時潮

憲法施行60年の、いま
税経新人会全国協議会副理事長飯島健夫
第166通常国会が1月25日に召集されました。今年は日本国憲法が1947(昭和22)年5月3日に施行されてから60年目にあたる記念すべき年にあたります。その記念すべき年がいま、危機にさらされようとしています。

憲法「改正」についてはすでに自民党などが「改正案」なるものを発表していますが、その前提としての「手続法」が必要になります。1月26日に行なわれた安倍首相の施政方針演説では「国の姿、かたちを語る憲法の改正についての議論を深めるべきです。」と述べ、「『日本国憲法の改正手続に関する法律案』の今国会での成立を強く期待します」と結ばれています。また、財政関係の施政方針演説では「本年秋以降本格的な議論を行い、2007年度をメドに消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく取り組む」と述べています。

2007年という年は憲法と消費税が大きな焦点となるのではないか。施政方針演説に先立ち、財政問題について大田経済財政担当大臣が1月18日「増税なき財政再建をめざす」と述べ、消費税率引上げを必要としない経済成長の立場を示したといわれていますが、その日の諮問会議では「成長戦略が失敗した場合には2%程度の消費税率の引上げが必要」という試算も示されています。

「増税なき財政再建」という言葉は1981(昭和56)年3月に発足した第二次臨時行政調査会での議論の中でしばしば使われた言葉です。第二次臨時行政調査会は今日の行革運動の起点をなした強力な調査会でしたが、それでも“増税しないでの財政再建”ができたのであろうか。今日の状況をみると、国債発行残高は545兆円(平成18年度)、国・地方の長期債務残高は775兆円(同)、いまなお増加しています。

さらに重要なことは、この間に消費税が導入されたことです。何を以て“増税なし”といえたのであろうか。もっとも、誰のための“増税なし”であったかをみればはっきりします。法人税率は42%(昭和56年4月)から30%に、所得税率は最高60%(昭和63年)が37%(平成19年は40%)に引き下げられています。日本経団連は今なお、法人税率の引き下げを求め、「日本の法人税の実効税率は高い」と主張しています。

実効税率とは、法人税と法人住民税及び法人事業税合計の実質的負担率(調整後税率)をいいますが、日本は年所得800万円超の場合は40.87%です。これを30%台に引き下げよというのが日本経団連の要求です。アメリカは40.75%(法人税・州法人税)、イギリス30%(法人税)、ドイツ39.90%(法人税・営業税)、フランス33.13%(法人税)が各国の状況です。

日本経団連は外国に比して日本の実効税率は高いというが、日本の場合「隠れた補助金」といわれる租税特別措置があるなど税制度が異なる国々と単純に比較することはいかがか。この間の経緯をみると、我々庶民にとってのみ“財政再建なき増税”でしかなかったということができます。

消費税については秋以降論議するという安倍首相の施政方針演説を引用しましたが、それに先立ち香西政府税制調査会会長は、「景気動向に左右されない安定的財源のひとつ。逆進性是正のために軽減税率を導入すべきかも議論したい」(1/26日経)と述べています。これは重大な発言と受け止めなければなりません。「軽減税率の検討」というのは、すなわち基本税率の引上げと同時に複数税率を導入するということであり、複数税率の導入は現在の帳簿方式の変更を意味するからです。

憲法施行60年、九条の戦争放棄はもとより、二十五条の生存権の規定も譲るわけにはいきません。昨今の税制論議は「財源がないから消費税」という論理がまかり通ってはいないか。そのうえで大企業向けの税制改正、さらなる法人税減税が叫ばれています。4期連続で経常増益をあげた上場企業、一方で1997年をピークに低下し続ける平均給与、その過程でワーキングプア問題が発生し、生活保護費削減問題が発生しています。昨年末の『母子加算廃止、弱者を直撃』というニュースは“この国はどこへ行こうとしているのか”衝撃が走りました。財政の所得再配分機能は忘れられているのですか。大企業収益の社会的還元と真の富の再配分が、いま求められます。

憲法施行60年は、私たちに様々な試練を与えてくれます。

(いいじま・たけお:東京会)


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