時潮

いまこそ国民本位の政治への分岐点に
税経新人会全国協議会  理事長  平石  共子  
9月12日安倍首相の突然の首相辞任表明は、いずれやめるとは思っていたが、前代未聞、誰もが唖然とするやめ方だった。時計を少し巻き戻すと、すでに7月29日の参議院選挙の歴史的大敗で国民は政権与党に厳しい審判を下していた。それにもかかわらず、参議院選挙は衆議院選挙とは違うことを理由に政権の座にしがみついた。

しかし、これは安倍首相個人だけの問題ではなく選挙結果に耳を傾けることなく、続投を容認した政権与党の大罪を見逃してはならないだろう。それにしてもこの11ヶ月間は国民感情とかみ合わない「美しい日本」「戦後レジームからの脱却」を連呼され、先行き暗雲立ち込め、眉をひそめることが多々あった。この辞任表明劇もまったく無責任に政権を放り投げて幕を閉じることは、追い詰められて収拾がつかなくなった証拠といえる。

安倍政権の11ヶ月は衆議院の圧倒的な議席数を背景になんでもやれるという政治をやってのけた。20回以上もの強行採決がそれだ。しかも、教育基本法という準憲法である法律の改悪や国民投票法をあっという間に成立させてしまった。これに加えて、「政治とカネ」の問題、年金問題は何一つ解決していない。閣僚の問題発言があってもやり過ごし、任命責任どころかかばいさえもする、結局は世論によって辞任に追い込まれる。何度繰り返されたことか。

私たちは政治家の責任のとり方とはどうするべきか、いつ、どう行動すべきかを反面教師として大いに学んだ。

自分の任期中に「憲法改正」を実行すると口に出した首相は今までいなかった。自民党の悲願であっても、口に出したら国民からそっぽを向かれることを承知していたからだ。その点、安倍首相は国民の気持ちを無視して言ってのけた。そして1年も持たなかった。これは、これから政権担当する人には学習となったと思いたい。

それにしても、歴史までが塗り替えられようとしている。「南京大虐殺の証拠はない」、従軍慰安婦問題では「日本軍が強制した証拠はない」とする発言、沖縄戦では「集団自決を強制していない」とする教科書検定による書きかえである。

文部科学省が来年4月から使う高校教科書の検定結果を公表して明らかとなったことであるが、沖縄戦集団自決について、なぜいままで合格していた「日本軍に強制された」を「軍が命令した証拠はない」と書きかえさせたのか。文科省は「元軍人が起こした訴訟で命令はしていないという陳述があり、調べた結果、ほかにも命令はなかったという証言があったため、今回から断定的な表現に意見をつけた」とする。

一面的な証言を取り上げて、断言できないとして教科書を改訂させてしまう。この教科書で学ぶ生徒は塗り替えられた歴史を基本にモノを考えることになるだろう。南京大虐殺も従軍慰安婦問題もしかり、証拠があるとかないとかではなく、誰の証言に耳を傾け、事実をどう受け止めるかの問題ではないだろうか。

新自由主義、市場万能主義のもたらした現われが貧富と格差の拡大といえる。国民の生活が崩れかけているいまこそ、国民本位の新しい政治をつくる時を迎えている。

(ひらいし・きょうこ)


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