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時潮

成年後見人になってみて
税経新人会全国協議会  研究部長  疋田  英司  

老人施設を営む顧問先の依頼で、成年後見人になりました。はじめての経験で当初は戸惑ったものの、顧問先に断りきれない気持ちと好奇心がないまぜになりながら引き受けました。

成年後見を開始した方は、遠縁の親族が近所に住まいしているだけで、近親者のいない80 歳の女性です。収入は厚生年金と遺族年金のみ。少ない預金を取り崩しながら老後を迎え、認知症の進行に加え、体調不全のため寝たきりになりました。親族から満足な介助を受けることが困難なためケアマネの紹介で顧問先老人施設に入居されました。当初は遠縁の方も入居費などを支払っていましたが、次第に滞り始め、挙句は女性の預金から電話代や光熱費の引き落とし先に利用されるなど今後の介護に不安が生じるために成年後見人をたてることになりました。さて、そこから様々な行政機関や企業との格闘が始まりました。

被成年後見人への郵便物の転送を当時の郵便局に依頼しました。個人宛の郵便物は個人のプライバシーにも関わることなので転送しないという対応でした。それでは本人の財産に関わる連絡があった場合に対応できないのでと再三お願いしましたが、個人の信書まで成年後見人が管理するものではないというのが郵政省の見解なので転送しないという理由です。この結果、「ねんきん特別便」は成年後見人には転送されませんでした。

このため、社会保険事務所に行きました。彼女の独身時代の旧姓で調べてみると、昭和19年からの加入が確認できました。社会保障制度の年金が戦時中にスタートしたのかと驚きましたが、実際には戦時中の恩給制度を戦費調達のために労働者にも拡大したのだそうです。年金の支払は将来なので戦費調達には適していたのでしょう。その時期の年金が記録漏れのため支給されていませんでした。

また、過去の住所履歴からも調べたところ、他市でご主人の死後に生命保険会社の外交員になられた事実が判明しました。保険会社の本社が横浜だったのと倒産したため記録が曖昧になってしまい突合せができていなかったようです。

2つの記録漏れが発覚したので、いつごろ受け取ることができますかと尋ねたところ、記録の突合せ作業がたいへん混みあっており、その結果が出るまでお待ちくださいとの返事。できるだけ早くとお願いして社会保険事務所を後にしました。

その4ヵ月後、女性は老衰のため他界しました。生計を一にする親族がいないため、記録漏れが発覚し、追加で支払うことができたとしても、受け取る権限のある方がいないので支給されません。たとえ、民法上の相続人がいても相続することはできません。

先日、その方の遠縁の方や友人による葬儀に参列しました。飾られた遺影は凛々しく元気な頃の彼女の姿でした。そんな彼女が元気な頃に追っかけをしていた氷川きよしの写真を棺に供え式場を後にしました。

成年後見をしている2年間、高齢者の立場を疑似体験することができました。後期高齢者医療制度の導入、介護保険の給付手続など。加えて戦費調達目的の労働者向け年金制度から始まり、ずさんな年金記録と不払い年金など、この国の貧しい年金制度。結果的に権利放棄せざるをえない年金が相当あるのであろうと想像しました。その一方で年金財源を金融商品の投資に失敗し、5.7兆円の赤字を出した年金積立金管理運用独立行政法人、そこの天下り理事長の月給が100万円。投資先の破綻した金融資本には公的資金。そして年金財源の不足を補うために福祉目的の消費税増税・・・。

やっぱり、この国の根本から大鉈を振るわないと、この地獄への螺旋階段は終わらない。

(ひきた・えいじ:大阪会)


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