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時潮


骨太の方針2008では日本の展望はない
税経新人会全国協議会理事長  平石  共子  

「経済財政改革の基本方針2008」(骨太の方針2008)が6月27日閣議決定された。 骨太の方針としては8回目を数える。福田政権の政策の中枢をなすものと受け止め、 中身の点検をしてみたい。

まず、骨太の方針を策定している機関は内閣府に設置された経済財政諮問会議である。2001年1月に中央省庁再編とともに設置された。官庁や官僚主導の政策運営を官邸主導、政治主導による政策運営に転換しようという趣旨であったが、森政権を引き継いだ小泉政権になって威力を発揮することになる。自民党内や官庁を抵抗勢力と位置付けてたくみに「構造改革」路線に日本中を誘導していった。その「改革」が今日の格差社会を拡大させ、大企業に空前の利益をもたらしたことはいうまでもない。

この会議のメンバー構成は、議長を首相がつとめ、閣僚5名と日銀総裁、残り4名 は民間有識者の10名となっている。民間人のうち2名は大企業の経営者、そのうちの一人は日本経団連御手洗会長である。学者のうち1名は、参議院で野党4党の反対にあい日銀副総裁になれなかった学者でインフレターゲット政策の推進派、もう一人はホワイト・エグゼンプション推進派で、両名ともに構造改革論者という面々である。民間人といっても財界のトップと政府の政策と一体の学者であり、財界主導の政策が公然と決められているということを忘れてはならないだろう。

骨太の方針2008の全体像はA4版で39ページ、章立ては6章ある。まず、第1章では日本経済の課題として4つあげている。第1は成長戦略、第2は地球環境と両立する経済をつくること、第3は、セーフティネット(安全網)を全面的に点検し直し、透き間のない社会保障制度をつくること、第4に生活者・消費者が主役の政府をつくること、とある。

セーフティネット、生活者・消費者が主役の政府は、耳触りが非常にいい響きであり具体的な計画を期待したいが、この方針の中のどこにも見当たらない。

第4章は国民本位の行財政改革とあるが、消費者庁の創設だとしたら愚の骨頂である。

第5章は安心できる社会保障制度、質の高い国民生活の構築とあるが、セーフティネットに該当する対策が見つけられない。むしろ、2011年度中に社会保障カードの導入があげられ、これは年金手帳、健康保険証、介護保険証を一元化するものであり、国民番号制につながるものではないかと心配になってくる。国立国語研究所の外来語意味説明では、「経済的な危機に陥っても最低限の安全を保障してくれる、社会的な制度や対策」とある。最後のセーフティネットといわれる生活保護制度については、その言葉はどこにも出てこない。

第2章は成長力の強化とあり、「開かれた国づくり」の道以外に経済成長はありえないという。「海外に出る国際化」ではなく、「迎え入れる国際化」、これは外資企業と人材の受け入れということのようだ。対日投資の拡大のために、法人実効税率のあり方を検討してビジネスコストの低減等に取り組むとある。これに対して中小企業は、全国316か所に「地域力連携拠点」を整備して新事業展開を支援するとあるのみ。これで中小企業方針といえるのかというほど、お粗末である。

第4章3の歳出・歳入一体改革の推進では、「基本方針2006」、「基本方針2007」を堅持し、2011年度には、国・地方の基礎的財政収支の黒字化、最大限の削減を行い、なお対応しきれないときは社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への先送りは行わないと、消費税増税を匂わせている。

税制改革の重点事項のところでも同様で、少子高齢化の下で、あらゆる世代で広く負担をわかちあい社会保障を支える安定的な財源を確保することを改革のポイントにあげている。

もう一つは、財界要望の法人の税負担水準について国際的状況を念頭に、課税ベースの拡大を含めて対応する。その際、社会保険料を含む実質的な企業負担にも留意するとある。税負担を減らし、社会保険料の企業負担を減らしたいといっているのだろう。

納税者番号の導入に向けた検討を進めるというのも気になる。社会保障カードとの関連が予想される。全般的にやわらかい言葉で書いてあるが、それぞれきちんと意味を持っている。批判的に読み込んでいくことが必要だ。

税経新人会全国協議会の活動は、全国研究集会で一区切りをつけるのが慣例のようになっている。奇しくも、研究集会の6分科会のテーマは、税理士法、消費税、役員給与とこれからの1年の活動の中核となる3つのテーマと一致する。大ナタを振るうのではなく、きめの細かい議論の積みあげをして、職業専門家らしい意見を発し活動していきたい。

(ひらいし  きょうこ・東京会)


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