論文

第42回埼玉全国研究集会・分科会報告【第6分科会】 >>第42回埼玉全国研究集会・目次へ
激変する福祉と税理士業務
全国協議会福祉ネットワーク
神戸会岡本毅一

社会福祉を全国研究集会で取り上げて、4回目の分科会になる。今回も全国協議会の主催で、メンバーの全てが発表者、記事を書く人がいないということで、私にお鉢が回ってきた。参加者からの報告ということで私の感想も含めて報告させていただきます。私自身が、授産事業を行っている社会福祉法人に監事としてかかわるようになり、法人から相談を受ける立場でいろいろ悩んでいた時期に全国研究集会に取り上げられて、昨年を除き参加し(昨年はNPO法人分科会の発表者)、多くの資料や実践報告により、社会福祉法人への関わりに大いに参考にさせて頂いています。

今回のテーマは表題の通り「社会福祉と税理士」とストレートな課題で行われた。分科会での報告は全部で10本、一人15分程度の報告時間でということ、これでは大変だなと思っていたら案の定、報告者は自分の持ち時間内では十分な報告が出来なくて、せっかくの研究の成果が十分に出せなかったのではないでしょうか。

はじめに、司会の富田偉津男会員(名古屋会)から社会福祉法人に税理士として関わる場が増えるという社会的な要請と税理士としての社会的貢献が要請されている現在、新人会の税理士として避けて通れない問題という発言を受けて。

第1部福祉を巡る状況
 
その1は、障がい者福祉、報告者は神戸会の由岐透会員。「障害者自立支援法の内容と影響」(報告の詳細は税経新報7.8月合併号)。障がい者と「害」を与える人でもなく「がい」と表するべきではという話から始まり、障害者自立支援法は三障害(精神、身体、知的)一元化という評価する点はある。しかし、障害の特性が異なるものを一元化できるのか、利用者負担の増大、障害者区分の導入、新事業体系への移行などで多くの問題点があり、財源不足を理由としてセイフティーネットのない福祉社会になる危険性があると指摘。自立支援ではなくて、障害者自滅法になっている。新事業体系に移行することによって(報酬が月割り単位から日割り単位へ)、施設の収入が極めて不安定となり、人件費などの固定費を維持することが困難になるという現状が話された。

その2は、老人福祉、報告者は九州会の山本友晴会員。「介護保険法改正の内容と影響」(報告の詳細は税経新報7.8月合併号)。新しい介護保険法で「介護予防サービス」を導入して、要介護1の人の多くが要支援になり、介護から見放され、ケアマネプラン報酬の改定でケアプランさえ作ってもらえない介護難民も。軽度の人からは福祉用具の「貸しはがし」、介護予防サービスは「自分でやることが基本」ということで生活援助に時間制限が取り入れられて、必要なサービスが受けられないなど、介護保険の費用の圧縮が先にありきの厚労省との指摘には大いに同感。

その3は、児童福祉、報告者は埼玉会の持田晶子会員。(報告の詳細は税経新報7.8月合併号)「認定こども園の内容と公立保育園の民間委託問題」。女性の社会進出や少子化の進行もある中で、幼稚園は定員割れで経営難に保育所は待機児童の増加という現状から、幼保一元化をめざす。一方公立保育所の民営化が全国で進められる。耳に新しい「認定こども園」が10月からスタート。施設の利用は直接契約になり、利用料も基本的に施設との契約で決定する。子供のためというより、保育分野への企業の参入を促す危険性が。規制改革推進会議は「育児保険」を創設し「要保育度」でサービスの上限を決める、介護保険のこども版が用意されているという。こどもの健全な発育まで、公的責任を放棄し営利企業に任せる方向は、これからの日本を思う時そら恐ろしい。

その4は、障害者自立支援法施行で施設経営はどう変化したか、報告者は名古屋会の富田偉津男会員で「ある施設の事例報告」。障害者自立支援法の施行により、応益負担が前面に出され「働く所なのになぜお金を払わなければならない」というのが現状。利用料が払えなければ、作業所にも通えなくなり引きこもりに。新たに障害者区分が導入されて、使えないサービスが出てくる。障害認定調査の問題点も指摘された。一方、ほとんどの施設が4月以降の収入はマイナスで、施設の運営に大きな影響が出ている。具体的に施設のかかえる厳しい現状が報告された。

第2部福祉をめぐる税制
 
その1は、「社会福祉法人の税務調査事例、収益課税事例」報告者は京滋会の山本龍男会員。京都市から管理委託を受けた社会福祉法人が税務調査を受けて、法人税の収益課税と消費税の追徴課税を受けた事例で、社会福祉事業団体の場合の法人税の収益事業(請負業)の定義。同じ建物内で福祉事業と収益事業がある場合は。委託契約を分離した場合は。という問題提起がされたが、後の討論では発言はなかった。相当難しい問題提起。

その2は、「消費税の原則課税」の実例報告。報告者は京滋会の西田澄枝会員。社会福祉法人で福祉事業、授産事業と収益事業があり、原則課税、個別対応方式の具体的事例。検討項目は特定収入の判定は書類になければ口頭でも良いか。課税仕入の範囲について。という課題が提起された。特定収入の判定はやはり書類が必要ではないか、収益課税については、福祉事業に寄付するなどして赤字になり法人税課税問題はクリアできる。経理区分間の繰り出し、繰り入れは同一法人内の資金移動であり会計を合計すれば特定収入には出てこない。仕入税額控除は福祉事業にかかる部分であっても授産事業に関連する部分は共通経費として按分して算入できるのではないか、という発言があった。

授産事業に対する消費税の課税は、消費税法が制定された段階では非課税であったものが、非課税では一般の取引から排除されるというおそれから、社会福祉法人の方から課税取引に入れてくれという要望を出し、平成3年の改正で非課税取引から除かれたという経緯がある。しかし、現状から見ると非課税取引かゼロ税率とする方向で運動を強化する必要があると会場から意見があった。そもそも授産事業は消費税になじむものではない、自立支援法が施行された現在は「授産事業」という文言はなくなり「就労継続支援事業」「就労移行支援事業」になっており、授産事業ではないといえるかどうか検討材料という発言もあった。

その3は、「保育園は請負業か否か NPO法人等の保育園の収益課税問題を検証する」という埼玉会の河崎陽子会員の報告。保育事業の現状と保育施設(公立・私立、認可・無認可、保育サービスと子育て支援事業)について説明があり、社会福祉法人の認可保育所は児童福祉法による第2種社会福祉事業に該当し非課税。私立(NPO法人立も)の認可保育所は、法人税法上の「請負業」に該当するとして課税対象という事例があり、無認可保育所は課税扱い。認可を受ける基準は同じで、同じ保育を行っているのに課税扱いになるのは公平性を欠くことになる。官から民への流れが強まる中で、この問題についての対処を急いでもらいたいとの提起。

会場からの発言で、市民病院の院内保育所で税務署から、法人税、消費税の課税扱いの話があり、請願書の提出、資料提出などで粘り強い交渉の結果「本来だったら請負業で課税、市の公立保育所とみなして非課税」という回答を引き出した。電話での回答で文書回答を求めたが文書では出せないということに、という貴重な実践報告があった。

第3部経営分析事例
 
その1は、「きょうされん経営分析から見えたこと」と、きょうされん施設経営者会議の事例報告。報告者は埼玉会の松本重也会員。「きょうされん」は知的障害者の共同作業所の全国組織でそこでの経営部会にかかわった報告者による、通所施設、入所施設、グループホームの詳しい経営分析結果の報告があった。現状でもギリギリの経営状態のところが多く、自立支援法施行による経営状況のさらなる悪化が心配。

社会福祉は、「人による人へのサービス」という部分が大半を占めている(授産施設では対公費収入人件費比率77%、入所施設では71%)。 経営の悪化は人件費の削減につながり、人件費の圧縮はそこで働く人々の意欲を喪失させ、次の世代を担う新しい人材の確保が困難になる。正規職員を減らし、パートで対応せざるを得なくなるなど、利用者に対するサービスの低下に直結する問題。福祉は決してボランティア精神だけでは成り立たない。福祉の分野を基本的に支える社会福祉法人の経営の健全化はこれからも強く求めて行かなければならない課題だと痛感した。

その2は、民間保育園経営研究懇話会での報告事例を埼玉会の持田晶子会員が報告。保育園については自治体によって補助金の額が異なるようで、単純に比較できない為に埼玉県下の10の保育園から資料提供をしてもらって経営分析を行った結果の発表があった。同じ県内の認可保育園でも、補助金には相当の差があるが、公費収入分に対する人件費割合は最低でも78%、最高のところは92%にもなっている、当然この保育園は大赤字。10保育園の、換算一人当たりの人件費は、4,183千円になっている。園の経営方針でもあるのか、積立金の残高が一月の運営費に満たないようなぎりぎりの状況という園が半数ある。

第4部税理士業務としての福祉関係者とのかかわり方問題提起
 
第4部は「税理士業務としての福祉関係者とのかかわり方問題提起」という京滋会の山本龍男会員からの報告。社会福祉法人やNPO法人に役員(理事、評議員、監事等)として関与しているケースでは無報酬とか旅費相当額の支給のみ(寄付しているケースも)。税理士として関与しているケースがあるが、顧問契約料は一般企業と比較すると「安い」。定款上役員は無報酬と規定されている場合が多い上に、社会福祉活動はボランティアという意識が一般化している。具体的な関与事例から見ても様々な事で関わっていながら、無報酬という事例が多い。

消費税の免税点が1,000万円に下げられ、授産事業を中心に消費税申告が必要になり、人格なき社団に対する課税を中心に、公益法人への税務調査が強化されている。そういう点からは税理士が社会福祉法人などに関わることを求められることが多くなる。それなりの報酬を頂いて、決算終了後に任意で寄付することでも良いのではという報告。私の経験でも設立2期目の保育園で監事をしていた税理士が退任したので、監事に就任してという話があった。理由は遠方でということだったが、私よりも遠くはない、顧問料がもらえないというのが本音ではなかったか。

報告が終わり休憩の後、福祉現場からの報告として、社会福祉法人埼玉聴覚障害者福祉会の高齢の聴覚障害者の「特養」と「ふれあいの里どんぐり」という聾・聴重複障害者授産施設の現場の職員からの生々しい報告。私自身も同時期に出来た同じ聴覚障害者の特養にかかわりがあり、現場での苦労がよく伝わってきた。どちらも介護保険、自立支援法の施行によって、経営的に大変な状況を抱えていることが、参加者にはよく伝わったのではないか。

会場からの発言は税理士の集まりなので、税制に関する発言をということで、発言も税制に関連した発言が中心だったが、時間が足りない状況で、発言者の提起に対して、十分に深められなかったことは残念でした。今後の研究課題を提起されたように思う。

最後に山本友晴会員から、現場からの報告、市民病院保育諸問題、消費税課税の問題と運動の必要性、税理士としてどう向き合っていくのかなどのまとめが出されて、有意義な半日の研究集会を終了した。

(おかもと・きいち:神戸会)


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