論文

合併後の佐渡市の財政状況をみる
東京会  新国  信  


はじめに

今年の全国研究集会は、関信会の担当で新潟県佐渡市で開催される。佐渡市とはどういうところであるのか興味をもって調べてみたので会員、読者の参考になればと思う。は第3次案を、2001年には第4次案まで発表しています。この間、89年の消費税導入をふまえて、第3次案を一部改訂して、「大衆的な消費課税は廃止すべき」ことを盛り込んでいます。

私は、新潟県の隣、福島県喜多方市の出身である。生まれたときは郡制の村であったが昭和の大合併で喜多方市に編入され、小学校入学時は村立学校であったが卒業は市立となっていた。わが故郷は四方を山で囲まれた盆地の中にあり、小学校6年生の修学旅行で新潟に行き初めて海というものを見た。運悪く小雨模様で日本海は荒れており、佐渡島をみることはできなかった。
「佐渡伝説殺人事件」で佐渡を知る

いきなり妙な表題を出したが、名探偵浅見光彦ファンならご存じの内田康夫著の題名である。佐渡島の賽の河原伝説にまつわる連続殺人事件を浅見光彦が解決するストーリーであるが、この本で著者は佐渡島について以下のように紹介している。

佐渡島は薩摩芋の形をした二つの島が、くっついたような格好をしている。北西側の半分を大佐渡、東南側を小佐渡と呼ぶ。一般的にいって、明るく開放的なのは小佐渡側であるのに対して、日本海の荒波に代表される、厳しい自然と立ち向かう秘境の多くが大佐渡にあると考えてよい。もっとも有名な佐渡の金山があるのは、大佐渡側の相川町で、ここは今でも観光の目玉的な存在として、活気がある。しかし大佐渡の賑わいは、西はこの相川、東側の大小佐渡の接点である両津市の市街地近辺までを北限として、あとは急速にさびれてしまう。大佐渡には平野部と呼べるようなところがまったくない。海岸線はほとんど断崖というような狭隘な急斜面を背景とする地形である。
「都市データパック2009年度版」による佐渡市の紹介では

表題の本は東洋経済新報社が全国の市区についてのデータランキングをしたものであるが、そこでは佐渡市は以下のように紹介されている。(以下「都市データパック」)

日本海に浮かぶ、沖縄本島に次ぐ日本第2の島で、江戸時代には江戸幕府の直轄領、天領として佐渡金銀山はその産出量において国内第1位の期間が数百年に渡り続いた。遺跡・文化・景観など、我が国の貴金属鉱山の歴史と構造の全てを典型的に示す物証として、現在世界遺産の登録をめざしている。日本でトキが最後まで生息していた豊かな自然環境。人とトキが共生できる美しい島づくりをめざし、環境に配慮した活動に全力で取り組む。08年秋にはトキが試験放鳥された。
佐渡市の合併

2004(平成16)年3月1日、佐渡島の10市町村は合併し佐渡市となった。面積は、855km2で人口は6.6 万人(08.3末現在)で合併時と比べても4千人弱減少している。新潟県の面積10789km2の7.9%、人口241.3 万人の2.7%である。

「平成の大合併」は、地方分権一括法の施行前から強力な合併推進策を背景にすすめられた。その結果、市町村の数は2000(平成12)年3月末の3,229から2008(平成20)年3月末で1,793となり、この間に1,436ほどの自治体が消滅したことになる。新潟県では112から35になり(07年4月)全国最大の減少率である。これだけの減少であるので、会員、読者の方の故郷の市町村名が消滅した事例も多いものと思われる。

他方では、長野県栄村や阿智村のように合併をしないで「小さくとも輝く自治体」として住民利益をまもる自治体も存在している。

合併特例法が定める財政についての特例措置

小泉内閣の小さい政府論や構造改革の柱として合併はすすめられた。総務省は合併の推進の指針を示して都道府県や市町村を叱咤激励・誘導した。その際に以下のような財政措置がとられた。

合併後10 年間は、合併しなかった場合の地方交付税を全額保証する
公共施設などの建設事業に合併特例債(経費の95%)を認め、元利償還金の70%を交付税で充当する
地域振興や住民の一体感醸成のための基金の積立に合併特例債(経費の95%)を認め元利償還金の70%を交付税で充当する
合併市町村の議員定数を2倍まで増員でき、合併前の議員が2年まで在任できることとする。

合併を機に役所庁舎や文化施設などのハコ物が多く作られた背景には上記のような財政支援が存在していたのである。
決算カードに見る佐渡市の財政

上記のように佐渡市の合併は04年3月1日であったため、決算カードは03年度分から佐渡市として作成された。11ヶ月は10市町村で1ヶ月は1市の合計である。
総務省のホームページで入手できるカードは01年から07年である。以下、これでみた佐渡市の財政状況を紹介したい。

歳入の状況
07年度の歳入合計は452億円で、一般財源が280億円、その他財源が172億円であった。03年度の歳入合計560億円、一般財源が282億円、その他財源が278億円である。その他財源の106億円の大幅減の内訳は、県支出金27億円と地方債37億円で減少幅の6割を占める。合併を機に上記 に関する地方債の増発が想定される。

地方交付税(普通交付税)は、07年度で185億円で03年度の179億円より6億円増加している。新潟県の普通交付税がこの間3098億円から2747億円と351億円(11%)減少しているのに比べると合併推進策 が働いていると思われる。

佐渡市の地方税収入は、59億円で歳入総額の13.2%で合併時の58億円とほぼ同水準を保っている。07年度は所得税から住民税への税源移譲があった初年度である。個人市民税所得割の税収をみると07年度が20.3億円、03年度が16.5億円となって3.8億円増となっている。固定資産税は、07年度で27.8億円、03年度が30.1億円である。市民税と固定資産税の合計で07年度で52.9億円で市税全体の88.7%を占めている。なお、市民税のうち法人市民税は07年度で3.8億円で市税全体の6.5%である。





歳出の状況
07年度の歳出合計は441億円で、性質別で見ると人件費が93.9億円、扶助費が25.2億円、公債費が75.2億円で義務的経費合計194.4億円となっている。

また、物件費が59.8億円、補助費等が33.4億円、投資的経費が83.4億円である。投資的経費のうち補助事業が27.6億円、単独事業が50.9億円である。

03年度の歳出合計は550億円で、性質別で見ると人件費が108.0億円、扶助費が15.9億円、公債費が78.8億円で義務的経費合計202.8億円となっている。

また、物件費が72.9億円、補助費等が36.4億円、投資的経費が163.7億円である。投資的経費のうち補助事業が77.7億円、単独事業が71.0億円である。

両年度を比較すると歳出総額で109億円の減、人件費で14.1億円減、扶助費が9.3億円増、公債費が3.6億円減、投資的経費が80.3億円減、補助事業で50.1億円減、単独事業で20.1億円減となっており投資的経費の大幅減が目につく。これだけの急激な公共事業の縮小は地域経済に大きな影響を与えずに置かなかったことが窺われる。

決算カードからその他の指標について

産業構造(05年、国勢調査から)
第1次産業8789人(24.2%)、第2次産業7777人(21.4%)、第3次産業19711人(54.3%)、合計36277人(100%)、5年前の調査に比し3133人就業者が減少している。この間の人口の減少に相当する。

市役所の職員数等(07年度)
一般職員997 人、うち技能職116 人  教育2人  消防188人  臨時職13  合計で1207人で合併時に比べて177人減、うち技能職30人減、教育と臨時職は変わらず、消防は16人減、合計で188人減となっている。職員給は66.0億円で合併時と比べて7.1億円減である。

市議会議員の数は、合併前の138名から合併で58名に、現在は28名となり、議会費の歳出も合併前の6.78億円から07年度の3.50億円と大幅減となっている。

財政力指数(07年度)
財政力指数は、自治体の実力を示す指標として重要視される。標準的な行政需要を賄うのに必要な基準財政需要額とその自治体の税収等から算出される基準財政収入額との割合でこの割合が1を下回ると普通交付税の交付対象となる。

佐渡市の07年度の財政力指数は0.30で合併時の0.24からは少し上昇しているが自力では3割しか財政需要を賄えない。したがって普通交付税の交付は185億円で歳入総額の40.9%となっている。なお、「都市データパック」によれば財政力指数は全国の734位、自主財源比率は27.9%で702位、交付税依存度は45.2%で753位である。

地方債現在高と実質公債費比率
佐渡市の07年度末の地方債残高は554億円で市税収入59.6億円の9.2年分に相当する。他方、減債積立金残高は5.5億円(地方債残高の1%)で心許ない数字になっている。

実質公債費比率は、16.4%で財政健全化法でいう比率にはまだ余裕があるが、公債発行の許可基準の18%にはそれほど余裕はない。今後、合併にともなう公債償還の増大でこの比率はどう移行するのだろうか。
他の自治体と比べて

合併で歴史のある名称が消えていく中で、佐渡島の10市町村は「佐渡市」という市名を選択した。「旧国の名称であり島の名前でもある。ここはこの名称しかありえない」(「市町村合併で『地名』を殺すな」 片岡正人著)

佐渡島の面積は、淡路島(自治体としては淡路市、洲本市、南あわじ市)の1.43倍であるが人口は逆に淡路島が2.3倍であり、人口密度で見ると淡路島が3.3倍である。
また、佐渡市と人口規模が近い東京・国立市(72,215 人)の面積は8.15km2で佐渡市の1%にも満たないが、国立市の人口密度は8,860人で佐渡市の113倍になる。

年齢別でみると佐渡市は65才以上が34.9%を占め、淡路島の25.7〜29.5%、国立市の17.4%と比べても高齢化率が高くなっている。
佐渡市の産業構造で第1次産業が24.2%であるが、淡路島は13.0〜25.6%で農林漁業就業者が4人に1人となっている。
「都市データパック」からみた佐渡市のすがた

佐渡市は806市区(ランキングでは東京都の区部を除いているので784市)の中で、面積は38 位で上位に、人口は398 位で中位にある。上位として目立つのは、平均年齢が50.8歳で13位 、老年人口比率が34.9%で10位、高齢者の労働力率が37.2%で9位となっている。下位には、納税者1人当たり所得が252万円で712位、人口一人当たりの地方税収額が9.0万円で708位、住宅地地価が1m2あたり14.2千円で713位、年少人口比率は12.0%で713位となっている。

ちなみにランキングは示されないが、東京都港区の納税者1人当たり所得が1,126万円で佐渡市の4.4倍、人口一人当たり地方税収額が31.5万円で佐渡市の3.5倍、住宅地地価が1m2あたり1,458.8千円で佐渡市の102倍となっている。しかし、このような所得格差、税収格差があっても人口一人当たり歳出額でみると佐渡市が66.7万円で東京都港区の52.8万円よりも佐渡市の方が多くなっている。こうした現象は都市住民から見れば地方の優遇とみられる一つの根拠にされているが、住民はどこに住んでいても基礎的な生活条件が確保されなければならないという憲法や地方自治法の精神が国と地方の税財政制度を通じた取り組みの結果であることを理解しなければならない。
おわりに

本年4月から地方財政健全化法が全面施行され、まもなく発表される。健全化指標によっては、再生計画や健全化計画の作成をしなければならない自治体が生まれる。
夕張市の財政破綻は、健全化法の成立を促進するための起爆剤とされた感がある。

バブル崩壊後の国の財政政策のしわ寄せを受け、また平成の大合併と三位一体の改革でさらに厳しさを増してきたところにリーマンショックによる激しい不況にさらされ、地域経済は瀬戸際に追い込まれている地域が多くなっている。
いまこそ、住民の知恵と力に依拠した住民自治が問われている。

(にっくに・まこと)

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