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時潮

税制改正の今後
税経新人会全国協議会  副理事長  松田   周平  

1.やるせない気持ち

確定申告の季節がやってきた。毎年この時期私をやるせない気持ちにさせることは、医療費控除である。
一枚何百円という領収書も含め、家族中の医療費の領収書を一枚たりとも洩らさず、かつ一回通院する度にレポート用紙に交通費の明細を記入し、一年間の医療費控除の対象金額を正確に計算してくる給与所得者。源泉徴収票を見ると数百万円の給与収入。近年の医療改悪の下この方がどういう思いで医療費を支出し、家計をやりくりしているかを、領収書の束とレポート用紙から垣間見ることが出来る。が次の瞬間、電卓を叩くまでもなく私は憂鬱感に襲われる。がっかりした気持ちで席を立とうとする納税者。

一方「こんなにかかっちゃった」と一枚何十万円と記入された歯科医の領収書を、明るく持ってくる納税者。「良かったですね。数十万円戻ってきますよ」と笑顔で答える私だが、心の中は晴れない。同じ割合(税率)で還付金額が決まっても良いのではないか。
2.税額控除

民主党のマニフェスト(民主党政策集INDEX)は、所得税改革の推進として所得控除から税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを主張している。言うまでもなく高度な超過累進課税を求める所得税においては、所得控除では高額所得者ほど控除される税額が大きくなるので、税額控除が望ましい。

基礎控除を廃止して、例えば税額基礎控除を創設したとする。憲法論的に言えば、基礎控除は最低生活費非課税の考え方から生活保護の水準である年160万円(所得)、税額でいうなら現行所得税で5%を乗じた8万円、住民税で10%の16万円が必要である。ただそれは財源的に理想論だとし、千歩譲って現行38万円で考えた場合、税額基礎控除は最低所得税1万9千円、住民税3万8千円になる。税額控除なら低所得者も高所得者も一律の金額なので、高所得者の増税分を振り分けられるので、財源的には税額控除を増やすことが可能である。

問題は税金だけに留まらない。国民健康保険料や保育料等福祉制度の負担分を住民税の課税所得で算定しているものについては、当然に税額基準への変更が必要になる。
3.税制改正大綱

年末に大綱が発表された。子ども手当と公立高校授業料無償化の財源として、扶養控除及び特定扶養控除の一部を廃止するという。北野弘久日本大学名誉教授は、「・・・子ども手当の問題は理論上社会保障の問題である。・・・扶養控除等の問題は、憲法の応能負担原則に基づく税制固有の、課税固有の論理の問題である・・・」(『科学的社会主義』2010年1月号)と指摘する。

『07年分申告所得税の所得階級別負担率』によると、所得1億円(負担割合26.5%)までは当然のことながら負担割合は増加していくが、それ以上になると減少していき、所得100億円超は14.2%まで落ち込む。証券優遇税制が超過累進課税制度を破壊した結果である。ここにも財源は眠っている。子ども手当等の創設の趣旨から考えるならば、その財源を扶養控除等の廃止に求めることは誤りである。
4.おわりに

この時期のやるせない気持ちは、税制が正しく改正されてこそ解消する。がっかりして席を立とうとする納税者に私は、「住民税も少なくなるので申告しましょう」と声をかける。「自分の税額を自分で確定してください」と。そう、マニフェストには「確定申告を原則とし、給与所得者については年末調整も選択できるという制度を導入します」とある。

全国協議会としても、税制の大きな転換期にある今日、大きく声をあげていく必要があると思う。皆さんのご意見をよろしくお願い致します。

(まつだ・しゅうへい:東京会)


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