ある日、インターネットの上で自宅の敷地や洗濯物、繁華街をふらつく自分の
姿に出くわしたら、どの様に思うだろうか。赤面の後に、覗かれている不安と不
快感そして怒り!これが普通の人の反応ではないだろうか。
今、ウェブ上で展開されているグーグルの「ストリートビュー」に対して各国
でプライバシーの侵害であるとの批判や裁判が起きている。日本でも40を超え
る地方議会が意見書の採択、福岡弁護士会と新潟弁護士会の会長声明など中止を
求める声が上がっている。
それに対してグーグル社は、「現代では完全なプライバシーなど存在しない」(ペ
ンシルバニアでの裁判)「公道から撮影した画像は基本的に公開が可能」(グーグ
ル社河合敬一氏)と反論する。
この問題での行政の反応は、総務省において7人の作業部会で検討された。作
業部会7名中3名は、当事者であるグーグル社、同種事業を行うNTTレゾナン
ト社、マイクロソフト社の代表である。2009年6月22日総務省は「個人の識
別性がなく個人情報にあたらない」と見解を示した。
2003年4月、防衛庁(当時)が自衛隊の勧誘のため各自治体に住基情報の提
供を依頼し3割の自治体が応じた。石川県の一部の自治体では健康状態や家族の
状況まで情報提供していたことが報道された。
これらは、行政機関の人権に対する認識の一例である。「安全に資する」と称
して防犯カメラの設置、Nシステムの導入が進められ、「住民の利便性に資する」
と住基ネットを導入し、「旅先で病気になっても病歴照会できる」と称して社会保険カードの2011年導入に向けて実証実験を開始するとしてきた。
これらに対する見解は民主党のマニフェスト「内閣府の外局に人権救済機関を
創設する。」からは見えてこない。
1948年12月10日第三回国連総会は「何人も自己の私事、家族、家庭もしく
は通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受け
ることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける
権利を有する。」(世界人権宣言第12条)と宣言した。
コンピューター社会の拡大を受け1974年アメリカでは連邦プライバシー法で
他人の有する自己の情報に対してアクセスを保障し自らコントロールできる権利
(自己コントロール権)を規定。
データの国際流通を背景に1980年9月OECD理事会は加盟国に「プライバ
シー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン」を勧告した。「ガイ
ドライン」では個人情報保護の「最低限の基準」として、「収集制限の原則、デ
ータ内容の原則、目的明確化の原則、利用制限の原則、安全保護の原則、公開の
原則、個人参加の原則、責任の原則」(外務省仮訳)の8原則を制定した。
わが国の「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」はどうだろうか。
利用目的の明示は「行政が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
があるとき」は適用除外(第4条)利用及び提供の制限では「保有個人情報の提
供を受ける者が、法令の定める事務又は遂行に必要な限度で提供に係る個人情報
を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき」
は目的外利用を認めている(第8条)。開示の原則についても制限(第12条)存
否の拒否(第17条)を認め、アクセス履歴の通知は規定されていない。これで
は官の裁量にまかせ自己の尊厳を守ることは困難である。
行政機関の保有する個人情報は膨大である。それだけに厳格な保管、利用の透
明性と制限、国民の監視の保障が求められる。行政機関の人権意識の改革と国民
に人権保障のシステムを担保することなしに「所得の把握を確実に行うために、
税と社会保障制度共通の番号制度を導入する」(マニフェスト)ことは自公政権
と同根である。 |