2007年度税制「改正」に関する意見書 |
税経新人会全国協議会理事長平石共子 |
私たち税経新人会は、憲法に基づく国民の諸権利を擁護することを使命と考え全国各地の税理士1000余名が結集する団体です。私たちは税制のあるべき姿について国民の生存権等を保障している憲法を持つわが国においては、税の負担は能力に応じたものでなければならないと考えています。
この間の税収の低迷は、長引く不況の影響だけではなく、総合累進課税の破壊と法人税の聖域化による減税の結果がもたらしたものです。
私たちは民主的税制論の立場から、税制の中心に総合累進課税に基づく所得税を置くことを求め、応能負担原則に反する消費税増税などの税制改革案に反対し、引き続き民主的税制の構築に向け努力するものである。
今回の税制「改正」について次のとおり意見表明します。
|
1. 国民にのみ増税をおしつけ、大企業や資産家を優遇する税制「改正」に反対する |
納税者である国民すべてに適用のあった定率減税が、昨年度の「改正」により、本年度より完全廃止がすでに決まっており、国民一人ひとり、特に低所得者にとっては税負担の重圧ははかりしれないものがある。所得税増税の先鞭は2004年の配偶者特別控除の原則廃止に始まり、2005年の65歳以上の公的年金等控除額の引き下げ、老年者控除の廃止により、まず専業主婦家庭を直撃、次に高齢者をねらい撃ちしてきた。所得格差の拡大は社会問題となっており、政府税制調査会(以下、「政府税調」という)の答申のなかでも「国民各層が豊かになる税制改革を目指し、次のような視点に立って議論を進めていく」とし、「改革にあたっては、真の社会的弱者への配慮や格差を固定させない取り組みも必要である」と述べている。また、与党税制調査会(以下「与党税調」という)の税制改正大綱においても「これに応える税制の構築に当たっては、国民の所得格差や地域格差、経済社会活動による環境への影響、税制の頻繁な変更による経済取引の混乱回避に留意する必要がある」と述べている。
ところが、税制改正の内容のどこを見ても弱者への配慮や所得格差を改善するような政策を具体的に見つけることはできない。この20年間で日本の所得格差が拡大したことはOECDの貧困率調査でも報告されている。26カ国中第5位の貧困率であり、80年代と比較すると大幅に増加している。これは所得税や相続税の税の累進度が弱まったことが、要因の一つとなっていることは明らかである。
今回の「改正」である大企業への減税や資産家への優遇税制の延長が行われることにより、その減税分は国民の増税で賄われることになる。まったく逆の処方を施し所得格差拡大を助長させるものであり容認できるものではない。
|
2. 圧倒的に減税効果の恩恵を受けるのは大企業であり、減価償却制度の見直しに反対する |
安倍首相の経済成長路線による諮問を受け、政府税調は経済活性化に向けた速やかな対応として、減価償却制度の見直しをあげた。償却可能限度額(95%)を廃止することにより、減価償却費による損金計上額が増大し、初年度の19年度減税規模は国税だけで4,020億円、平年度の減税見込みは5,100億円と試算されている。
しかし、この減税の恩恵を受けるのは設備投資額が巨大な大企業であり、経営難にあえぐ中小企業の中には法定耐用年数による減価償却費を全額費用計上できないケースも多くある。
法人税率は1999年に日本経済が大変な不況に陥ったときに景気対策として、所得税の定率減税、所得税の最高税率50%から37%への引き下げと同時に、34.5%から30%へ引き下げられたままである。定率減税が廃止された今、法人税率の引き上げ、所得税率の最高税率の見直しを検討すべきであり、税率の検討がないままに、課税ベースの浸食をもたらす減価償却制度に手をつけるべきではない。
|
3. 資産家に恩恵をもたらす証券優遇税制の延長に反対する |
政府税調の答申では、「現在の経済状況は、株式市場が活性化し、不良債権問題も正常化するなど、優遇措置導入当時と比べて大幅に改善されている。(中略)金融所得一体課税の方向に沿って、期限到来とともに廃止し、簡素で分かりやすい制度とすべきである。」と述べている。
このような答申を受けながら、与党税調は特例の適用期限を1年延長するとした。
所得格差の拡大が社会問題となっている現在、このような一部の富裕層に巨額な減税をもたらす優遇税制は直ちに廃止すべきであり、1年延長は容認できない。
上場株式の売却益については、03年1月から07年12月までの5年間の期限付きで、10%(国7%、地方3%)に引き下げられていたものである。また、配当金については03年4月から08年3月まで上場株式等の配当等に限り10%(04年1月からは国7%、地方3%)の優遇措置をとっていたものである。所得税の最低税率が10%であるにもかかわらず、所得の性格上勤労性所得とは異なり担税力のある所得に地方税も合わせて10%の税率で分離課税を実施してきたこと自体、異常な状況であったといえる。
|
4. 特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度の廃止を求める |
2006年度の税制「改正」で導入された制度で、2006年4月1日以降開始事業年度から適用であるため、まだ申告はほとんどされていないにもかかわらず、本制度に対する矛盾や反対の意見が出され「改正」となった。適用除外基準である所得基準額が800万円から1600万円に引き上げられることにより、課税の対象となる同族会社は減少すると予測はされる。
しかしながら、この制度自体が個人所得課税と法人課税を混同する法理論上の矛盾を包含し、特定の要件に該当する同族会社のみに課税を強いる不公平な制度であることから廃止以外にないと考える。 |
以上 |