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時潮

共通番号制度の導入の危険性
税理士法「改正」問題特別委員会  委員長  吉元  伸  

税と社会保障の共通番号(以下共通番号という)の作業が急ピッチで進んでいる。

菅直人副総理兼財務相は、共通番号の導入について「今年中ぐらいに大体の方向性が見えてくる。来年の国会にでも(法案を)出せる形にできればいい」と述べ、2011年の通常国会で共通番号制を実現させる考えを示し、一定の準備期間をおいて早ければ2014年の利用開始を目指している。新聞報道によると世論調査で納税と社会保障に共通の番号を国民一人ひとりに割り振る制度について、賛成が43%、反対が38%と意見が分かれている。

賛成する意見としては、導入によって正確な所得の把握ができることを期待し、公正な課税を行ってほしいとの要求があることも、昨今の政府関係者の不祥事からもっともの事と思われる。また、国民がカード社会に慣れ、その利便性から公共サービスの速やかな提供を受けたいとの思いも充分に理解ができる。しかし、その反面、膨大な個人情報が国家に集中し、巨大な「歳入庁」という徴収機関が誕生することになる。この共通番号制度の導入が、これから私たちがどのような社会を望むのかという決断を迫られる大きな転換点であることは間違いない。
(1)共通番号制度とは

政府税制調査会の資料によると共通番号制度は次のように記されている。

納税者に広く番号を付与し

各種の取引に際し、納税者が取引の相手に対し番号を「告知」すること

取引の相手方が税務当局に提出する資料情報(法定調書)に番号を記載する ことを義務付ける

納税者が税務当局に提出する納税申告書に番号を記載することを義務付ける 仕組みそれぞれについて検討をしてみよう。

番号は「税制面で利用するには生涯を通じ一人の納税者にひとつの番号を付与」といっているが、社会保険との兼ね合いから全国民・法人に付されることになる。アメリカでは扶養控除欄に共通番号を記載しなければならない。

各種の取引、売買契約書及び領収書などにも番号の記載が必要になると思われる。銀行の口座開設や診療機関への提示はもちろん、カルテ等重要な個人情報にも使用される。

税務当局は納税者からの申告書類と取引先からの支払い調書や会社からの源泉徴収票をマッチングさせることにより、より効率化された税務調査を行うことができる。共通番号制度の導入とそれに伴う法定資料の収集は対をなすものであり、その兆候はすでに出てきている。国税庁は毎年税制改正に際し、国税庁独自の「税制改正意見」をまとめているが、その中で平成21年、22年にわたって8種類の法定資料の創設が提案されていて「報告義務違反には罰則を設ける」としている。

納税申告書の書式が共通番号を中心としたものに様変わりすると思われる。特に消費税については共通番号制度により、帳簿方式からインボイス方式に移行されることになろう。インボイス方式になれば複数税率の採用や簡易課税の廃止がしやすくなり、最近かまびすしい税率アップへの障害も取り除くことができることになる。
(2)税理士業務への影響

税理士業務も共通番号制度の影響を受け、法定資料の作成とその関連の税務調査に代わってくることになろう。法定資料は「税務行政の効率化」の観点から言えばますます増え、そして複雑化することは必然である。書面添付制度の意見聴取の場も膨大な当局の情報の前で、なすすべも無く法定資料の修正や不足分の収集に追われ、より一層税理士業務は税務当局の補助機関化してくることになる。

電子申告の普及も焦眉の急となってくる。情報の整理にはデジタル化は急務であり、紙媒体が一部残るような非効率なことは許されず医療カルテのように法定化の道をあゆむことになるだろう。そもそも電子申告制度も納税者番号制度という頂に到達するための一里塚に過ぎなかったのである。
(3)導入の危険性

共通番号制度は従来からいわれている情報漏洩の問題がある。現在でも情報管理の不備あるいは意図的に個人や法人に情報が本人の知らぬ間に利用・流用されているが、これらのことは漏洩が、公務員の秘守義務だけでは阻止できないことを物語っている。共通番号制度になればより一層、個人の最重要情報が集積されており、大きな被害につながることになる。

しかし、情報管理に十分な対策が立てられたにしても大きな問題は残る。共通番号制度が進んでいる韓国やスウエーデンでは「税務、社会保障、住民登録、選挙、教育、兵役」のすべてを共通の番号で管理している。これらのみならず、すべての行政手続を一元管理するという発想に立ってさらに将来的な拡張を考えると国家の前に私たちは個人的な情報をすべてさらけ出すことになる。国家はこのような情報をどのように利用するのであろうか。共通番号制度の導入は、国家を信頼するとかしないとかに関わらず、国家が国民や納税者を管理していく社会に移行していくことである。私は国家の情報管理は必要最小限度に抑えられるべきであり、それが自由な社会の前提であると思う。

(よしもと・しん:千葉会)

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