(1)社会保障番号の導入
プログラムは「社会保障制度の効率化を進めつつ、真に手を差し伸べるべき人に対する社会保障をより手厚くするために、正しい所得把握体制の環境整備が不可欠」であるので、社会保障番号が必要であるといい、「社会保障給付と納税の双方に利用できる番号制度」であるという。 |
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(2)歳入庁の創設
社会保険庁を廃止し、その機能を国税庁に統合する。税と社会保険料の賦課徴収を一元化する。国税と徴収対象や賦課基準が類似するものについて、自治体の希望により地方税等の徴収事務の受託も検討するというのがプログラムの構想である。
これは、「徴税当局が把握した所得に基づき、税・保険料を集めることになり、行政機関の整理統合と共にこれまで社会保険担当部局が個別に行っていた所得調査などの事務」をなくし、「効率的な行政の実現」のためという考えによるものである。
国税分野で把握した個々の納税者の情報を一元化して社会保険担当部局でも活用し、「効率的な行政」の実現をめざすというものであるが、「税と社会保険料の賦課徴収の一元化」の中に個人情報保護法との関係は吸収されるのであろうか、説明がほしいところである。
歳入庁の第一線機関となる税務署の機構が大変革となることが考えられる。税と社会保険料の賦課と徴収だけでなく、先の「給付付き税額控除」の受給申請(還付申告)の調査、給付の作業等、税務行政の肥大化の是非を問わなければならない。税理士業務の範囲も変化することが考えられる。 |
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(3)「納税者権利憲章」の制定と更正期間制限の見直し
プログラムでは「国民の納税者としての意識を高める」ため、「確定申告を原則とし、給与所得者については年末調整も選択できるという制度を導入する。これを実現するにあたって納税者の権利を明確にするために「納税者権利憲章」を制定する」と述べ、また、納税者の権利を守る具体策として1年間の更正請求期間を見直すと述べている。
ここでは、サラリーマンの確定申告権を述べ、それにともない「納税者権利憲章制定」に結びつけているが、国税通則法の一部改正や税務調査における納税者の権利擁護などについては全くの言及がない。納税者の権利についての記述はあまりにも希薄であるといわなくてはならない。しかし、少なくとも「納税者権利憲章制定」という文言が民主党の政策に盛られたことを機に制定の促進とともに内容の充実を図る運動が求められているといえよう。 |
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(4)国税不服審判所の見直し
プログラムでは、「納税者の主張を聞く「国税不服審判所」は民主主義にとって極めて重要な機関」と位置付けている。その位置づけにもとづいて「納税者の権利を十分に確保することを基本に見直す」と述べている。具体的な見直し案は述べられていないが「審判官の多くが財務省・国税庁出身者は問題」という問題意識を持っている。このような問題意識に注目したい。 |
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(5)徴税の適正化
プログラムでは平成21年度税制改革案が示され、「政権獲得後直ちに」「以下の改正に重点的に取り組む」とし、中小法人の法人税率を11%、特定同族会社の役員給与の損金不算入制度の廃止、繰戻還付制度の凍結解除、交際費の全額損金算入など、中小企業対策を掲げているが、その平成21年度税制改革案の中で注目されるのは「徴税の適正化」項目を次のように立てていることである。
罰則の強化や重加算税割合の引き上げ
消費税の還付に係る調査機能の強化
租税条約の乱用等不適切な事案の摘発強化
新規滞納が毎年1兆円弱発生していること、法人・個人で1,000億円近くも加算税が生じていることなどを理由に徴税機関(税務行政)の強権化を図るというものである。なぜ滞納が増加しているのか、なぜ加算税の賦課が増加しているのか、その原因が究明されずに「適正化」を急ぐことに危惧をおぼえる。
以上、民主党の税制改革案をみてきたが、「みてきた」だけで研究はしていないものの、疑問をもった箇所は随所にある。鳩山首相は就任あいさつで「本当の意味での国民主権の政治を実現したい」と述べていたが、歴史的な総選挙の結果は民主主義がどれだけ確立されるのかが問われる。税制も同じである。この民主党税制政策に対し、識者諸兄姉の批判活動や提言活動が広がり、自公政権では実現しなかった民主的な税制改革案が新しい政権の下に実現することを期待したい。 |
(いいじま・たけお) |