論文

第42回埼玉全国研究集会・分科会報告【第7分科会】 >>第42回埼玉全国研究集会・目次へ
税制「改革」問題
全国協議会税制問題検討委員会
神奈川会益子道子

埼玉全国研究集会の分科会は当初3分科会しかなかったため、急きょ全国の「税制問題検討委員会」が分科会を担当することになった。
分科会の会場は、50名程が入れる会場に47名の参加で、3人掛けの椅子に3人が腰掛けて、一番後ろから会場を眺めると目一杯入っているという感じであった。

この分科会は、新報にも掲載したとおり、「今日の政府の税制改革の現状及び方向性を確認し、今後の国民にとってあるべき税制構築にはどうしたらいいか」について報告し、その報告に基づいて討論を行った。

報告は、浦野広明会員が「税・財政の構造改革路線への対抗」について、奥津年弘会員が「所得課税」、米澤達治会員が「消費税」、菅隆徳会員が「新会社法と中小企業税制」、そして佐伯正隆会員が「住民税と社会保険等の負担増」について、それぞれレジメに従って現状や問題点を報告した。

報告終了後、新国信会員の司会のもとに討論に入ったが、会場から多くの発言があり、報告の内容をさらに充実させることができ、参加した会員の認識が深まったと考える。
会場からの発言及び主に議論された点は、次の通りである。

(1)「法人の事業等の概況に関する書類は法定外資料」について
 
浦野会員が、上記概況書は、条文の構成から法定外文書となることを丁寧に説明し、2007年5月提出分から動きが出てくると予想されるので、それまでに形骸化していく必要があること、この解釈をめぐる動きは様々あると思うが、理論的に反論していくことが必要であると強調した。

会場から、現在、概況書が署の中でどのように取り扱われるのか次のような詳しい説明があった。

現在100%内容の書かれているものはなく、そのために決算書を見ながら追加記入している。

調査選択の材料とし、それを端緒に入っていく。

法定化により強制的に出させる方向に変えていき、行政の便益を図る事が主な目的である。

(2)「消費税」について
 
消費税率は日本4%(国税部分)、英国17.5%、国税収入に対する比率は、日本21.6%、英国21.5%と、税率が異なるにもかかわらず比率は変わらない。
その理由として、英国には、(i)ゼロ税率や超軽減税率などがあること、(ii)非課税の枠が多いこと、(iii)予算との関係(他の税金もしっかり取られている)がある。

消費税導入後18年が経過しており、消費税がなかった時代を知らない成人が出てくるようなときに、今までの運動論でよいのか、運動について再構築していく必要があるのではないか、今後どのような運動をしていくかの議論が大切である。

消費税は、個別消費税と一般消費税の二つがあることを理解する必要がある。個別消費税については、税率を変えることが可能であるが、現在の消費税は一般消費税である。消費税を個別消費税に変えていくという方向で運動していく事が必要ではないか。

一定の財源を期待できる応能負担原則に則った個別消費税を丁寧に解き明かし、国民にアピールしていくことが大切ではないか。

マスコミの責任は大きい。私たち税理士が若い記者(20〜30代)を育てていくことが大切である。なぜならば記者のほとんどが富裕層の子弟で、財務省の発言をそのまま納得して記事にする様な状況なので、税理士が問題点を発言していくことが必要である。

今までは、国税に対する運動であったが、地方税を含め、低所得者に打撃を与えるあらゆる租税について見ていくことが大切である。

(3)「国保・住民税」について
 
医療費を払えないために医者にかからない層も増えており、また医療機関でも支払えない患者の未収金が増えている。

居住用資産の譲渡のとき、特別控除で税額はゼロだが国民健康保険は高額になることも含め、関心をもって運動する必要がある。

税金をどこから取るのか。現在貫かれている考え方は、「広く薄く」で権力を握っている階層のことを考えているので、地道な活動をやっていく必要がある。

国税が改正される流れの中で反映される住民税の増税は、市町村としては積極的にどうすることもできない。地方税を勉強する仲間も入れて運動していく必要がある。

税制が変われば税務行政も変わっていく。税理士の下請化など巻き込まれる危険性がますます増えていくので、税務行政の点も議論の中に含めてほしかった。

税務行政は大きく変化している。質問検査権について、よく理解している会員(古くからの会員)もいるが、よくわからない会員(若い会員)もいるので、秋のシンポジュームでは「質問検査権」をとりあげたい。

(4)「所得税」について
 
所得税は歴史的に必ず分離課税がある。高率の分離課税なら分かるが、累進税率の最低税率より低い税率の分離課税はなくす必要がある。また、住民税に、総合累進課税の要求を入れていく必要がある。

再配分機能は力関係の問題である。「近代資本主義の滅亡につながりかねない」などの主張に対し、日本だけの問題でなく、正体を掴まないと、どこを相手に戦うべきか不明になってしまう。背景に何があるのか、グローバル化が日本の税制にも大きく影響している。

一番怖いのはマスコミの宣伝で、世論作りをしていることである。つまり、情報操作をしている。

消費税に対する根深い反発もあるので、参議院選は大切である。相手も四苦八苦している現状がある。

税制は出来てしまったら潰すのは大変で、出来る前に潰す運動が大切である。新人会として要求を持ち、政策を持つ必要がある。実現性のある運動を他の団体に訴えていくことが必要である。

(5)「国民健康保険」について
 
国保料と国保税の違いがある。東京23区以外の他の市区町村の多くは国保税として延滞税そのものもかかるが、どのように区別されているのか。

その他主な発言として、「地域会での運動論が難しく、ここ数年、方針が提言出来ない状況である。物品税などの発言は目からうろこだった。所得税の概算経費や青色申告会などが今後どのようになっていくか勉強していきたい」、また、会員外の参加者の感想として、議員秘書は、「最前線の納税者と一緒になっている人達の話を聞いて感心している」、運動体の事務局からは、「一緒に運動していきたい」との発言があった。

平石共子理事長からは、討論を受けて次のような発言があった。

1月の新報で「税制を提言する年にしよう」と発言したが、言いっぱなしなので是非やりたいと思う。新人会らしい提言をしていきたい。

特殊支配同族会社については、商工会議所も7月13日に廃止を求める文書を出している。形骸化させる運動を具体的にやっていきたい。学習会などでも理解しづらい内容で税制上問題である。降りかかってきた火の粉であるが、どこまで、私たち税理士が実感しているのか不安である。
最後に、報告者から感想も含めた発言がなされた。
菅: 分担の箇所しか勉強しなかったが、いろいろと勉強になった。特殊支配同族会社のことは知らない人が一杯いる。理解していくよう説明することで怒りが高まってくるのではないだろうか。
浦野: 20年ぶりに大型間接税の反対運動が復活ということで、ぜひ税民投票を知っていただきたい。
米澤: 消費税の問題は深い。運動論の問題が出てきて喚起された。国の側、財界の側、国際競争力、財政赤字といった議論にたいして、サラリーマンは勤務先が赤字になると困るので反論できない。好意的であったり、また諦めに似た論調がある。
佐伯: 消費税について、税率が2桁にならないように、基本的には廃止するつもりで運動していく。国民健康保険料と国民健康保険税の違いを調べてみるが、地方自治体の条例で決めることなので、地方を変えながら国政を変えていく必要がある。
奥津: 政府と自民・公明党は、米軍移転費用について、3兆円ともいわれている支出に同意した。戦後の一時期を除いて、国民の公的負担・国民生活はかつてなく厳しい現状の中で、この法的義務のない従属的な支出は世界でも異常際だっている。貧困率の拡大ともあわせてこの国は異常な方向を向いており、税務・税法の専門家として身近な顧問先・地域で税制を通じてこの現状とあるべき社会を訴えていく必要がある。また、影響力の少なくない機関誌・雑誌などに、政府の増税方向と基本的に変わらない、あるいは推進する論調の論文が掲載されるようになってきた(注)。今後このような論文を批判的に研究し主張していくことも重要になる。

(注)
土居丈郎(慶應義塾大学助教授)「連続講座 税理士のための日本の財政改革」日本税政連 機関誌416号(2006年2月1日)、特に417 号「消費税のあらぬ誤解を解け」、418号「経 済活力確保のための法人税負担軽減」など。
朝日新聞論説誌「論座」2005年12月号大竹 文雄(大阪大学教授)、小原美紀(大阪大学 助教授)「消費税は本当に逆進的か、負担の 『公平性』を考える」

(ますこ・みちこ)


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