貧困を打開し 夢のある世の中を
税経新人会全国協議会
組織部長
相田
英男
「日経新聞」(07年5月28日付)の世論調査によると、7月の参院選で重視する政策は「年金・福祉などの社会保障政策」が56%で最も多く、次いで「政治とカネ」の問題、教育改革、格差問題…とつづく(9項目の複数回答)。年金や福祉、格差問題など、くらしの問題が国民の切実な要求である。
■仕事もなく年金もない
昨年、ある所得税確定申告相談会で、年配の建設職人さんが「60才を過ぎたら仕事がもらえなくて困っている」と言ってきた。売上は年間100万円にも満たない。年金はかけていないという。それでは生活ができないから、生活保護を受けてはどうかとアドバイスをした。同じようなケースが2件もあった。無年金の人は仕事がなくなったら生活ができない。死ぬまで働くしかないのである。その命綱の仕事がなくなったらどうなるのか…。
筆者の関与先個人事業者でも所得が少なく、非課税の方々が少なからずいらっしゃる。仕事が年々減って困っていると、毎年のように訴えられる。年金をかけていない事業者も多く、あっても国民年金がわずかである。どうやって生活しているのかと心が痛む。
■広がる貧困化
ワーキングプアは、正社員並みにフルタイムで働いても(またはその意思があっても)生活保護水準以下の収入しか得られない就業者のことといわれている(フリー百科事典「ウィキペディア」)。
では、生活保護水準とはどの程度の収入であろうか。生活保護基準は家族構成や住む地域によって異なり、加算する金額が細かく決められている。東京都新宿区に住むAさん33才と妻29才、9才と4才の子供2人の場合、生活保護基準は月額271,022円、年額で3,252,264円である(「生活と健康を守る新聞」07年4月1日付)。
ワーキングプアにあたる所得の世帯数は、2005年では700万世帯から800万世帯ともいわれ(前出フリー百科事典)、これは全世帯数の16%にあたる。
17年分の申告納税者数を合計所得階級別にみると、300万円以下の者は合計4,625千人、構成比55.7%と半数を超える。これを16年分と比べると、人数で767千人増え、構成比で3.9ポイント増加している。
また、給与階級分布では、300万円以下の給与所得者数は16,916千人で構成比37.6%を占める(いずれも17年分国税庁統計情報)。
所得が300万円以下の者は申告納税者と給与所得者を合わせて2,154万人となる。単身世帯や2人、3人世帯もあり、給与所得者で確定申告をしている者もいるから単純に比較はできないが、上記Aさんの生活保護基準の年額325万円を下回る、年額300万円以下の者が2,000万人を超えているのである。
これらの統計数字には、申告をしても所得がない人と、仕事をしたくても仕事がない人は含まれていない。これらの数字を入れると所得が300万円以下の人はもっと多くなる。
一方、大企業の正社員であっても賃金のうち家族手当や資格手当など社会保障の性質を持つ部分が廃止され、隠れたワーキングプアが顕在化しつつあるともいわれている(前出フリー百科事典)。
■貧困化から身を守るために
最近関与した会社役員の若夫婦も年金未加入だったので、老後のために年金加入を勧めた。奥さんは30才になって老後のことが心配になり、年金加入を考えていたとのことである。
お客様で年金未加入者は意外と多い。最近では、お客様に会うたびに、年金に加入しているかどうか、老後はどうするのかを聞いて相談するようにしている。最低賃金の全国平均は時給673円だが、これを時給千円に引き上げる要求を労働界などがおこなっている。一日も早く実現してほしいものである。
時給673円なら1日8時間、月25日働いても月収134,600円にしかならない。時給千円なら月収20万円になる。これなら、年金や健康保険にも加入できよう。
■夢のもてる世の中に
今の若者には夢がない、夢がもてない時代だといわれている。夢がもてない大きな原因は、終身雇用制を壊し、契約社員や派遣労働などの不安定な雇用を可能にしたことと、老後を安心して暮らせない、まずしい社会保障にあると思う。
現在、パート・アルバイト、契約社員などの非正規雇用者の割合は33.7%で、3人に1人は非正規雇用者である。非正規雇用者は正規雇用者よりも賃金が低く、社会保障もほとんどないのが現状である。
あるネットカフェ難民が「一度落ちたらはいあがれない」といっていたが、非正規雇用者になれば、また、いつ非正規雇用者になるかも知れないすべてのサラリーマンにとっても、いつ自分がネットカフェ難民になるかも知れないのである。
「憲法にもとづく国民の諸権利を擁護することを使命と考える」新人会の会員として、憲法25条が保障する生存権にたって、貧困の打開のために力をつくすことは重要な仕事である。
同時に、貧困の打開は、弱者を切り捨てる冷たい政治に対するたたかいでもあり、その根源である新自由主義とのたたかいにもつながる生きがいのある仕事だと思っている。
(あいだ ひでお・東京会)
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