円22.3%であったことと比べて8年間で248億円増、33%増となっている。逆に土木費は、08年度では549億円で8年前と比べ203億円減、37%の減となっている。民生費は生活保護費を始め、老人福祉費、児童福祉費など不況の長期化と高齢化の進展による支出費で抑制の困難な支出である。なお、商工費は203億円とようやく01年度の206億円に近づいてきている。

千葉市の09年3月末の公債残高は、7,372億円、債務負担行為が1,026億円、合計8,398億円、対する積立金の残高は88億円で債務残高の1%しかない。地方税収入が1,782億円であるから、年収の4.66倍の債務残高となっている。財政健全化比率の一つである将来負担比率は309.6%で指定都市全市の中でダントツの一位である。
指定都市17市(岡山市、相模原市を除く)の08年度の住民一人当たり702,598円であるが千葉市のそれは796,160円で13%も多くなっている。財政健全化法による早期健全化基準は400%とされており、千葉市の場合でもまだそこまでの数値になっていないが千葉市の将来を考える場合の重要な指標となっている。 表VII

千葉市の貸借対照表(表VIII)

掲載したものは07年3月末のものであるが、これをみると千葉市の普通会計の総資産は1兆3,725億円(うち土地が5,398億円)、負債総額7,777億円で正味資産は5,948億円と表示されている。また、公営事業会計を含めた全体では、総資産2兆853億円(うち土地が5,819億円)、負債総額1兆1,537億円で正味資産は9,316億円となっている。

また、これに第三セクターなどの関係団体を含めた連結の貸借対照表では、総資産2兆1,882億円、負債総額1兆2,529億円、正味資産9,353億円となっている。

なお、その後入手した平成22年4月作成の市の財政資料によると09年3月末日の連結ベース貸借対照表は、総資産3兆397億円、負債1兆2,897億円、純資産1兆7,500円としている。この間の資産の増加は、公共資産の評価替えによるものと思われる。

総務省は財務4表作成のなかで遊休・不要の資産を洗い出しそれで債務の圧縮をさせようとしているが、これらの表にはその表現はみられない。
表VIII
おわりに

以上、みてきたとおり千葉市の財政の将来は大変厳しいものになっている。市当局は当然そのことを認識しており、06年2月に「千葉市財政健全化プラン」を作成し実践してきたが、このまま推移すると12年度には実質公債費比率が健全化基準の25%を超える可能性があると危機感を示し、この10年3月に千葉市財政健全化プラン(平成22年〜 25年)を策定し市民への協力を訴えている。

しかし、指定都市財政をめぐる危機的状況はひとり千葉市のみでなく指定都市全体に及んでいる。それは、税源移譲なき行政事務権限移譲で必然的に予測される事態であった。指定都市財政独自の財源としては、事業所税くらいのもので千葉市の08年度の同税収は46億円で地方税の2.6%に過ぎない(なお、事業所税は既成市街地を有する自治体や人口30万人以上の自治体にも課税権がある)。他には軽油引取税交付金が同じく48億円で二税合わせても全歳入の3%に過ぎない。これらの税収不足を背景にそれを補う候補として地方消費税の増税が地方六団体をはじめ大きな声になりつつある。

地域間格差が拡大するなか、政権交代で誕生した民主党政権は、地域主権改革を一丁目1番地と位置づけ、戦後の憲法・地方自治体制を大幅に変えようとしている。また、経団連等も究極の行政改革として、都道府県の廃止・道州制をめざして活発な活動を展開しており、こうした両者が一体となって進めようとしていることには十分な警戒が必要である。

住民のいのちと暮らしに最も身近な自治体が、憲法の求める地方自治の本旨にしたがって行財政運営できるかどうか住民自身の力量が問われる時代になっているのではないか、こうした時代に住民の一人として何ができるかを考えていくことが求められている。

(にっくに・まこと)

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