リンクバナー
時潮

田畑一杯に収穫を
税経新人会全国協議会  税制問題等検討委員会委員長  松田  周平  

それは美術館にある名画のようである。数キロ先まで延々と続く水田、そしてその先には標高2,236m、山形県と秋田県にまたがる鳥海山が、裾野いっぱいにその雄姿を見せている。私は毎年欠かさずこの風景も観たく妻の実家を訪れる。5月のGWには代掻き・田植えが行われ、お盆の頃は微風に吹かれる黄金色の穂波が収穫を今か今かと待っている。

平成17年6月に成立した食育基本法という法律がある。第2条・3条・7条では、食育は、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨とし、その推進に当たっては、国民の食生活が自然の恩恵の上に成り立っており、また食に関わる人々の様々な活動にささえられていることについて、感謝の念や理解が深まるよう配慮され、食料の生産者と消費者との交流を図ることにより農山漁村の活性化と我が国の食料自給率の向上に資するよう、推進されなければと謳っている。このような思想は今に始まったことではない。イギリスの哲学者ジョン・ロックは社会を作ったり人間を作っていく教育の基本は食育だと、またその後フランスの哲学者ジャン・ジャック・ルソーは食育は人間形成・国の主人公・社会の主人公を育てていく上で一番大事だと言い、食育は健康教育であり、同時に政治教育と言った。

現在、従来からの減反(生産調整)政策を見直して、価格補償・所得補償すべきか否かが選挙の争点になろうとしている。日本の農業総産出額は96年が10兆3,000億円で、06年は8兆3,000億円に10年で20%減少している。一方で輸入食料品が膨大に増加している。食料自給率の向上が叫ばれている中で減反の押し付けは、単純に考えて矛盾する。私たちは水入りの500mlのPETボトルを130円で買うが、これに米を入れると生産者米価は90円、牛乳を入れると飲用牛だと40円、価格補償は必要である。所得補償をしたら真面目に働かなくなると大臣は言うが、本当だろうか。

減反政策に固執する意見は、農作物と工業製品を同一物として市場経済の論理に当てはめているように思える。何よりも農作物は人間の体内に入り健康な身体を育む命の源であり、工業製品のように安ければよいというものではない。最近の輸入食品の問題はそのことを端的に表している。価格補償も所得補償も他国では自給率向上の政策として行われている。そして人間は食生活を通して自然への畏敬の念を忘れず、地域・環境に配慮し、生産者と消費者の交流の中でより良い社会構築を目指す人間形成が生まれてくる。前述の食育基本法はこのことを目指している。

「小説:日米食糧戦争 - 日本が飢える日」という本が出版された。飢餓の進行が心配されている。飢餓の進行をストップさせることは勿論だが、食料輸出ストップを盾に、日本が他国に従属させられることも大問題である。飽食?の現在においても独立国でないのだから。

30歳になる若者がこの4月に事務所を飛び出した。農業をやりたいからだという。去年まで税理士試験を受験し、仕事も良く出来た。彼を信頼していた飲食店の社長も、収穫できたら食材に使うからと暖かく送り出してくれた。彼の選択が正しかったか否か、その答えは彼の努力と同時に、消費者である我々の応援(彼らへの理解)も不可欠である。米を中心に日本の農作物は世界のトップレベルである。この風土・気候に適した日本の田畑一杯が豊作となるような選択をしたい。

(まつだ・しゅうへい:東京会)


▲上に戻る