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時潮

2010年夏の参議院選挙を終えて
税制問題特別委員会 委員長 井上 礎幸

参議院選挙が終わりました。選挙結果の評価に対してはいろいろな見方があるでしょうが、一言でいって、「民主党の惨敗」であったと思います。

今回の参議院議員選挙で急遽争点に浮上した「消費税増税」が今後も重要な政治的課題として議論が起こるでしょう。私が野党の政治家であれば、消費税の議論をあおり民主党に増税をさせれば、次の選挙ではかなりの確率で与党が負ける、という筋書きを描きます。しかし、本当にそれでよいのでしょうか、今回の選挙はなぜこのような結果になったのかを改めて考えてみます。

消費税増税はある程度は必要であるという世論調査が出ているという見方もありますが、国民は感覚的に「消費税は国民生活を破壊するものである」、と気づいているからではないでしょうか。財政問題を議論することは良いことであるという見方もありますが、最初に消費税の増税ありきの議論になっているのが最大の問題です。

2010年度の予算によると、歳出が92兆円なのに対し、歳入のうち税収が37兆円で国債等が44兆円、その他10兆円となっており、国債という借金に頼っている予算であることは明白です。国債の発行残高をみましても、637兆円という莫大な金額であり、確かに財政問題は避けて通れないことは理解できます。

しかし、財政再建と掲げながら、法人税については国際競争力という目に見えないもの、効果が計りづらいものを理由として減税の方向を打ち出しています。これはおかしいと考えます。なぜ、法人税は減税ありきで、消費税は増税なのでしょうか?

企業が海外に移転する理由のうち法人税率がどれほど問題なのでしょうか?例えば日本の税率を中国と税率を同じにしたら世界中から工業が誘致できるのでしょうか?私の知る限り中国に進出していく企業は、安い人件費を求めているからではないのでしょうか?または、13億人といわれる中国の人口に魅力を感じて、そこに新しい市場を求めているからではないでしょうか?

また、消費税の増税と法人税の減税をセットにすると、さらに大企業優遇となってしまいます。消費税の問題に輸出戻し税というのがありますが、この金額は輸出上位10社で1兆円といわれています。単純計算で、5%の消費税率アップで2兆円が大企業の懐に入ってなおかつ、法人税の減税を考えている・・・民主党は本当に真剣に税財政問題を考えているのでしょうか。単純に「歳入の金額」を上げることを考え、あるべき税制の姿を真剣に考えていないように思われます。

民主党は、税制改正大綱で「国民の納税者としての意識を高め、より強固な民主主義を構築していくため、納税者自らが所得税及び税額を確定申告することが基本でなければなりません。」とうたっています。個人が確定申告をすることで、一人ひとりが自分の払っている税金を知り、その使い途を真剣に考えることが重要だ、ということだと思います。しかし、消費税は、税金を支払っているという負担感が麻痺するという恐ろしい副作用があります。一方で、そのことは権力側にとっては魅力なのです。

菅総理大臣が消費税増税を打ち出したきっかけとして、ギリシャの財政破たんを目の当たりにしたという、ことが語られていました。しかし、雑誌等のギリシャ問題の分析記事を読みますと、そもそもギリシャでは「統一通貨のユーロ」の信用を背景に多額の公債を発行してきた。しかし、ギリシャには有力な産業がないために結果的に過大な負債を抱えることになったというものです。

確かに、ギリシャは歴史が古く、世界史的にも重要な国であったためその名は有名で、マスコミが騒ぐのはわかります。しかし、農業と観光業が主力といわれるギリシャと日本とでは抱えている問題は当然別であって、同一視すること自体が的外れだと思います。また、そのような程度の認識でしかなかったために、選挙後半では自分の発言を修正せざるを得なかったのではないでしょうか。

まずは、昨年の総選挙で民主党が何を期待されて、政権交代にいたったのか。国民の生活を守るという視点こそ、今一度思い返していただきたいと考えます。

(いのうえ・もとゆき:東京会)


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