新人会記事

新人会記事
全国常任理事会は06年11月と07年2月の二度にわたり、以下2通の要請書を衆参両院議長、内閣総理大臣・財務大臣、与野党党首に宛てて提出しました。編集部

「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」
2006年11月28日
税経新人会全国協議会理事長平石共子
2006(平成18)年度税制改正において、「特殊支配同族会社の業務主宰役員の損金不算入」制度(以下「本制度」という)が創設されました。本制度創設の趣旨は「会社法制や会計制度など周辺的な制度が大きく変わる機会を捉えて、役員給与の損金算入のあり方を見直すこととし」たものであるとされています(平成18年度「改正税法のすべて」財務省主税局税制第三課)。
私たちは本制度の立法趣旨、立法過程、その影響等を考慮したところ、下記の理由により本制度の廃止を求めるものです。
1  納税者の理解が得られていません
本制度は昨年12月15日の「平成18年度税制改正大綱」(自民党)の中に突如として公表され、つづいて本年1月17日に閣議決定、3月27日に参議院本会議で可決成立されたものです。
中小企業に多大な影響を及ぼす本制度が、このように短期間、かつ、納税者への十分な説明もされず、議論をする時間もなく成立されたことは、あまりにも拙速といわなければなりません。租税法律主義は立法手続にも及ぶと考えます。
2  会社法の理念に矛盾します
会社法は最低資本金制度を廃止したとともに、取締役が1人でも会社設立ができるようにした法律です。しかし、税制で差別的な税負担を強いることは、結果として自由な発想による会社設立を阻害することになり、会社法の理念とは相容れないものです。
3  既存中小企業に多大な影響を与えます
本制度は「会社法制などが大きく変わる機会を捉えて」というのが立法趣旨とされていますが、その適用を余儀なくされる既存の中小企業は予期せぬ影響を受け、他の企業との公平さを欠きます。税本来の使命である「公平の原則」に反します。例えば東京税理士会が行なったアンケートによると、全企業数255万社のうち、62万社の既存の中小企業が影響を受けると推測されています。「法人の適正な経費」を過度に強調する本制度は、日本経済を支える中小企業を萎縮させるものであり、雇用をはじめとする経済全体にも影響を与えかねません。
4  租税理論上に誤りがあります
本制度は「特殊支配同族会社の実態は個人事業者と実質的に変わらない」と述べ、「いわゆる『経費の二重控除』」になるから役員給与のうち給与所得控除相当額を損金に算入しないとしていますが、全くの詭弁であるとともに、個人課税問題を法人課税問題で調整しようとする混同した議論にすぎません。このことは、今日広く指摘されていることです。
5  税制は総合的に議論すべきです
新たに発足した政府税制調査会は、法人税の実効税率を30%台まで下げて2兆円超の減税を目指すとしています。本制度の影響を受けない大企業には大減税、一方で本制度の影響を受ける中小企業には大増税という図式が予想されますが、本制度については、このような税制議論とともに審議されるべきです。

「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」制度の廃止を求める要請書
2007年2月6日
税経新人会全国協議会理事長平石共子
私たち税経新人会全国協議会は、全国19地域に税経新人会を組織する、税理士を中心とする租税及び会計に関する専門家による研究団体です。私たちは、憲法にもとづく国民の諸権利を擁護する立場から、税制・税法・税務行政及び会計制度の民主化を求める諸活動を行っています。私たちは、このような立場から、「『特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入』制度の廃止を求める決議」(別紙)を要請書として提出します。

「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」制度の廃止を求める決議
2007年1月27日
税経新人会全国常任理事会
『特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度について、平成19年4月1日以後に開始する事業年度から、適用除外基準である基準所得金額を1,600万円(現行800万円)に引き上げる。』これは、平成18年12月14日に決定された平成19年度自民党税制改正大綱の一部です。まさに、中小業者の切実な声が政権与党を動かした一瞬でもあります。

平成17年12月15日の自民党税制改正大綱から1年、「あまりにも拙速といわなければなりません。租税法律主義は立法手続にも及ぶと考えます。」と、本制度の廃止を求めた私たちの要請の趣旨が一部受入れられたことになります。私たち税経新人会は昨年11月29日に本制度の廃止を求める要請書を衆参両院議長、内閣総理大臣、財務大臣及び各政党に送り、要請を行ないました。また、各地域会は地元選出国会議員への要請行動を行なってきたところです。

本制度の廃止等を求める運動は、税理士会、全国法人会連合会、商工会議所及び一部地方議会など中小業者を取り巻く関連団体に広がりました。要請事項の正当性とそれを支持する広い世論の力は、厚い壁をも突き崩すことができることの証明です。

しかし、今回の結果によって本制度の矛盾が解消されたわけではありません。私たちは本制度の廃止を求める理由として次の5点を掲げました。

   納税者の理解が得られていないこと。
   会社法の理念に矛盾すること。
   既存中小企業に多大な影響を与えること。
   租税理論上に誤りがあること。
   税制は総合的に議論すべきであること。

今回の大綱で納税者の理解は得られたでしょうか。本制度の一部手直しにより、たしかに納税者の負担は軽減されましたが、「軽減された」という結果だけであって、本制度の不公平性、所得税体系と法人税体系を混淆する制度の矛盾・不合理性が解消されたものではありません。十分な論議もなく決定した制度を、世論におされて一部手直ししたにすぎません。平成16年度の税制改正において、土地建物の譲渡損益の通算廃止が十分な論議の場を持たずに遡及適用されたことは記憶に新しいところです。このようなことがその時々の政権与党によって度々行なわれ、その後に一部手直しすればすむということでは、租税法律主義は成り立ちません。この一点からでも本制度は廃止されるべきものです。租税法律主義の堅持は租税国家の根幹に関わる事柄です。

税制は国家予算を支える最重要政策です。そのための論議は不偏不党でなければなりません。そして「公平」を如何に実現すべきかの論議でなければなりません。『強硬におっしゃる委員の方がいらして、それに対して財務省の方が、じゃあ考えます』(『東京税理士界』2007.1.1 No.600)というような論議で税制が決められていくことは、耐えられないことです。税制審議の公開・参加制を求めるものです。

私たち税経新人会は、同業者、中小業者及び各団体等と協力して、本制度の廃止・絶対撤廃を求め、より一層運動を進めていきます。

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