時潮

廃止が求められる所得税法56条
税経新人会全国協議会  副理事長    清家  裕  

所得税法56条(以下、56条)とは、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす」という規定である。

この56条廃止の声が大きくなってきた。昨年10月10日、高知県議会は全会派一致で「所得税法第56条の廃止を求める意見書」を採択し、内閣総理大臣、財務大臣、法務大臣に、地方自治法第99条の規定により、次のような意見書を提出した。

「中小業者は、地域経済の担い手として、日本経済の発展に貢献してきた。その中小零細業者を支えている家族従業員の「働き分」(自家労賃)は、税法上、所得税法第56条「配偶者とその親族が事業に従事したとき、対価の支払は必要経費に算入しない」(条文要旨)により、必要経費として認められていない。

事業主の所得から控除される働き分は、配偶者の場合は86万円、家族の場合は50万円で、家族従業者はこのわずかな控除が所得とみなされるため、社会的にも経済的にも全く自立できない状況となっている。家業を手伝いたくても手伝えないことが、後継者不足に拍車をかけている。

税法上では青色申告にすれば、給料を経費にすることができるが、同じ労働に対して、青色と白色で差をつける制度自体が矛盾している。

ドイツ、フランス、アメリカなど、世界の主要国では「自家労賃を必要経費」としている中、大きな見直しを求める声も出ている。税法上も、民法、労働法や社会保障上でも家族従業員の人権保障の基礎をつくるためにも、所得税法第56条を廃止することを求めるものである。」

また、税理士会の平成20年度税制改正の意見書を見れば、全国15の税理士会のうち、東京税理士会をはじめ8つの税理士会が56条廃止の意見を出している。たとえば、東京税理士会は次のような理由で廃止を求めている。

「所得税法は、同一生計親族に支払う対価(給与、地代、支払利息等)を事業所得等の必要経費にせず、またこれを受け取った側の所得としない旨を規定している。
この制度はシャウプ勧告により、世帯単位課税を個人単位課税に変えたときに、要領のよい納税者に対する抜け道封じのためにできたもので、同じ趣旨の資産合算制度は既に廃止されている。
この制度は専従者控除制度や法人成りにより、有名無実になっている。
家庭経済における個人主義的要素が強くなっている昨今は、個人単位課税が近代個人主義の原理に合致している。実態に則さない所得税法56条は廃止すべきである。」

その他、全国女性税理士連盟、近畿青年税理士連盟などの団体も、56条の廃止を求めている。
そして、最近56条の適用を巡って訴訟が相次いで起きている。いわゆる妻弁護士事件、妻税理士事件などである。

56条は戦前の家族主義に基づく世帯単位課税の名残であり、戦後の個人単位課税税制とは相容れないものである。青色申告普及のために、長く残されてきた。時代の変化にともなって、時代に合わなくなり、弊害が噴出してきている。

このような状況から、56条の廃止を念頭において、税経新人会も56条の是非を検討しなければならない時期を迎えているのではないだろうか。

(せいけ・ひろし)


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