論文

確定申告期における「申告案内コールセンター」公募の問題点
ー東京地方税理士会会長宛に意見具申ー
  神奈川会  益子  良一  

1. はじめに

2008年9月17日に「確定申告期における『申告案内コールセンター』の税理士業務の外部委託」公募が公告された。
東京地方税理士会としては、「受託する方向で申込書を提出する予定である」と、副会長と専務理事宛てに連絡があった。

東京地方税理士会では、確定申告期における「申告案内コールセンター」を今年(2008年)3月には行っていないので、今回の公募が初めてということになる。

確定申告期における「申告案内コールセンター」の公募は、ある面では、確定申告期における「無料申告相談」の公募以上に、税理士法や税理士制度を根底から覆す問題点や矛盾点を持っていると考える。

会長から、副会長及び専務理事宛ての連絡文書で、意見があれば会長宛てに寄せてもらいたいということなので、次の意見書を会長宛てに提出している。
今後、新人会等でアウトソーシング問題を検討する上での参考としてもらえればと思う。

2. 会長宛て意見書

東京地方税理士会会長朝倉文彦殿

「確定申告期における『申告案内コールセンター』の税理士業務の外部委託」公募についての意見

2008年9月22日
東京地方税理士会副会長益子良一

東地税20第191号・平成20年9月19日付「確定申告期における『申告案内コールセンター』の税理士業務の外部委託」の公募について、意見を申し上げます。

(意見)
「本会といたしましては、受託する方向で申込書を提出する所存でおります」とありますが、「公募についての説明書」及び「仕様書」並びに「契約書」の内容から判断する限りにおいては、強制加入団体である税理士会が「受託する方向で申込書を提出する」ことに反対します。

この問題は、一単位会の問題ではなく、全国の税理士会及び税理士会会員に関係する重大な問題です。日税連に対し、「確定申告期における『申告案内コールセンター』の税理士業務の外部委託」に係る問題点及び矛盾点について進言し対応方をお願いしてもらいたいと思います。

「確定申告期における『無料税務相談』の税理士業務の外部委託」公募のときのように本会だけでなく、東京国税局管内の各税理士会と連携して、申し込みの段階から問題点の改善に向けての対応をしてもらいたいと思います。

(理由)
(1)「仕様書」の「2 委託業務の概要」では、「東京国税局(以下、「国税局」という。)管内の納税者からの所得税及び個人事業者の消費税並びに贈与税についての法律解釈に関する問い合わせ等に対して、国税局が設置する申告案内コールセンター(以下、「コールセンター」という。)において、電話相談業務(以下、「業務」という。)の実施を委託するものである。」と、完全に、課税庁が行うべき業務の下請けであり、強制加入団体である税理士会が関与する問題ではないと考えます。
強制加入団体である税理士会は、人材派遣会社ではありません。

電話相談業務の中に、税理士法に抵触する部分があるので、税理士会が関係しなければならないとすれば、例えば、関連諸機関である「税理士協同組合」等にお願いして、本会が税理士の募集等で便宜を図るほうがよいと考えます。いづれにしても、「確定申告期における『申告案内コールセンター』の税理士業務の外部委託」を「税務支援」と位置づけることは難しく、受託した機関は、電話相談業務に従事する希望者を募集するしか方法はないと考えます。

(2)契約書の内容は、「確定申告期における『無料税務相談』の税理士業務の外部委託」と同じ内容です。契約書の問題点として、とりあえず3点申し上げます。

1. 契約書が「委任契約」でなく、「・・下記条項により請負契約を締結する」と、「請負契約」になっていることです。

請負契約になりますと、成果物という概念がでてきます。仕様書「4  業務内容等(1)相談業務  イ主たる業務(イ)」では、「所得税及び個人事業者の消費税並びに贈与税についての法律解釈に関する問い合わせに対する回答」となっていますので、「請負契約」にはなじまず、あくまでも「委任契約」にする必要があります。

2. 税理士会に過重な損害賠償責任を求めていることです。
請負契約のため、損害賠償請求の理由として、委任契約の「善管注意義務」ではなく、「瑕疵担保責任」が求められていることです。

契約書の22条「1 乙(税理士会)は、債務不履行その他請求原因のいかんにかかわらず、甲等(税務署等)に損害を与えた場合は、甲等に対し、一切の損害を賠償するものとする。

2 前項の損害には、甲等が乙に対し履行を求める一切の費用、甲等の提供する行政サービスの受領者(以下「納税者等」という。)からクレーム、訴訟手続、その他の不服申立て等(以下「不服申立て等」という。)が提起された場合において、甲等が納税者等に支払いを命ぜられた金額及び甲等が不服申立て等を防御するために要した一切の費用及び訴訟等裁判手続に関する費用を含むものとする。」です。

22条2項では、税理士会で受託すればすべての責任が税理士会にきて、2項では裁判費用、賠償金の支払いまで求めています。課税庁は、世論の手前もあり、また会計検査院との関係がありますから、なにかあれば損害賠償を税理士会に求めざるを得ない契約内容です。当然税理士会としては、それを行った税理士に損害賠償を求める必要がでてきます。

3. 契約書14条1項及び2項は、完全に税務職員の指示に従うことを求めています。

契約書14条(監督等)「甲(税務署)は、本契約の履行に関し、甲の指定する監督職員(以下「監督職員」という)に乙(税理士会)の本業務の遂行を監督させ、必要な指示をさせることができる。

2項乙は、監督職員の監督又は指示に従わなければならない。
3項甲は、第7条第2項ただし書(第7条2項乙は、原則として業務の一部を一括して第三者に委任し、又は請け負わせてせてはならない。ただし、あらかじめ書面により甲と協議し、承認を得た場合はこの限りではない。)により承認した場合には、乙に対し、本契約上の義務の履行に関してなされた乙と第三者との間の契約内容の開示を要求することができるものとする。」

まさに、税理士会が、税務署の下請け機関としての内容です。
強制加入団体である税理士会は、課税庁の下請け機関ではありませんし、ましてや人材派遣会社でもありません。

このような契約内容では、強制加入団体である税理士会が受託して、会員に「税務支援」として、強制することは難しいと考えます。

3. 日税連の対応

日税連の理事会が9月25日に行われ、その席上、私は、確定申告期における「無料申告相談」の公募問題と「申告案内コールセンター」の公募の問題点について、質問と意見を述べている。

しかし、日税連の対応は、端的に言うと、「アウトソーシング問題に関しては来年度以降に改善を目指す」と、東京地方税理士会会長宛てに述べたような問題点や矛盾点があるにも係わらず、既成事実として公募を押し進めようとしている。

さらに、その席上、別紙「税務支援規則・同細則変更案 概念図」(参考資料参照)が配布されたが、会則66条で「税務援助」と「税務指導」を「税務支援」とし、規則5 条で、「税務支援」を「独自事業」と「受託事業」及び「協議派遣事業」とする。そして細則4 条で、「受託事業方式」として、「無料税務相談」「年金受給者相談」「記帳指導」「確定申告期電話相談」(細則6,7,8〜11条)が該当するとしている。

「税務支援制度の実施の基準に関する規則」の変更案については、日税連正副会長会でいろいろな意見が出たので、9月30日に、急遽、日税連税対部正副部長会が開かれ、10月23日の日税連正副会長会に再提出され、来年(2009年)1月22日の日税連臨時総会で決定されるとのことである。

現在(10月10日)の時点では、どのような改正がなされるのか不明であるが、日税連は、「無料税務相談」「年金受給者相談」「記帳指導」「確定申告期電話相談」(細則6,7,8〜11条)が、本当に「税務支援」になじむと考えているのだろうか。

4. おわりに

税理士会は、課税庁の下請け機関ではないし、ましてや人材派遣会社でもない。
税理士への委託業務はすべて公募であるが、税理士会がすべて受託して、東京地方税理士会に限らず各地域の税理士会は、税理士を確保できるのであろうか。

会員に「税務支援」として、強制することは難しいし、仮に従事しない会員に対して、「会則違反」として不利益処分を行ったとき、その会員が司法の場で決着をつけようとした場合に、税理士会が勝訴する確率は非常に低いと考える。

なぜならば、課税庁から公募された「確定申告期の無料税務相談」や「確定申告期電話相談」等の内容は、税理士及び税理士会を課税庁の下請けとしての内容であり、税理士の社会貢献とは異質な事柄であるからである。

そして、そもそも、「無料税務相談」や「確定申告期電話相談」等を「受託事業」として税理士会が受託できるのか、「税理士」か「税理士法人」でなければ受託できないのではないかという根本的な疑問が残る。

確定申告期における「無料申告相談」の公募の問題について東京地方税理士会は、9月1日の公募に応札しなかったが、その後、東京国税局個人課税課の担当官が2 人来会し、意見交換を行い、口頭ではあるが「確定申告期無料相談事業の実施内容については、基本的には従前どおりとの国税局見解」ということで、再公募に応じることとなった。東京地方税理士会の動きを、一単位会の"線香花火"に終わらせることなく、税理士制度を変質させるような動きに対し、税理士会を挙げて反対する運動を進める必要があると考える。

そのためには、確定申告期における「申告案内コールセンター」問題についても、議論を深める必要があるといえよう。

(参考資料:確定申告期における「申告案内コールセンター」の「公募についての説明書」「仕様書」及び「契約書」日税連「税務支援規則・同細則変更案  概念図」
(ますこ・りょういち)

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