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時潮

格差社会の再生産
税経新人会全国協議会・税制問題検討委員会委員長  松田  周平  

3月25日、JR岡山駅で無差別殺人事件が、また起きた。18歳の少年が見ず知らずの人を、列車が入る直前ホームから線路に突き落とした。調べに対し「人を殺せば刑務所にいける。誰でもよかった」と供述したという。驚かずにはいられない事件であるが、少年像が明らかになるにつれ二重の驚きに包まれた。少年は3月1日に府立高校を卒業、3年間で欠席が2日までの生徒に贈られる『精勤賞』を受賞、成績はクラスで1・2番、進学希望だった。ところが父親から「貧乏で大学に進学させる金がない」と言われ、「働いてお金をためて国立大学にいきたい」と話していた。前日にはハローワークに行き、事務系の仕事を探していた。

憲法第26条1項は『すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する』、教育基本法第4条は『全ての国 民は・・・経済的地位・・・によって教育上差別されない』と教育の機会均等を謳っている。国際人権規約でも『高校や大学の教育を段階的に無償にする』と定めている(日本は留保)。ところが現実は、学費は教育で利益を受ける学生本人が負担するという『受益者負担』の下、70年に1万2,000円だった国立大学の授業料が現在は53万円余と、公共料金では抜群の高騰である。実態調査(国民生活金融公庫)によると高校から大学まで平均1,045万円かかる。平均年収213万円の母子家庭からは「高校進学の夢も見るなというのか」という悲痛な声が上がっている。そんな中、一部の大学が低所得世帯の授業料免除制度をスタートさせた。

現在相続税を廃止する国がアメリカをはじめ幾つか出てきている。日本では平成15年度『改正』で最高税率の70%から50%への引下げが行われた。一方、基礎控除について税制調査会は、納税割合が4%程度で課税の公平から見直しを明言し、自民党も課税ベースの拡大を視野に入れつつ、遺産取得課税方式を検討している。遺された遺族が無収入であっても生活出来る額と考えるなら、現行の額は高くない。また4%という数字は、生前にそれだけ一部の人に資産が集中している結果であり、そこを改善すべき事を教えている。そもそも相続税には「人間生まれながらにして皆平等」という思想があってよいと思う。競争社会にあって、富裕な家庭の子も、貧乏な家庭の子もスタートラインは同じであるべきだ。そのために資産の再分配は欠かせない。ところが格差社会といわれる今日、資産格差が次世代に引き継がれている。100メートル競争でいえば一部の人は、残り20メートルから走り始めるようなものだ。せめて教育を受ける権利は同じであるべきと、少年と同じ年の子を持つ親として強く思う。

英経済紙フィナンシャル・タイムズとハリス社が欧州5ヶ国と日本・中国・米国の8カ国で5月に行った世論調査によると、スペインで76%、ドイツで87%が「所得格差は大きすぎる」と回答。米国78%、日本64%が「ギャップはひどすぎる」と回答。「グローバル化の波が超富裕層を生み出したため、収入の不平等が多くの国で重大な政治争点になっている」と指摘、「すべての国で過半数の人たちが富裕者への税金を上げて貧しい人たちの税金を下げるべきだと考えている」と報じた。新自由主義経済の税財政政策への一つの警告である。

被害者の方は38歳の公務員で、奥さんと小学1年・幼稚園の姉妹4人家族。自宅前で子供を自転車に乗せて遊ぶ面倒見の良いお父さんだったそうだ。被害者のお父さんは「はらわたが煮えくり返る思い」としながら「日本は法治国家、罪に服して早く更生してほしい」と。全く同感である。二度とこのような痛ましい事件が起きないように・・・・・。
(残念ながらこの後も無差別殺人事件が起きている)
(まつだ  しゅうへい・東京会)


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