時潮

アウトソーシングを、どうみる
- 調査・徴収の事務量確保のためか -
税経新人会全国協議会  副理事長  飯島  健夫  

新しい政治変動が起きた2007年が残り1ヵ月となった。年が明けると2007(平成19)年分の確定申告がはじまる。我々税理士にとっては "税務支援" なる無料納税相談が待ちかまえている。2006(平成18)年分の納税額がある所得税の所得者別の申告状況をみると年金所得者とみられる雑所得者は212万2千人であり、前年比で2万人増である。申告者全体の823万3千人の25.8%になっている。年金所得者は全申告者の4人に1人ということになる。

国税庁は、2006(平成18)年分の確定申告事務を「巡回指導を原則とした集合方式による申告相談体制を一層推進し納税者自らの責任において申告書の作成が可能な体制を構築」したと自己評価している。この結果「今後は巡回指導を原則とした集合方式による申告相談体制の一層の推進を図る」としている。巡回指導とは「肩越し指導」とか「流し込み方式」といわれ、また、集合方式とは「炉端方式」ともいわれ、立ちっぱなしで応対する相談担当者にとってはクタクタになるほどの労働強化になる評判の悪いものである。また、国税庁は、「申告書の作成が可能な体制の構築を一層推進」というが「流し込まれて」頭上から声をかけられる納税者はどう思うであろうか。

このような方式に転換して3年になるが、その理由は、国税庁流にいえば「税務行政を取り巻く環境は、申告者の増加、課税・徴収事案の複雑・困難化する一方、公務員の定員はより厳しい対応が追られ、限られた資源を効果的・効率的に配分」する必要が迫られているからである。

いま、税理士会には国税庁のアウトソーシング(外部委託)事業をめぐって議論が沸騰している。確定申告の無料相談もそのアウトソーシング事業に入る。国税庁は4月6日、日税連に「今後のアウトソーシングについての考え方」を示してきた。それによるとアウトソーシング事業の内容は次の4点になる。1記帳指導、2確定申告期の電話相談の集中化、3相談会場での税務相談(いわゆる「無料相談」)、4年金受給者への説明会。

従来、確定申告期に税理士が行なう税務相談は年金受給者が中心になっていた。国税庁にとってみれば、税務署に訪れる納税者の4人に1人を税理士が分担すれば、計り知れない事務量削減になる。このアウトソーシングをどうみるか、我が新人会でもこの秋にシンポジュウムを開き税理士法等からの検討を試みたところである。日税連は「税務支援の再構築」といい、プロジェクトチームを設置して検討、前述の「2電話相談」と「3無料相談」は国税庁の意向を受けて公募方式で合意した。この問題は新自由主義思想のもと「規制緩和」に端を発したことであるが、どのような角度から論議するかによって結論が変わってくるように思われる。そこで視点を変えてこの問題をみてみたいと思う。

国税庁の中で、アウトソーシング事業の推進をつかさどっているのは監督評価官室である。監督評価官は財務省組織規則405条に規定され、「監督評価官は、命を受けて1国税庁の所掌事務の監察、2実績の評価に関する事務の実施に関すること」をつかさどっている。実際には、全国の国税局、税務署に対してアルバイトの活用及び外部委託の状況について意見聴取等を行なうなど事務運営(税務行政)全般の指導を行なっている部署である。

2007年4月開催の全国国税局長会議資料によると、その監督評価官室の当面の課題は「アウトソーシングの現状と今後のあり方」としている。これをみると、国税庁が考えているアウトソーシングの狙いが浮かびあがってくる。少し長くなるが正確に理解してもらうために会議資料から引用してみたい。

「現状の厳しい定員事情の下、増加する事務量に対応するため更なる事務処理の効率化が求められている。これまでも可能な限り事務のアルバイト化や外部委託によるアウトソーシングを進めてきたところであるが、...調査・徴収事務の事務量を確保していくためにも...今後更に事務処理の効率化が必要である。したがって...今後のアルバイト化、外部委託化の在り方の検討を行なうこととした」。

調査・徴収の事務量確保のためにアウトソーシングがあるのか、税理士会や税理士は税務行政の下請化にされようとしているのか、と問いたい。本来税務当局がすべき納税者サービス事業(税務相談)を民間業者または税理士関連業者に外部委託するということは業務独占と強制入会制をとる現行税理士法の根幹に関わる問題である。税理士制度が崩壊するという危惧の声があがっている。最近の業界誌(週刊税務通信)によれば内部事務の一元化により浮いた人員を税務調査に活用した結果調査件数が増加したという。ここに国税庁の意図があるわけである。アウトソーシングが調査・徴収の事務量確保のためにあることは国税庁のこれまでの施策をみると明らかである。税理士会の論議を期待するものである。

アウトソーシングにかける国税庁の意欲は入札・契約用金額とみられる予算にも現れている。

2007(平成19)年分は34億円(対前年+2億円)、2008(平成20)年分概算要求は53億円(対前年+18億円)であり、2008(平成20)年度の概算要求の骨子は「アルバイト・アウトソーシング活用の推進に重点を置いた」と国税庁は述べている(国税局長会議)。

新自由主義の政治経済政策のもとアウトソーシングを「新時代の税務支援」と見るか、税務行政の下請化という論点でみるか、関係者の大いなる論議を期待するものである。

(いいじま・たけお東京会)


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