時潮

政府税制調査会
税経新人会全国協議会副理事長西田啓治
総理大臣の諮問機関である「政府税制調査会」の委員の顔ぶれが総理大臣の交代によって一新された。会長に本間正明氏(大阪大学教授)が選任され、総理官邸主導の運営を強く意識し、従前の財務省や総務省からの影響度を弱めたい意向のようである。そのせいか開催場所も財務省から内閣府に移転した。

本間会長の起用は同氏が小泉内閣時に「経済財政諮問会議」のメンバーであり、持論として経済の活性化及びその持続のために大法人の国際競争力を保持するため、世界の主要国に比して相対的に高くなった法人税課税を低減し、大企業の好業績を国内景気好況の源泉とし、財政改革の原動力として考えているところによるものと見受けられる。これは安倍総理の「成長なくして財政再建なし」の理念に添ったものである。

前会長で留任を予測されていた石氏は財務省の意向から消費税率の引き上げ、サラリーマン増税と言われた「給与所得控除」の約10%程度への引下げを公言していたが、財政支出の見直し・圧縮、景気拡大による歳入増を優先させる考え方の現総理の方針に合わなかったようである。

2006年の税収見積もりが当初予算より4兆円増の50兆円となり、来年度はさらに52兆円となる予測が発表された。大手金融機関の不良債権償却による繰越欠損金の控除もほぼ終わり、納税組になるようであるし、上場企業の過去最高益決算が報じられているのでそれも納得である。この税収増加分は次年度の国債発行の減少原資とされると報じられているが、とかく余剰収入は無駄使いが発生しやすいので注視する必要がある。減税による経済拡大で税収増に結びつく、かつてのレーガン大統領の経済政策に似た効果が期待されるところである。

しかしここで強く主張したいことは、日本社会における大企業の社会公共性(公器としての認識)である。唯一絶対的とは思わないが、大きな部分でその国の経済力がその国民の豊かさを実現する原動力となり、その豊かさが法秩序を守る安定した社会を醸成するものである。そのため大企業の国際競争力には理解を示すが、その成果は国民全員のものである。決して特定の役員や特定の一族に帰属するものではない。その形は国内中小企業への適正価格での発注であり、従業員への給与であり、株主への配当であり、国等への納税である。

この配分率はその時の社会情勢、財政状況により決められるべきである。直近の上場企業の多くは、過去最高益を計上しているがそれに比して給与の伸びはない。これは近年のリストラが影響しており、これによりコストダウンをはかり競争力を増して増収に結びつけた結果の表れであるが、緊急避難的措置としてのリストラを社会は受け入れたが、平時には雇用・労働分配率の向上を取り戻すべきである。

又、大企業は財政赤字を抱える国家に対して納税額を増やすべきである。この時、納税額は法人税率を上げる方が増えるのか、下げる方が増えるのかの見定めがむずかしい。勿論、率を乗ずる所得額の多寡への影響である。

前会長の石氏が新聞社の質問に答える形で、「現在の税収の増加は多分に一時的なもので、これをあてにして財政建て直しの原資とはできない。そのため消費税の増税は避けられないものであり、年金の財源確保としても必要であり、これが年金制度の信頼性を担保するものである」と主張される。又同氏は在任中に前掲の「給与所得控除」の見直しを企図していたようであるが、税収の増加を「税率の引き上げ」「諸控除の取りやめ、引き下げ」と、その方法が安易ではなかったかと思う。経済の活性化により所得の増大を図る。そのための構造改革をすすめる。少なくともこの路線とは違っていたと思われる。

なお、今年度から適用されている「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」制度もここにきて多方面から批判が出ており、「グリーンカード制」以来の凍結・廃止の動きがでてきたようである。この稿を書いている時点ではその実現性はなんともいえないが、これだけの批判の出る税制であることは事実である。

我々税経新人会はこの法案が公表された時点でそのあまりにも拙速なタイムスケジュールのため、Eメールでの各会員からの直接の声として各政党に反対表明をしたのであるが、当時商工会議所をはじめ、各中小企業各団体の法案に対する理解及び影響度が認識できてなかったため、「国民の反対する声はない」と立法化してしまった。今頃になっての凍結論だが、それとてもその根拠は「影響を受ける法人の数が当初見込みよりもかなり多く、これでは来年の参院選が戦えない」であり、法の内容に言及したものではない。

「政府税制調査会」の答申が出れば、次は「自民党税制調査会」の場に議論が移る。「議会制民主主義」を採る我国で、「内閣主導はいかがなものか」の意見もあるが、我々国民は、形より中身である。税制は国家の体をなす重要なものであるが故に、その立案審議には各委員の英知を結集し充分な議論を尽くしていただきたい。

(にしだけいじ)


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