2007年度税制「改正」の内容が昨年12月14日に自民党が発表した「平成19年度税制大綱」によって明らかになった。その中身は国民をなおざりにした大企業優先の減税、証券優遇税制の温存が図られ、夏の参院選を意識した中小企業向けの改正が一部実現したものの国民生活への配慮は感じられない。一般庶民にとって2007年は定率減税の完全廃止が決まっており負担が重く増えるのみである。この大綱は2週間前12月1日に政府税制調査会が出した「平成19年度の税制改正に関する答申」をもとに作成したという流れになっているので、まず政府税調の答申から検証していくことにする。
政府税調は11月7日首相官邸で総会が開かれ、検討がスタートした。安倍晋三首相の肝いりで新会長に本間正明阪大教授が石弘光前会長に取って代わり、財務省主導から官邸主導へと政府税調の運営の「改革」というふれこみだった。首相の諮問機関として1962年に発足以来、委員人事をはじめ議題や審議ペースは財務省が実質決めてきたので、今回のことは異例中の異例のことだったようである。その本間会長が12月21日に官舎入居問題でわずか1ヵ月半後に辞任に追い込まれた。安倍首相は任命責任を重く受け止めるべきであるが、そんな気はさらさらないようである。
それはさておき、まず、答申から「消費税」が消えた。安倍首相は総裁選の中で消費税論議は2007年の秋以降へと先送りしている。本間税調は「首相の意向」を受けて消費税に封印をしたということだろうが、誰も消費税増税の話がなくなったと思うはずがない。だいたい「諮問」とは、広辞苑によれば「意見を尋ね求めること。下の者や識者の意見を求めること」とある。
ところが、この答申は意見を述べるのではなく安倍政権の代弁をしているに過ぎない。安倍首相は「成長なくして財政再建なしの理念の下、日本経済に新たな活力を取り入れ、経済成長を維持していくことが重要だ」とし、税制の課題として3つあげた。経済の国際競争力を強化し活性化に資する。社会保障や少子化などの負担増に安定的な財源を確保する。子育て支援充実や地方分権推進の目的に応える。
これを受けて、減価償却制度の見直しが、経済活性化に向けた速やかな対応の1番にあげられた。新規取得資産について法定耐用年数内に取得価額全額を償却できるよう制度を見直し、残存価額を廃止する内容である。これは自民税調でも見直し案として大綱にやはり一番にあげられた。
法人課税の減税額は地方税と合わせて初年度は4,500億円、2年目からは毎年8,000億円規模と試算されている。しかも、この減税の恩恵を受けるのは設備投資が活発な一部の製造業や大企業であることは明らかである。
実はこの減価償却制度の見直しは、S日本経済団体連合会から毎年出されている「税制改正に関する提言」には毎回載っていたもので、財界のたっての要望だったのである。
そのほか資本金1億円以下の同族会社の留保金課税の撤廃、ベンチャー企業の育成を支援するためのエンジェル税制の対象企業を拡大、ベンチャー企業の株式譲渡益は2分の1軽減など利益を上げている法人への減税や優遇が目立つ。
上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率(10%)は、金融所得課税一体化を条件に平成19年(度)末に期限到来とともに廃止を求めていたが、大綱では適用期限が1年延長となり、資産家優遇税制は温存された。
特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度については、中小企業団体、税理士会、税理士任意団体から廃止・凍結を求める運動があり、税経新人会も要望書を各政党に送るなどの行動をとった。その結果、大綱では平成19年4月1日から適用除外基準である基準所得金額を800万円から1,600万円に引き上げることとなった。参院選を意識しての改正といわれているが、本来、法理論上欠陥税制であり、引き続き廃止を求める声を止めてはならない。
昨年12月13日に発表された日本経団連の「経営労働政策委員会報告」において、大企業の空前の利益にもかかわらず「競争力強化が最優先課題であり、賃金水準を一律に上げる余地はない」としている。これでは、経済成長路線で国民が潤うことはないことを示している。
今年は4月の統一地方選挙、7月の参院選と国民が政治に審判を下すチャンスの年である。消費税論議を争点とさせ、先送りごまかしを見抜き、崩れかけた日本を是非再生させたいものである。
(ひらいし・きょうこ) |